| Interview
My New Band Believe

ロンドンシーン最高峰のアンサンブル
共作の喜びと制約が生んだモダンクラシカルな音楽
ロンドンシーン最高峰のアンサンブル
共作の喜びと制約が生んだモダンクラシカルな音楽
ルールがあるからこそ、自由になれる。シーンの最前線を疾走した熱狂の渦から離れ、Cameron Picton率いるMy New Band Believeがデビューアルバムで試みたのは、音楽における「編集」の再定義だ。制約と解放を行き来しながら、彼がいかにして新しい音楽言語を編み出したのか、そのプロセスを紐解く。
– バンド名のMy New Band Believeは、中国のホテルで体調不良に苦しんでいたときに思い浮かんだそうですね。
そうそう。あのホテルにいたときは、実はバンドが解散に向かっていた時期で、バンドのためではなく新しい曲を書く試みとしてソロライブを始めていた頃だった。
– black midiが解散したとき、ソロアルバムを作ったり、すぐに別のバンドを始める気にはなれなかったとも書いてありました。あの中国のホテルでの悪夢のような体験が、音楽を作る情熱を再び与えたのでしょうか?
元々、「本格的なソロアルバム」を作りたいとは思っていなかったけど、新しい音楽は悪夢と関係なく作りたいと思っていたんだ。でも、自分が何をしたいのか確信が持てていなかったと思う。そうしているうちに、black midiの中国ツアー中に悪夢を経験したんだ。
– 本格的なソロアルバムを作りたくなかった理由はあるのでしょうか?
僕は常にコラボレーションすることが好きなんだ。これまでの経験で、物事がどう構成されているかは分かっているし、小規模なソロ音楽は作り続けてきた。ただ、自分の持てる力をすべてソロに注ぎ込みたいとは思わなかっただけで。それよりも、バンドとして仲間たちと協力して大きなものを作り上げる方が、長期的にはずっと楽しくて面白いからね。1人ですべてをやるのは、結構寂しいし。

– バンドのプレスフォトが公開されたとき、すぐにThe Velvet Undergroundのセルフタイトル・アルバムが思い浮かびました。意識的にインスピレーションを受けた部分はあるのでしょうか?
決して意識的なインスピレーションというわけではないけど、The Velvet Undergroundは僕の人生において間違いなく重要なバンドだね。ただ、あれはどちらかというと、アルバムカバーに対する視覚的な「遊び」みたいなもので、音楽的にインスピレーションを受けたわけではないんだ。あのぼかしを使ったヴィネットの手法が、The Velvet Undergroundのそれと同じってだけで、Wingsのアルバムカバーでも同じことができただろうしね。だから、重要な意味があるわけではなく、視覚的な繋がりが2つの間にあるってだけなんだ。


