Interview – Leftfield
長きに渡ってUKのエレクトロニック・ミュージックシーンを牽引してきたレジェンドデュオ、Leftfield。再始動から実に7年。闘病、うつ、パンデミック。次々と重なる困難の中で描こうとした“繋がり”とは。過去最高の厚みを持った新作、そして今のエレクトロニック・ミュージックの面白さに迫る。
– こんにちは!今回はインタビューに応じてくださりありがとうございます!
お話しできて光栄だよ!
– 始めに、アルバムが完成した今の心境を教えてください。
『This Is What We Do』を完成できて本当に嬉しいね。とてもクリエイティブな体験だった。今回の作品のことを誇りに思うし、完成にとても満足しているな。それと同時に、人々の反応が気になって少し緊張もするけど、それでもリリースできて嬉しいね。
– あなたたちは常に新しい試みを行なってきましたね。結成から5年後の95年にはJohn Lydonとコラボレーションし、その後はAfrica Bambaataa、Roots Manuvaなどをアルバムに招きました。このように常に多才なアーティストたちと、ジャンルに捉われない新しい物を作り出すその原動力は、どのような思いから生まれるのでしょうか。
僕は物事の境界線を動かしたり、自分のことをユニークに表現することが好きなんだ。だからこそ、彼らと一緒に仕事することはすごく自然なことだったと思う。彼らは自身でやっていることが何なのかをきちんと理解しているし、それ故僕も一緒に作品をリリースできて光栄だね。
– 僕は癌の存在を認め、それと人生を共有することができたんだ –
– 再結成を経てリリースされた前作から実に7年。今回の作品のリリースするに至るまでにはどのような変化(精神的・身体的)がありましたか。
ここまではかなりの長旅だった。アルバム制作はコロナが世界を直撃する直前に始まって、コロナ禍で完成した。感情的には「乗り越えたぞ」という表現になっているんだ。僕はうつ病を抱えていて、それが今回のアルバムにも反映されている“自己検証”へのきっかけにもなった。心理療法への関心も描写されているよ。一番困難だったのは、昨年の夏に発症した大腸癌の克服だね。この経験は制作やアルバムの完成に向けて僕を勇気づけてくれた。不思議な生気も身についたと思うよ。今はとても元気だ。
– 今回のアルバムは、パンデミック、そしてNeilの病気の治療など数々の壁を乗り越えた先に完成されたそうですね。そのような困難な状況が続く中で、活動のモチベーションになったものや出来事はありますか。
音楽は僕の人生において大きな部分を占めていて、病気だった期間はなぜか異常にクリエイティブだったんだよね。僕の容体が一番悪かったとき、Adamが色んな重荷を取っ払ってくれた。一方で、癌も僕の一部であって、僕のことを定義したりコントロールしたるすることはなかった。幸いに僕はその存在を認め、トラックを作っているときも人生を癌と共有することができたんだ。
– 今作は3つのトラックでゲストを呼んでいますね。まず初めに「Full Way Round」ではアイルランドのバンドFontaines D.C.より、ボーカルのGrian Chattenを招いています。今回のコラボはどのような経緯で実現したのでしょうか。
ずっとFontaines D.C.のファンだった。彼らの“クソくらえ”な態度や、全員が詩人であることが大好きなんだ。彼らを見るのがすごく好きだし、自然とGrianに惹かれていった。彼の歌詞はとても直感的で視覚的だよね。コラボも素晴らしかったよ。Grianは本当に最高なやつだし、僕たちも最高な経験ができた。楽曲はスタジオで有機体のように徐々に大きくなっていった。
-「Full Way Round」はサイバー・エレクトロニックな空気がマシマシな雰囲気があって、プロディジーや90年代のダンスミュージックシーンとも共鳴するように感じました。この楽曲はどのようなところから着想を得て製作されたのですか。
具体的にどんなところからインスピレーションを受けたかはわからないね。とにかくパワフルでミニマルな曲にしたかった。“サイバー・エレクトロニック”なバイブスがあるっていうのは確かにそうだね。良い表現だ。実はそれを狙っていたんだよ。エレクトロニック・ノイズの壁を作りたかった。でもそれはすごく難しく、Adamという天才がいたからこそ作り得たものだったと思う。
– ジャンルの境界線を押し出したい –
– 続くコラボレーションが「Making A Difference」で作家/詩人のLemn Sissayが参加していますが、このエレクトロニック・ミュージックにスポークン・ワーズを掛け合わせる試みが非常に面白いと思いました。もちろんGrianも語り口調ですが、Lemnに関しては実際に彼のスピーチを使用していますね。ここではどのようなことに挑戦しようと考えたのでしょうか。
Lemnのこの詩のパフォーマンスを見たとき、彼の情熱と興奮にすぐさま持っていかれたんだ。この詩は良いコミュニケーション、教えて乗り越えていくこと、クラス内の偏見について謳っている。大好きな詩だね。Lemnのことは前から知っているし、『Leftism』でも一緒に仕事をしたことがある。僕は彼をテクノという全く異なる環境に置きたかった。この曲にはディストピア的な雰囲気があって、それが聴く人をLemnの世界に引き込んでくれることを願っているよ。
