Interview / MIRIAM GRIFFITHS
イギリスの名門 Central Saint Martins を2022 年度に卒業した Miriam Griffiths によるファッションブランド。ミ リタリーやワークウェアにインスパイアされ、再利用 素材を使った力強いシルエットに印象的なニット技術を 組み合わせたデザインを表現。若手デザイナーの育成・ 支援を目的に LVMH が主催する LVMH Graduate Prize を2022 年に受賞し、卒業後は Louis Vuitton のデザインチー ムに加入。
ー 服を身体の一部ではなく、体の延長線上に置く ー
– 初めに自己紹介をお願いします。
こんにちは、ニットウェア・デザイナーのMiriamです。私のブランドMIRIAM GRIFFITHSでは、ミリタリーやワークウェアにインスパイアされている再利用素材を使ったジェンダーレスな服を中心に作っています。最近、Central Saint Martins(以下 CSM)のファッション修士課程を卒業してLVMHの Graduate Prize を受賞したこともあって、Louis Vuittonのデザイナーとして働くことになりました。
– ブランドの話に入る前に、数多くのデザイナーを輩出しているCSMでのことを教えてください。学校ではどのようなことを学ぶのでしょうか?
専門的なことはもちろんですが、一番はコミュニティが全てであり決して自分の視点を失わないことを学びました。CSMで教わることの多くは自分が何を言っているのか、なぜそれを言っているのか、それを作品として伝えるにはどうしたらいいのかを考えることです。
– なるほど。では、あなたが作るミリタリーやワークウェアを軸に置いたアイテム を通して伝えたいものはなんでしょうか?
ミリタリーやワークウェアのような、純粋に機能的な目的のためにデザインされ たものには他にない美しいデザイン性があることが多いと思います。目的を持っ てデザインすることで美しさだけでなく、別の視点から考えることができるよう になることは魅力だと思いますし、伝えたい要素でもあります。
– 他にもSTONE ISLANDやC.P. Companyにも通ずるミリタリーアイテムの再定義、そしてサイズ感やシルエットでは近年のBALENCIAGAのようなモダンストリートなテイストを感じるアイテムもありますね。同時にこれらのブランドにはないオリジナルな魅力も伝わるのですが、具体的にこれらはどういったアイデアから生まれているのでしょうか?
常に前進し、新しいものやインスピレーションを自分の作品に取り入れることは とても重要です。もちろんSTONE ISLANDや C.P. Company などのブランドをフォ ローしていますが、直接的にインスピレーションを受けることはなく、もっと抽象的なものからインスピレーションを受けることが好きです。誇張された形は近年のBALENCIAGAというよりも、アポロ計画の宇宙服からインスピレーションを得ました。それらを組み合わせて、ジェンダーレスなフォルムを作り、服を身体の一部としてではなく身体の延長線上に置くという探求をしたかったんです。
– なるほど。すでに存在するものを要素として使い、独自のアイデアの中で作品を作っているのですね。
まさにそうです。ただ、私はいつも日本のブランドをインスピレーション源としても見てきました。具体的なブランド名でいうとCOMME des GARCONS、Yohji Yamamoto、ISSEY MIYAKEなどの偉大な日本のブランドやデザイナーを参考にし ていると思います。日本以外のブランドでは、MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUDに最近夢中です。
ー イギリスの音楽シーンの強さがファッションシーンの成長を後押ししている ー
– 日本では、あなたの住むイギリスのブランドやカルチャーはとても愛されています。あなたが今挙げた日本のブランドも、イギリスの存在がなければ現在のような姿はないはずです。 実際にその国で生まれた人として、あなたが思うイギリスのサブカルチャーの良さはなんでしょうか?
イギリス人は服装で自分の道徳的、政治的な意見を表現するのがとても上手だと思います。 その結果、多くのサブカルチャーが形成されて新しいスタイルや着こなしが生み出されたのではないかと思います。また、イギリスの音楽シーンの強さがファッションシーンの成長を後押ししていることはいうまでもありません。
– 確かにイギリスの音楽とファッションは切り離せませんね。近年、カルチャー全体として 90~00 年代の UK カルチャー再評価は勢いを増していますね。
私も全く同じことを思います。90年代やY2Kのものが今とても流行っていますが、私の子供の頃を思い出してとても懐かしい気分にさせられますね。
– でも大事なことは、ただのリバイバルというよりもそれが新しいサブカルチャーとして生ま れ変わっていることですよね。
「Gorpcore 」や「Goblincore」といったサブカルチャーが形成されていますね。素晴らしいヴィンテージ・デザイナーズピースを持つことは、若者が自分のことをよく知っていることを示す新しい方法であることは間違いないでしょうね。
*Gorpcore – ハイキングやアウトドアを目的とするのではなく、ハイキングウェアやマウンテンウェアをカジュアルに着こなすトレンド。
*Goblincore – ポスト・パンデミックを迎え自然とのより深いつながりや、自らのルーツとして自然への回帰を求める若い世代を中心に作られたムーブメント。ヨーロッパに住む伝説の森の生き物ゴブリンから名前が取られ、キノコや苔などの荒々しく、手つかずのありのままの自然を表す。デジタル社会からの逃避、不完全で未熟を良しとすること、自然が持つジェンダーレスなビジュアル、サステナビリティへの 共感からSNSで発祥。
– MIRIAM GRIFFITHSでは90年代のCarharttにインスパイアされ たアイテムもありますね。世界中で 90年代のファッションの魅力は当たり前のように共有されていますが、この時代のファッションシーンの良さはなんだと思いますか?また、90年代が最もエキサイティングな時代だったとするならば、現代に欠けているものは何だと思いますか?
90年代は確かに自由度が高く、インターネットやソーシャルメディアがなかったからこそクリエイティブになるには今よりももっとエキサイティングな場所だったと思います。何でも簡単に手に入るわけではなかったので、それぞれがインスピレーションを得るためにもっと努力して深掘りをしていたと思う。
今の時代、誰かが何かを作ってネットにアップしても瞬時に他の 人がすでにやっていたり、あるいは自分に似ている人が見つかってオリジナリティある発想が生まれにくい状況にあると思います。
– 最後にこれからのご自身の展望をお聞かせください。
将来はどうなるかわかりません。現在、ビッグブランドで働く経 験を積むためにデザイナーとして業界で働いています。このままこの道を進むか、もっと自分の仕事に集中するかはまだ決めていません。