Special Feature – Brownswood Recordings

近年の活発な文化の流入やSNSを通じて国、地域、人種などの様々な境界がぼやけていることは人々の視聴傾向、そしてジャンルの多様化に大きく影響してきた。新たな価値観の誕生は音楽シーンにおいては非常にポジティブに作用しており、あらゆる音楽が今、進化の過渡期を迎えている。

とりわけ昨今のUKジャズシーンは他に類を見ない圧倒的個性で多くのリスナーを魅了しているのは言うまでもない。ニューオーリンズで誕生したジャズ。この音楽様式がUKに根ざす文化と組み合わさって生じた化学反応は、世界的なムーブメントを巻き起こしている。そしてこの流れの中心にいると言えるのが今回紹介する<Brownswood Recordings>だ。アシッド・ジャズのキーパーソンとして名高いGiles Petersonが2006年に設立した同レーベルは、ジャズを基軸としながらも彼の多様な音楽趣向が随所に反映された作品・アーティストを数多くリリースする。UKならではの文化的リソースから再解釈・再構築されたジャズが、私たちに新たな音楽体験をもたらす。ここでは“UKジャズを世界に知らしめた”と言っても過言ではない<Brownswood>から、期待のアーティスト5組を紹介していきたい。

kokoroko

ロンドンのジャズ・シーン期待の8人組若手実力派集団、kokoroko。<Brownswood>の傑作コンピレーション・アルバム『We Out Here (2018)』を皮切りに、様々なアーティストやメディアから注目されることとなった彼ら。バンドの中心メンバー、Sheila Maurice-Greyを筆頭に繰り出される鮮やかなメロディーは、Fela Kutiを彷彿とさせるアフロ・ビートの要素と、心地良いポップさが程よく絡み合い、作品への中毒性を高める。8月にはデビューアルバム『Could We Be More』のリリースを控える彼ら。今後のUKジャズシーンにどのような影響を与え得るのか。リリースにますます期待が高まる。


Joe Armon-Jones

エクスペリメンタルで、フュージョン色の強さが特徴的なサウス・ロンドンのジャズシーン。その中でも確実にシーンを牽引している存在の一人が、鬼才Joe Almon-Jonesだ。出世作『Idiom (2017)』はエレクトロニック・ミュージックの視点から、繊細ながらも技巧的、それでいてダイナミックな演奏が高評価を獲得した。2019年発表の『Turn To Clear View』では前作の魅力はそのままに、あの頃のHerbie Hancockを想起させるようなアフロ・フューチャリズム的要素を散りばめた、スペイシーな作風が耳を刺激させてくれる。<Brownswood>との接点もあるMoses BoydやNubya Garciaらと共にサウス・ロンドンのシーンを見事に体現する一枚を作りあげた。


Secret Night Gang

続いてはマンチェスターを拠点に活動するバンド、Secret Night Gangを取り上げたい。シンガーソングライターのKemani Andersonと、サックスを中心としたマルチミュージシャンCallum Connellによって結成されたバンド。Giles Petersonから見初められたことからも彼らの実力は折り紙付き。昨年リリースのセルフ・タイトル作『Secret Night Gang (2021)』はジャズの様式を残しつつ、Earth, Wind & FireやStevie Wonderを彷彿とさせる70〜80年代にかけてのディスコ・ファンクの煌びやかさや華やかさ、そして懐かしさを内包させた大名盤となった。ジャンルの垣根が崩れつつある昨今の音楽シーンにおいて彼らの存在からは目が離せない。


STR4TA

続いて紹介するのはST4TRA(ストラタ)。2020年9月、名前を伏せた覆面プロジェクトとして<Brownswood>よりシングル「Aspects」を発表し始動。名門からのリリースということもあり、瞬く間にシーンで注目の的となった。後にこのプロジェクトはGilesとUKきっての名ジャズ・ファンクバンドIncognitoのリーダー、Blueyによるプロジェクトであったことが明らかとなり、注目はさらに加速した。昨年3月には待望のデビュー・アルバム『Aspects』を発表し、70-80’sブリット・ファンクの影響に傾倒して繰り広げるダンサブルでグルーヴィーなサウンドは、ジャズ好きにとどまらず多くの聴衆を虜にした。


DoomCannon

かねてよりNubya Garciaのバンドメンバーとしてシーンを引っ張ってきたDoomCannonが<Brownswood>よりデビュー。7月15日に1stアルバム『Renaissance』をリリースしたばかりの彼だが、そのポテンシャルは未知数。アルバム収録曲の「Black Liberation」や「Times (Feat. Lex Amor)」からも分かる通り、フリー・ジャズのエッセンスが色濃く反映されており、20年代のBLM運動激化におけるNYジャズ・シーンを彷彿とさせる。アーティスト性、そして今後の動向への期待は高まるばかりだ。


いかがだっただろうか。ますます勢いづくUK ジャズシーン。<Brownswood>を中心に、今後どのように新しいジャズの形が展開されていくのか楽しみにしたいところである。先入観も偏見もない、今の若手アーティストが受けるインスピレーション。そして彼らの目、耳、身体を経由して届けられる音楽からは無限の可能性と希望を感じる。多様なカルチャーがひしめき合うUKから、<Brownswood>はこれからも私たちをアッと驚かせる作品をリリースしてくれるだろう。

(文 / Masaki Hashitani)


■Release Information

ARTIST:kokoroko

TITLE:『Could We Be More』

RELEASE DATE:2022. 8. 5

LABEL:Beat Records, Brownswood Recordings

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■Biography

Brownswood Recordings

DJ / レコードコレクターであり、放送作家のGilles Petersonによって設立されたインディペンデント・レーベル。2006年の設立以降、新人アーティストが成長するためのプラットフォームとして、そして既存アーティストが伝統を打ち破るためのスペースとして活動。Gillesの折衷的な趣味のアウトプット先として、初期の作品はオーケストラアレンジ、フルスロットルのJ-ジャズ、クラブに根ざしたソウルミュージックに触れる。UKアンダーグラウンドの新たなジャズアーティストや、ヒップホップを取り入れた斬新なビート、ハバナ発の急速に変化するダンスミュージックなど、多様な作品を数多くリリースする。


■Link

Brownswood Recordings Official Website