明確なバンドのスタンスと鋭利なパンクス精神で現代に訴えるフィメール・ポストパンクバンド、Ms. Machine。バンドの結成経緯から、影響を受けたアーティストまでたっぷりうかがいました。社会現象ともなったあの「ライオット・ガール」の熱が今再び蘇る。

※今回のインタビューではバンドメンバー全員(Vo. SAI、Gt. MAKO、Ba. RISAKO)に回答していただきました。敬称は省略させていただいてます。

バンド結成の経緯について教えてください。

SAI:ものすごく最初からお話しすると、私が10代の時に『Fruits』というスナップ雑誌に掲載していただいていた時があって、それを通じてMAKOとRISAKOがツイッターをフォローしてくれて2人と知り合いました。その後に私がTAWINGSの前身バンドでスタジオ入っていたのですが、その当時パンクがやりたかったので、なんか違うなあと思い抜けて、MAKOとRISAKO、それと現在Golpe Mortalというソロプロジェクトで活動しているYUTAに声をかけました。

ポストパンクバンドということですが、今のような音楽を始めるに至ったきっかけ、理由を教えてください。

SAI:最初はハードコア・バンドとして曲作りをしていましたが、メンバーのスケジュールでドラマーが抜けてビートはDAWを使うようになったこと。それと、私がシャウトするパフォーマンスするのが精神的にしんどくなってしまったので曲調も激しくなくなったのがきっかけだったと思います。

MAKO:SAIの気持ちがついていかないというのと、SAIの曲のマイブームがすごく変わる時期?だったのもあり、その当時、生のドラムからマシンに変えるのがいいかもと思いました。曲の印象が変えやすいので。

RISAKO:心境の変化があったことと、メンバーが元々ポストパンクが好きだったこともあり自然な流れでそういう音楽性になっていきました。意図して作ったところはなく出来上がったものがポストパンクに近いものでした。

バンドが影響を受けているアーティストやバンドはいますか?

SAI:Savages、Perfect Pussy、FELINE、BIKINI KILL、Kaelan Miklaなど。

MAKO:Cocteau Twins、White Ring、 Crim3s、Rolo Tomassi、です。 

RISAKO:個人的なものも含めCrystal Castles、BushTetras、Sonic Youthなど。

ー「海外で制作したという根拠ができた」ー

ボーカルのSAIさんはスウェーデンでの滞在経験があるということですが、スウェーデンへ行くことになった経緯と現地での経験でアーティスト活動に活かされているものがあれば教えてください。

SAI:経緯は話すと長くなるんですけど、まずはきっかけからお話すると、2015年頃にCONDMINIUMというクルーがいたんです。原宿BIGLOVEにみんな通ってて、デンマークのPOSH ISOLATIONというレーベルと親交があったんですよね。カッコよかったんで、輪に入りたかったんですけど入れなくて、みんなデンマークについてディグっているなら隣国のスウェーデンを調べようって思ったんです。(笑)北欧は男女平等トップランクだったのでそのことも興味を持ったきっかけの一つでした。それで経緯は、スウェーデンの音楽や社会のシステム、スウェーデン語を勉強する過程で恋人ができて、その人の部屋が宅録できる環境だったのでソロの曲をレコーディングしに行きました。もう別れちゃったんですけどね。アートワークの写真にフィンランドのミュージシャン、The Gentleman Losersの撮影した写真を使いたかったのでレコーディング終えてフィンランドまで打ち合わせしに行きましたね。現地での経験でアーティスト活動に活かされているものは、海外で制作したという根拠ができたので自信にはなっていると思います。

ー「『主張していいんだ!』と思えるようになったら…」ー

他のメディアでMs. Machineは「フェミニスト・パンク・バンド」と書かれていましたが、この位置付けに関して少し教えてください(バンドとしてのフェミニズムへの向き合い方や考え方など)。

SAI:Ms.Machineの初期はハードコアパンクのバンドシーン、そしてソロはHip Hopというジャンルで活動していて、どちらも男性が多いしミソジニーも存在する場所にいるなあと感じていて。その中で息苦しく感じている女性も多いと感じるので、Ms.Machineが主張することによって、その人達も『主張していいんだ!』と思えるようになったらと思っています。この間海外のメディアからインタビューを受けて『日本ではハッキリとフェミニズムのスタンスをとるバンドがあまりいないけど〜』という質問があり稀有な存在だと感じることもあったので余計に。

MAKO:男女の性差別に限らず、いかなる差別もなくなることを願っています。 

RISAKO:性差別だけではなくこの世に存在する様々な差別に対する違和感に向き合うことが大切だと考えています。それぞれの主張に目を向けて視野が狭くならないよう心がけています。

ファーストアルバムについてです。今回の作品のコンセプトを聞かせてください。

SAI:歌詞については、ラブソングが多いですね。

MAKO:ジャンル的に幅のあるアルバムを作るのがまず第一にありました。メンバー内での曲の好みの違いや、マイブームがあることもきっかけの一つですが、Sidewalks and SkeltonsのEntityというアルバムを聴いた時に、こんなにいろんな曲のあるアルバムっていいな!聴いていて楽しいな〜と思ったので、自分のアルバムもそうしたいと思いました。

RISAKO:結成から今に至るまで様々な変化があり、その全てを包括したものにしたいと思っていました。ひとつのジャンルに留まらない楽曲達が今のMs.Machineを表しています。

アルバムリリースのコメントにnever young beachのKeigo Tatsumiさんがいらっしゃいましたが彼との繋がりはどのようなものからでしょうか?

