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Interview – ARCS
地球と人に配慮されたファッションプロダクトが当たり前となった現代で、ファッションを愛する人への配慮は十分にあるのだろうか。アートを妥協せず、社会にも優しいアイテムがもっとあれば。そんな想いを叶えようとするAlice Carvillによるロンドンのブランド〈ARCS〉への独占インタビュー。
– これ一つあれば、それ以上のものは必要ない。そんなプロダクトを目指している –
– まず、ご自身と〈ARCS〉についての簡単な紹介をお願いします。
こんにちは。ロンドン南東部のキャンバーウェルにあるスタジオで服とアクセサリーブランド〈ARCS〉を運営しているAliceです。〈ARCS〉は4年ほど前にバッグの制作からスタートして、徐々にメンズ、レディースウェアへと拡大していきました。
– ブランドはどのように始まったのでしょうか?
私個人のバックグラウンドはメンズウェアのデザインから始まって、最終的にはアクセサリーが専門になっていったの。他のレーベル、ブランドのデザインをしていて、やりがいはあったけど自分のビジョンが見えなかった。つまり、自分自身や友人たちが身につけたくなるようなバッグを作れていないことに対して不満を感じるようになっていたと思う。それからスマートとカジュアルの中間、機能的でファッショナブル、そして持続可能的に作られたバッグを作りたと思うようになって、それが〈ARCS〉の出発点になったわ。
- 公平に利益を得ることが出来る双方向の関係 –
– あなたは以前、ブライトンを拠点としたブランド、〈Story mfg.〉でデザインを数年間担当されていましたよね。あなたにとって何か〈Story mfg.〉での経験から影響を受けたことはありますか?
実は〈ARCS〉を始めたのは〈Story mfg.〉に入社する前なんだけど、創業者のKatyとSaeedとは元々長年の友人で、自分たちの強い信念からブランドを立ち上げるという彼らのストーリーは、私にとって大きなインスピレーションになった。実際、Saeedが言ってくれた、「失うものは何もない、とにかくやってみるべき」という言葉は私にとって大きかったし、今でもこの言葉に感謝している。〈Story mfg.〉に入社してからは、彼らの制作に対する完璧主義的なアプローチや、意味のあるプロダクトを作りたいという想いを目の当たりにし、モノ作りの観点からも本当に大きな影響を受けたわ。
– 地球への影響を最小限に抑えながら、Slow Madeでクリエーションを行うというコンセプトが、〈Story mfg.〉と〈ARCS〉の両方に共通するものがありますが、具体的にどのようなアプローチをしているのでしょうか?
具体的には、生産パートナーをとても慎重に選んでいるわ。まず第一に、お互いが公平に利益を得ることができる双方向の関係でなければならないと思っているから、生産パートナーの全員が公正な賃金を受け取り、また労働環境が非常に良いことが条件。見つけるのにはかなり時間がかかったけど、最低発注量が多くない生産パートナーとのみ仕事をしているの。だから小さなロットで製造し、無駄を出さないように生産することが出来ているわ。そして、毎シーズン、私たちは生地の品質向上に努めていて、〈ARCS〉の全てのバッグは常にリサイクル素材から作られている。環境に配慮した素材は価格が高いことが多いため、私たちのような小規模ブランドのにとって手に入れるのは常に大きな課題ではあるけど。それでも、生産拠点を多様化したことによって新たな機会が生まれ、最近発表したSS25コレクションはこれまでで最高のもので、リサイクルシルク、花から作られたヴィーガンシルク、リサイクルのビスコースが使われているの。生産過程での廃棄物を減らすことも重要なポイントで、タグは裁断過程で廃棄された布の切れ端から作られ、「Hey Jumble」シリーズはパッチワークのスクラップから作られたバッグになっているの。
– インスピレーションのひとつは、日常にある生活をより良くすること –
– 個人的に、環境や社会問題への取り組みは大事に思うのと同時に、社会問題に比重が傾き、デザイン性やモノとしての魅力を忘れているようなブランドは好きではありません。しかし、〈ARCS〉はデザインや実用性という面に向き合っているように感じます。あなたの中で、何かデザインする上で大事にしている点はありますか?
試作品を実際に日常で使うことは、いつも大事にしているわ。「Hey Sling Bag」のような〈ARCS〉の代表的なアイテムのいくつかは、最初のコレクションから存在しているけど、当時のプロダクトから大きくアップデートされている。実際に自分で日常生活で着用するからこそ、ストラップの長短、ポケットを増やした方が良いかもしれないこと、Waterproofの生地の方が良いことなどに気づくことが多いと思う。私自身、そして〈ARCS〉での主なインスピレーションのひとつは、日常にある生活をより良くすることであり、実際に自分がそのアイテムを日常で使うことを特に大事にしているわ。
実際にご自身で使うことが大きなインスピレーションとなっているのですね。 機能面以外に、デザイン的にも特徴のあるアイテム「Hey Sling Bag」が生まれた背景をお聞かせください
シルエットの背景にある考え方は、「包み込む」ことで衣服の一部になるバッグというもの。私は「Hey Sling Bag」や「Little Hey Bag」を衣服の一部、アウトフィットの要素として考えているから、パターンカットや縫製、形を調整し、体に「包み込む」感覚が得られるまで作り込んだの。ブランドの大きな特徴であるドローストリングが、バッグの大きさを柔軟に調整することを可能にし、その日の用途に応じて上手く対応してくれるように、〈ARCS〉の全てのピースはユーティリティであって、そして様々なニーズに合わせられることが前提のデザインになるよう意識しているわ。
– バッグだけではなく、ここ数シーズンでウェアの制作を拡大していますね。バッグとはまた違うウェアを作る上で、何か難しさを感じますか?
バッグと同じように、日常生活、特に忙しい都市での生活や通勤に適したプロダクトを作ることが、服を制作するうえで大きなインスピレーションになっている。だから、最終的な形は違っても、制作の根本的な出発点は同じで、あらゆるシーンに適したウェアを作っているわ。それと、シンプルでごちゃごちゃしていないデザインが好きだから、このスカート、このジャケットがあれば、それ以上のものは必要ないというプロダクトを作るのが目標だね。
日本をはじめ、ここ数シーズンでARCSを取り扱う店舗がグローバルに広がってきました。今後も更に展開は広がっていくのでしょうか?
そうであってほしい!〈ARCS〉が世に送り出しているアイテムを欲しいと言ってくれる人がいることを、私は今でもとても謙虚に受け止めているし、決してそれを当たり前だとは思っていない。これからも、私たちが世に送り出しているものをシェアしたいと思ってくれる人たちがいることを願うばかりだね。
最後に、ARCSの今後の展望について教えてください。
現在、私はウェアの制作に力を入れて取り組んでいて、デザインのコンセプトを発展させることはもちろん、発表するプロダクトが可能な限り完璧なフィットとデザインで、持続的に作られるようにしているわ。そして、SS25シーズンからは、さまざまな国の工場と仕事をするようになったから、テーラリングや装飾、技術力など彼らの強みをさらに取り入れることが可能になった。来シーズンのコレクションは〈ARCS〉にとって大きな前進になると思うので、アイテムを発表できることが待ちきれないよ!
■ Biography
ARCS London
イギリス、ロンドンを拠点に、デザイナーAlice Carvillが立ち上げたファッションブランド。環境への影響を最小限に抑えた「Slow Made」のプロセスを大事にするとともに、実用性に優れたモノづくりが注目を集める。ロンドンを始めとした海外の大手セレクトショップで取り扱いがあり、SS24からは日本でも展開が始まった。
Instagram : @arcs.london
Website : https://arcslondon.com/collections/all