〈daisuke tanabe〉が2026年秋冬コレクション『season 04 “atom”』 を発表した。

2024年にファーストコレクションを発表した〈daisuke tanabe〉は、映画や小説、写真を元に創作したフィクションをベースに世界各地の伝統的な職人技術と、前衛的なテクノロジーをミックスしたコレクションを展開。実験的なクリエイションはファッションという概念の軽やかさと、ものづくりの厳かさの両面性を表現し、ハイエンドな素材と独創的なパターンを織り交ぜながらそれを体現している。

前シーズンのコレクション「x」では、James Blakeの楽曲「Like the End」に端を発する危機感から、不要な関心の増幅がもたらす社会全体の「無関心」をテーマに据えた。真偽の曖昧な情報が速度優先で拡散される時代において、“x”を未定数や不確かさの象徴とし、揺らぐ真実の輪郭をグレーの階調で、未然の予兆をブルーで表現をした。

今シーズンの「atom」は、その霧を晴らすための答えを出すのではなく、霧の中にいながら希望を見失わないために個人という最小単位へ、視点を落としていく。この 転換のきっかけは、昨年の夏にデザイナーが図らずも耳にした山下達郎氏の「アトムの子」である。

自ずから抱いていたぼんやりとした危機感や不安を追い越し、体温を上げてしまうプリミティブな力。それは「自己肯定」という別の選択が可能であることを、理屈ではなく身体が先に知ってしまう、心地よいバグのような経験。ここで言う「atom」は、これ以上分割できない「不可分なもの」、外部がどれほど個を解体しようとしても奪えない核の比喩である。希望とは、世界が明るくなることを保証する言葉ではなく、今ここにある自分自身を肯定するための、静かな選択であると定義した。

本コレクションの思想的背景には、映画『Blade Runner 2049』が提示した実存主義がある。映画の主人公Kが、「特別な本質」を持つ複製体ではないと知った絶望の淵で、自らの意志による選択により自らの実存(魂)を確立したように、たとえ世界が無機質なグレーの階調に沈もうとも、今この瞬間を肯定すること。その静かな決意こそが、本コレクションにおける「希望」の定義となった。

映画の衣装デザイナー Renée Aprilは、『Blade Runner 2049』をファッショナブルな映画とは捉えず、世界の湿度や汚染、厳しさに従って服を作り、物語に不要な“尖り”をあえて削いだと語る。 さらにKは映画を通して、ほぼ同じ装いで生き延びる。撮影のために同型のコートが何着も用意されたという事実も含めて、衣装は装飾ではなく、環境に耐えるための「ユニフォーム」として設計されている。 〈daisuke tanabe〉はその姿勢を、今季のコレクションに適用した。

この視点を拡張するために、〈daisuke tanabe〉は洗練された機能主義の系譜に着目。1892年創業の〈D. Lewis〉(現〈Lewis Leathers〉)が、航空用装備『Aviakit』を手掛け、第二次大戦期のRAF(英国空軍)のパイロットたちが生存のためにその装備を私費で求めた歴史に、衣服が「装い」から「防護(シェルター)」へと役割を拡張してきた過程を見出した。そしてこのリサーチを元に、各製品の外骨格としてのデザイン画を描いた。

パレットの起点は、伝説的な建築家 / 家具・テキスタイルデザイナーのEileen Grayが描いたラグ『Centimetre』のデザインにあり、彼女が引いた幾何学的なラインを理性、その底に流れる温かみのある配色を感情の象徴として捉え直した。豊かな色彩や手織りの質感は、人が生きるための根源的な情動を示し、抑制されたトーンの中に置かれたブルーとゴールドは、暗さを破るための派手さではなく、静けさの中で確かに残る体温の印である。

中でもブルーは、孤独な空白の中で、自らの位置を特定するための座標として配置。この色を、冷徹な世界の中で絶えることなく燃え続ける「青い炎」として扱っている。シルクとカシミヤのダブルフェイスは、カシミヤのマットな質感の奥から、内なる輝きとして、ベージュゴールドのシルクが覗くよう設計。随所に走るベージュゴールドのファスナーテープも同様に、内側の熱が消えていないことを知らせる、小さなサインである。また、カルガンラムのファーが、幾何学的なシルエットの輪郭をわずかに曖昧にし、ベビーカーフやカシミヤと響き合うことで、コレクションに生命の揺らぎを与えている。

常に今の自分の最大出力を表現すること。次があるという考えを捨て、ひたすら「今」に勢力を注ぎ込むことこそ、黄金の朝日に繋がると信じています。

– daisuke tanabe


daisuke tanabe 2026AW – 『season 04 “atom”』