SAI:私たちが主催している『FELINE』というイベントを下北沢ベースメントで開催したときにみていてくれていたみたいで、そこが始まりでしたね。そこからマーチを買ってくださったりnever young beachの巽さんの回ラジオでMs.Machineの曲をながしてくれたりしているんです。知名度や音楽性は違うけれど、きちんとリスペクトを持って接してくださるので信頼を置いています。

先日ライブを見させていただいた際に、パフォーマンススタイルに驚きました。轟音の中で一点を見つめるボーカル、激しく点灯する照明。このスタイルというのは意図してそうなったのですか、それとも自分たちのやりやすさなどから自然の流れでそうなったのですか。

SAI:ヴォーカルスタイルに関して言うと、見る側としてパンクでもない限りステージ上の激しいパフォーマンスは好きではないので今のスタイルになっています。照明に関しては、デンマークにSejrというバンドのライブ映像から影響を受けています。

(NÅLEN #13 // SEJR // 11/09/14:YouTubeより)

MAKO:自然にこのようなスタイルになったと思います。結成当初からライブを思い返してもMCはなかったし、必要も感じていませんでした。それは今も同じです。 

RISAKO:個人的にステージ上ではクールであるべきという信念はありますが、自然体でこのスタイルになっています。各メンバーも同じだと思います。

同世代、あるいは同じコミュニティーの他のアーティストで刺激を受けているものは何かありますか?

SAI:TAWINGSは海外インディーから影響を受けた曲のカッコよさを残しつつ、日本でもリスナーを増やしているのでロールモデルにしたいなと思っています。同世代と言う点ではZoomgalsの歌詞や活動は勇気付けられますね。

MAKO:LSTNGT。4月あたりにライブを見たのですが、曲が良すぎで落ち込みました。コールドなトランスをやっている方ですが、witch house的な聴こえ方もしてすごくかっこいいです。

RISAKO:Golpe MortalとNEHANN。私は重いビートの曲、美意識を持ったクールなアーティストが好きなのですが、国内でしっくりくる存在がこれまでいませんでした。この2アーティストは音源とライブ、魅せ方にブレが無くかつ新しさもあるのでとても刺激を受けています。

ー「今あるシーンからどう広げていくのかを考えていきたい」ー

近年海外、とりわけイギリスのインディーシーンやコミュニティが少しずつ拡大し影響力を持ち始めていますが、日本のインディーシーンの現状についてはどう感じていますか?(何か見えている状況やムーブメントがあれば教えてください。)

SAI:ブロガーのRisaさんやライターの津田結衣さんにこの間インタビューをしたのですが、お二人ともSPEEDのことについて話していたので影響力と勢いがあるなあと感じています。その中でもPsychoheadsが最近『正直おれは今の日本のバンドシーンも音楽シーンも好きじゃない。だからもっと広い目で見て価値ある音楽を残したいし、この時代を切り裂いていくようなロックがしていきたいと思ってこのシングルを出しました』とツイートしていて。SPEEDの中でも彼ら一番若いと思うんですけど、迎合するわけでなく革新的なことをしていこうという姿勢が良いなあって思いました。

RISAKO:バンドに関しては、一時期よりも音楽性やコンセプトが多様化していると感じています。そのためひとつの場所がアンダーグラウンドを超えて大きく盛り上がるということがないような気がしています。それぞれが同じ意識を持ったアーティスト同士で活動をしていますが、閉鎖感は否めないです。自戒も含め、今あるシーンからどう広げていくのかを考えていきたいです。

現在、学生やあらゆる業種に従事する方々が様々な形でコロナの影響を受けていますが、バンド活動においても何かパンデミックの影響はありましたか?

SAI:予定していたライブの延期はありましたね。メンバーと会う機会が減ってコミュニケーションが少なくなったなあと思う事があります。

MAKO:今回出したアルバムですが、コロナがなければ2020年の早めに出す予定でした。なんとかリリースパーティーも行えてよかったですが、昨今の日本の状況を考えるとリリースパーティーの開催ももしかしたらできなかった未来があっただろうなと感じています。

なかなか先の見通しが立たない状況ですが、バンドとしてのこれからの予定を教えてください。

SAI:秋頃に向けて、今までのMs.Machineとしては大きめのプロジェクトを進行中です。

MAKO:現在集中して楽曲制作に取り組んでいます。早くお披露目したいです!

最後に、読者の方へメッセージをお願いします!

SAI:まだまだこの状況が続きそうですが、ライブに行く以外でもマーチを買ったりなどで好きなアーティストをサポートする方法はあるので、みんなで支え合っていけたらなと思います。私も好きなアーティストやライブハウスのサポートをしていきたいと思います。あなたにとって大丈夫そうな状況になったら是非ライブに来て欲しいです。

MAKO:苦しい状況は続きますが、素敵なものを見たり聴いたりした時の「素敵だな」と感じる心を忘れずに日々を過ごしてほしいです。私たちの作品がその手助けになれば幸いです。

RISAKO:Ms.Machineは進化し続けます。いつか必ずお会いしましょう。ライブハウスで待っています。


<Release Information>

Ms. Machine – Ms. Machine

Release:1/31/2021

Label:NORR RECORDS


■ Biography

Ms. Machine

東京を拠点に活動する女性3人組ポストパンクバンド。「フェミニスト・パンク・バンド」として、現代のパンクシーンの閉塞感のある現状を問う。ブレイクコア、インダストリアル、ポストハードコアを飲み込んだ暴力的なサウンドと現行のハウス〜フロア〜テクノを繋げる次世代バンド。