– そして3つ目のコラボが「Rapture 16」、Earl 16と。レゲエ×エレクトロニックがこれほど自然に組み合わさるものかと、とても驚きました(笑)。アルバムを通してものこの楽曲は少し異質だと感じますが、実際お二人から見てこの曲はどのようなポジションを担っていると考えていますか。もし製作に関して何か意図があれば教えてください。
それは面白いね、Earlとは全く違ったことをしようという考えからスタートしたんだ。レゲエのトラックではないね。確かにどこかユニークな場所にいる曲だと思う。レゲエの面白さを祝っているけどもドラムが無い。しかし、レゲエと同じアプローチでEQとディレイをかけている。ここでもまた、僕はレゲエというジャンルで遊んでみることで、このジャンルの持つ境界線を押し出そうとしたんだ。Earlはこの曲の中で、自身がジャマイカのダンスに導かれていった経験を歌っている。僕はこのトラックが大好きだね。
– 冒険、繋がり、人類 –
– アルバムのアートワークには『アフガニスタンの少女』がナショナル・ジオグラフィックの表紙を飾った、Steve McCurryの一枚を起用していますね。今回の作品のテーマから考えると、母と子が手を取り合う様子から人間の“繋がり”のような側面を意識してこの写真を用いたのかと思いましたが、実際のところはどうなのでしょうか。
まさにその通りだよ。冒険、繋がり、そして人類について。僕はSteveが幼少時代を取り上げた『Stories and Dreams』という素晴らしい本に魅了された。すでにアルバムのタイトルが頭の中で浮かんでいた時に、それに合うようなイメージを何日もかけて探していたんだ。『This Is What We Do』… 僕たちは自分の子どもを導き、守る。この写真はどちらが“導く側”でどちらが“導かれる側”なのか、それを問えるのが面白い。母親か、子どもか?人への愛着というものは私たち自身を形づくり、人間性そのものを構築するんだな。
– 今回の作品はNeilが自身のトラウマに直面した状況からの脱却、そして自己の検証の過程を辿ったという点においてパーソナルな側面も持ち合わせていると感じます。そのような点も踏まえて、お二人はリスナーにこのアルバムをどのように受け取ってほしいと考えていますか。
そうだね、このアルバムを聴いて、人々には自分のいる場所について考えてもらいたいな。そして聴きながら踊って楽しんでもらいたい。最後のトラックは、「聴くこと」とそれがいかにパワフルなことなのかについて取り上げているんだ。みんなにはカテゴライズすることやスタイルを決め付けることを忘れてもらえたら嬉しいね。
– 質の悪い音楽を作ることは至極簡単。だからこそ自分に問いかけ続けないといけない –
– UKはエレクトロニック・ミュージックが豊かな発展の歴史を辿っていて、Leftfieldものその流れを最前線で牽引してきたことかと思います。The Chemical BrothersやUnderworldなど、多くのレジェンドたちが引き合いに出されることの多いお二人ですが、特に刺激を受けたアーティスト、または切磋琢磨してきた存在がいれば教えてください。
今あげてくれたアーティストたちとは共に同じ旅をしてきたし友だちでもあるよ。僕は色んなアーティストからインスピレーションを受けてきたものだから、誰かをピックアップするのは難しいね。新しい音楽やエキサイティングなアーティストを探すのも好きで、最近だとOvermonoなんかは面白いね。でも、もし僕の音楽への情熱や活動の勉強をさせてもらっているバンドを一組選ぶとしたらJoy Divisionだね。今まで見たバンドの中で一番興奮するバンドだ…
– 20年代に突入し、UKでは今までにないほどジャンルレスかつ流動的に音楽やその他のアート、カルチャーが出入りしていると思います。長きにわたって音楽やカルチャーの真ん中を見てきたお二人からは今の国内の流れがどのように写っていますか。
実に素晴らしい音楽が生まれているね。しかしながら、自分たちが過去にやってきたことの繰り返しを生んでしまう危険性を孕んでいるのも確かだと思う。質の悪い音楽を作ることは至極簡単なことだし、だからこそ僕たちはエレクトロニック・ミュージックを作るときに自身に問いかけ続けないといけない。今はローファイ・ブリット・ロックシーンの盛り上がりや、小さいクラブにダンス・ミュージックが回帰しているのが面白いと思うよ。「I Love Acid」みたいなイベントを思い出すね。
– 最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
前を向いて思考し、常に問いかけよ。懐古主義はつまらないから。
■ Release Information
ARTIST:Leftfield
TITLE:『This Is What We Do』
RELEASE DATE:2022. 12. 2
LABEL:Virgin Music