| Interview
urika’s bedroom

− 美しいものと闇、その二面性こそが人生 −
– 簡単に自己紹介からお願いします。
20代後半、強迫観念にとらわれた、足のサイズ28cm、パソコンで音楽を作る人。
– LA拠点ということですが、出身もLAですか。
LAにはしばらくいるけど、出身はアメリカの中西部。
– モデルやスタイリストも行っているという情報をみましたが、これは事実なのでしょうか?もしそうだとしたら、こうしたファッションの活動はあなたの音楽に影響を与えていると思いますか?また、あなたのファッションに対するこだわりや世界観などもあれば教えてください。
モデルやスタイリストということではないな。自分自身ではあまりいいスタイルを持っていると思ってないね。

Photo by Khari Cousins
– 昨今のUSの音楽事情を見ていると、Charli XCXやThe Dareに始まる、アーリー00sの少しハイパーな音楽、そしてのその流れを組み込んだNYのIndie Sleazeカルチャーなど、ひと昔前の若者たちのトレンドを現代に再構築するような動きが顕著に見えます。
あなた自身はそのような元のカルチャーそのもの、あるいは今起こっている、ある種リバイバル的な動きの中の音楽に触れていますか。
実は、幼少期はそのような音楽やジャンルに対して全く無頓着だった。そういうレッテルは一部の人にとってはある“文脈”を作るのに役立っているのかもしれないけどね。リバイバル自体はあまり好きではないけど、古い音楽を参考にすることはあるから気持ちはわかるって感じかな。
– 以前、NYのアーティストにインタビューした時、LAやNYはロンドンのようなシーン全体での一体感があまりないということを言っていました。しかし、最近のNYやLAのシーンを見ていると、untitled (halo)やChanel Beadsやあなたなど、共通点を持ったアーティストが連帯しているように見えます。先日、NYのアーティストと話した時も、嬉しそうにNYのアーティストを紹介してくれました。実際のところ、最近のNYやLAのシーンは数年前に比べて変わってきたのでしょうか?
LAでは探せばいつでも、たくさんのコラボや共同作業がある。僕よりずっと才能のある人たちをたくさん知っているし、彼らは僕にインスピレーションを与えてくれていると思う。
– 今回のアルバム『Big Smile, Black Mire』についてお伺いします。今作の制作はいつからスタートしたのでしょうか。
「Circle Games」が最初に作り始めた曲で、それが2022年だったね。
– 今作はこれまでにYeah Yeah YeahsやDIIVといったアーティストを手掛けてきたChris Coadyをミックスエンジニアに迎えて行われました。彼と一緒に制作するに至った経緯を聞かせてください。
クリスとは初めて会った時に1時間くらいビデオゲームの話をしたんだ。その時に彼から一緒に仕事をしたいという誘いを受けて、その後2人で一緒にやることになったと記憶している。
– “満面の笑顔”と“黒い泥沼”。相反する2つの概念が並列されたタイトルからは、一見して美しいものとその裏に隠れた闇深さの2面性を感じ取れました。タイトルのインスピレーションはどこから来たのでしょうか。
多分、それが人生であって、みんなそうだしどこでもそうだと思う。
– 全体を貫く粗さ、いい意味での解像度の低さはアルバムに不穏な空気をもたらし、その点においてPortisheadに代表されるブリストル・サウンドのアーティストやSlintらスロウコアのバンドととも重なる部分があると感じました。自身ではこのようなアーティストを聴いてきたり、インスピレーションを受けたと感じていますか。
実を言うと、どちらもあまり聴いたことないアーティストなんだけど、TrickyやStina Nordenstamとか、あの時代の音楽はたしかに好きだね。
– 今回のアルバムの中で最も制作が困難だった曲と、最も楽しかった曲をそれぞれ教えてください。
「Metalhead」は繋ぎ合わせの面で一番大変だった。一番楽しかったのは「XTC」。まるで、あの曲の中で3日間生きているような感覚で、人生で他のことは一切考えずにいられた時間だった。僕は音楽で自分の存在が消えてしまうのが好きなんだ。
− たとえ美しいものだとしても、どこか危険さを感じるものでないといけない −
– 音源以外に特筆しておきたいこととして、アートワークとミュージックビデオをあげたいです。まずはアルバムのジャケットについて。他のインタビューで、この絵はJan Gatewoodというアーティストの作品だとお話しされていたのを見ました。この作品からはどのようなインスピレーションを受けたのでしょうか。
Janは本当に溢れた人で、彼の作品にはどれも手触りのいい緊張感があり、僕はそれが素晴らしいと感じているんだ。加えて、彼自身が音楽のことをとてもよく理解している人だから、アルバムともすごくマッチしたんだと思う。
– 絵の中で、うさぎの部分をトリミングしてジャケットに起用したのはなぜですか。
自分でもなぜそうしたのか、いまいちわかってないな。

Children of the Projects. The sequel (Merlin Carpenter 2002/3), 2023. Courtesy of the artist and Rose Easton, London
Photo by Jack Elliot Edwards (LINK)
– 続いてミュージックビデオについてお聞きします。YouTubeチャンネルを拝見しました。楽曲のテクスチャーと呼応するようなざらついた質感、そして儚さをまとった映像が並びます。「Junkie」の概要欄には映像ディレクターにあなたの名前がクレジットされていました。音楽制作以外に、映像を作ることもあるのですか。
なんでも編集したりするのが好きでね。今まであまりやってきてはいなかったんだけど、今後はもっと他の人の映像も作ってみたいな。
– 映像表現において、あなたが大事にしていることはありますか。もし音楽と何か区別している部分があればそれも教えて下さい。
映像はたとえそれが美しいものだったとしても、どこか危険さを感じるものでないといけないと思うんだ。何が起こっているにせよ、どこかで自分の身に起こるかもしれないという危うさを孕んでいる感じで。
– 先日はNY拠点のアーティスト、Chanel Beadsと一緒にツアーを回っていましたね。二人の音楽性からしても至極納得です。Chanel BeadsのShaneは9月にここ日本にも来ました。彼のスタイルの魅力はなんだと思いますか。
Mr.Beadsは様々な感情を一つの曲の中に落とし込んで制作できる人だよね、本当に大好きだ。
– 隣接しているアーティストでいくと、untitled (halo)の作品のプロデュースも手掛けていますね。彼らとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。
メンバー全員ともバンドを結成する前から知っていて、よくLAの周辺でパーティーしたり遊んでいたんだ。
– プロデュースの仕事は自分の音楽制作とは異なり、他者が作ったものがベースとなってそのプロセスがスタートしますよね。自身の作品を作ることとは少し角度の違うこのアプローチについて、どのような部分が面白いと感じていますか。
自身のエゴで先導しないことは、どこか浄化作用があると感じるね。プロデュースの仕事を通して、僕は“彼らの”視点が見たいんだ。そして、何が彼らにとってのベストの形になるのかを考え、最大化していく。その作業自体はとても面白いものだよ。
– 他のアーティストのプロデュースワークは、あなた自身の制作にも影響を与えていると感じますか。
時に、それは自分自身では絶対にやらないようなことをやらせてくれるよ。良い意味でね。
– ここまで色々と聞かせていただきました。最後に2つ質問です。まず、今一番イケていると感じる音楽を教えてください。
Caterina BarbieriとCat Power。
– 最後に一言お願いします。
もし僕の音楽聴いてくれているなら、I love you。ぜひ日本に呼んでください。

Photo by Jack Dione