– デビューシングル「Lecture 25」は、わずか8日間で完成したそうですね。有機的なキーボードとストリングスが絡み合い、Ben Folds Fiveのような雰囲気を感じさせる、非常に鮮烈な印象を与えるトラックだと思いました。この曲はどのようにして生まれたのでしょうか?
ちょうどcarolineと一緒に仕事をしていた時期で、彼らが自分たちのアルバムを仕上げていたんだ。彼らはミックス作業で忙しすぎて、僕のアルバムのためのスタジオセッションができない時間があったから、家で新しい曲を書いていた。そのとき、曲ごとにそれぞれ異なる「ライティング・エクササイズ(作曲の練習課題)」を課していたんだ。ある曲では「カットアップ」を使ったり、詳しくは覚えてないけど別の曲でもルールを与えていた。そして「Lecture 25」に与えたのは、「他の誰かが書いた文章に音楽をつける」というルールだったんだ。
その文章はDennis Cooperの詩集に収録されているものなんだけど、実際には詩というより、書き起こされた「レクチャー(講義)」のような内容だったんだ。とにかく、そのテキストに曲をつけるというのがアイデアで、そこに僕自身の言葉なども付け加えたのが、この曲の背景にあるアイデアなんだ。
– それで曲名に「Lecture」の単語があるんですね。この1stシングルがリリースされ、デビューアルバム『My New Band Believe』も制作中だということを知った時は嬉しかったです。しかし、このシングル、さらには2ndシングルの「Numerology」はアルバムには収録されないそうですね。なぜなのでしょうか?
単純に、今回のアルバムには合わなかったんだ。でも、2つの曲がいつか別のアルバムに入る可能性がないわけではないよ。このアルバムには非常に独特なムードや感覚があって、もしこの2曲を入れてしまうと、その流れを悪い意味で壊してしまう。曲自体はどちらも気に入っているけど、それらが入るとアルバムとしてうまく機能しなくなると感じたんだ。それに録音も別のセッションで行われて、今回のアルバムには大勢の人が関わっているけど、この2曲とは参加メンバーもかなり違っていたんだ。
– そうだったんですね。「ルール」の話に戻りますが、アルバム制作を始める時も制約を作っていたそうですね。1つ目は「電子楽器を使わないこと」、2つ目は「black midiのプロジェクトに関わったことのあるミュージシャンを起用しないこと」だったそうですが、それは1曲目の「Target Practice」ですでに破られていますね。
あのルールは、実はそれほど厳格なものではなかったんだ。プレスリリースにおいて、「このアルバムはアコースティックで、全員新しい人たちと仕事をした」ということを説明するための一種の方法なだけだった。
1曲目でルールを破ったのは、第3節で、安っぽい電子楽器のようなギターの音に移行するためのナラティブな理由があったから。それとピアニストのFinn Carterは、一度black midiの曲で演奏したことがあるから、厳密にはルール違反だけど、そもそも制約を設けた本当の意図は、これまで何度も一緒にやってきて「ああ、あいつは上手いから彼にしよう」と安易に呼ぶのではなく、新しい人たちと一緒に演奏し、新しい出会いを得ようとしたことにあるんだ。
– その目的通り、Steve Nobleのような即興演奏家やcarolineのメンバーなど、非常に多様なバックグラウンドを持つミュージシャンたちとコラボレーションをしていますね。 このラインナップには興奮しましたが、これらの異なる要素をどのように組み合わせたのかが気になります。音楽的才能だけでなく、編集者のようなスキルも必要だったのではないでしょうか。
本当に楽しいプロセスだったよ。間違いなく時間がかかる作業だった。このプロジェクトの背後にある考えは、「誰でも演奏に参加できる」というもので、今回のアルバムでは、曲ごとに特定の理由や、その人が持つ特定のスキルに基づいて人を選んだんだ。でも、参加したミュージシャンのタイプが互いに衝突したり、曲と合わなかったりすることは全くなかった。また、僕にとって重要だったのは、これは参加しなかった人がそうではないという意味ではないけど、参加者全員が非常に「オープンなリスナー」であり、演奏において相手の音に反応できるアーティストだということ。自分のやりたいことをやるだけという姿勢ではなくね。編集には何時間もかかったけど、僕はそれが好きだし、自分の中に最終的なゴールが見えていれば、とても満足感のある作業なんだよね。
– Kiran Leonardとも共演されていますね。以前、Margeux (marg.mp3)のインタビューで、もっと評価されるべきアーティストを聞かれたとき、あなたは即座に彼の名前を出していました。「TARGET PRACTICE」「IN THE BLINK OF AN EYE」、「ACTRESS」に参加していて、彼の歌詞に対する文学的なアプローチや、独自の陶酔感のあるサウンド展開は、今回のアルバムと多くの共鳴点があるように感じます。制作過程で特に印象に残っている瞬間や、彼から受けたインスピレーションはありますか?
彼はものすごくオープンで親切で、一緒に仕事をしているだけで、あるいはそばにいて話をしているだけで、とてもポジティブな気持ちにさせてくれる人なんだ。それは稀有な資質だと思う。彼がこのレコードに参加してくれたことは、本当に幸運だったね。当初、弦楽器の編曲を彼に頼むつもりではなく、別の人にあたっていたんだけど、carolineのメンバーの誰かが彼に僕がアルバム制作していることを伝えたら、彼が乗り気だということを耳にして。それで、僕もすごく興奮したんだ。
– 4曲目の「Love Story」では、「I’ve got my Kikos on」と〈Kiko Kostadinov〉についてのフレーズが出てきますね。Jockstrapの「Sexy 2」という曲でも〈Kiko Kostadinov〉についての詩が出てきますが、同じロンドンを拠点とする流行りのブランドに対して、何か特定のイメージなどはあるのでしょうか?
そうそう。同じフレーズを使っているけど、彼女(Georgia)は服のことを話していて、僕は靴のことを歌っているんだ。僕はファッションに詳しいわけではないけど、彼の服、特にデザインは大好きだね。彼には非常に強い独自の「声」があると感じるし、自分のやり方を追求すること以外に惑わされることがない。とてもトレンディだけど、彼のデザイン言語自体はこの10年それほど変わっていなく、ただ進化し続けているように見える。他のデザイナーたちが、何が流行るか、何がトレンドかを予測したり、今の流行に流されたりすることに集中しているのとは対照的だと思う。
あのフレーズは単に「自分のお気に入りのものを身につけていて、それを着ることにワクワクしている」という感覚の表現だから、「GUCCIを着ている」とか「Raf Simonsを履いている」とは言い換えられない、固有のフィーリングなんだ。

– この歌詞だけではなく、アルバム全体を通して、あなたは「物語」を歌うことに長けていると思います。強いキャラクターが物語を牽引していくというスタイルにおいて、こういった映画的なキャラクター設定を通じて物語を構築することにどのような魅力を感じていますか?
このレコードでは、さまざまな「視点」を扱おうと試みているんだ。一人のシンガーとして、会話の両方の立場を演じることが好きなんだよね。曲中で視点を切り替えるときに、歌い方をあえて変えないというアイデアも面白いなと思っていて、これによって物語の中にいい具合の緊張感を生み出すことができる。歌い方は変えずに、サウンド面で視点や部屋が変わったことを示すために変化をつけていくことが僕のやりたかったことなんだ。それが一番分かりやすく出ているのが「Target Practice」で、セクションごとに音楽が文字通り「別の部屋」へと移り変わっていくようになっているんだ。
– そろそろ時間がなくなってきたので最後に、日本の読者へコメントをお願いします。
もう一度日本に行くことが待ちきれないです。近いうちに、また会いましょう。

