Interview – remagine

“ラグジュアリーストリート” というジャンルを数多くのブランドが取り入れている昨今、数年前のような勢いや衝撃は薄れてきている。こうした状況でダービーシューズとアスレチックシューズを大胆に組み合わせ、 “ラグジュアリーストリート” の新たな改革を行ったデザイナー、pandaによるシューズブランド remagine〉。その制作の背景と込められた想いに迫る世界初インタビュー。

衝動性は失いたくなかった。愚かさや間違いを受け入れることは人が持つ貴重なエッセンスの一つだと信じているからね

– まず初めにあなたはどこで生まれ、シューズデザインを学んだのでしょうか?

中国の佛山という都市で生まれました。この街は武術のホームタウンとしても知られ、ブルース・リーを筆頭に多くの武術家を輩出している街なんだ。佛山は広州にとても近くて、主にこの2つの都市で生活したり仕事をしている。多くの人は僕がファッション業界にバックグラウンドがあると思っているけど、実際にファッションに触れたのは比較的遅いんだ。でも、小さい頃からスポーツシューズが大好きで、将来はスポーツシューズのデザイナーになりたかった。それで5年くらい前に中国のスポーツウェア・ブランドでスポーツシューズのデザインに携わっていたんだ。ファッショナブルな商品については特に気にすることもなく、ただ見ているだけだったね。
この会社を辞めた後、「be tough 」というスニーカーのカスタマイズスタジオを立ち上げて、流行のナイキのシューズをカスタマイズしていたんだ。この期間にさまざまな伝統的な革靴工場がスタイリッシュな靴を生産している姿を見ることができた。本当の意味でのファッションとの関わりはこの時期から始まったんだ。

– では、本題であるあなたのブランドの話をしましょう。まず、〈remagine〉はどのように始まったのでしょうか?

2019年から2021年にかけて、ナイキやアディダスが毎日のようにコラボレーションを発表し、Virgil Ablohのようなデザイナーや僕なども含め常に新製品を発表していた。正直なところ、この傾向に嫌気がさしてきたんだ。破壊的な物作りのアプローチが定型化して、ある意味で均一化されたアイテムを生み出し続けているように見えて、このような閉塞感から脱却するための別の方法を考え始めたんだ。そうした思いから、伝統的な革靴産業から得た知見をアスレチック・シューズの領域と融合させることを目指し、この挑戦を始めたんだ。

この愚直で大胆な感覚に強い愛着を抱いているんだ

-こうしたデザインを通じて表現したい理念やコンセプトはあるのでしょうか?

〈remagine〉の核となるコンセプトは人々が持っている瞬間の感情、直感、そこにある本物の表現を中心に添えた「今この瞬間 」という概念を中心に展開される。
僕たちは常に変化し続ける 「今 」の中に存在し、その一瞬一瞬が記憶へと進化し、それぞれの未来へと投影される。そうした記憶と想像力の相互作用が、僕たちの経験の一瞬一瞬を形作っている。 この哲学に根ざし、 「記憶 」と 「想像 」を組み合わせ、〈remagine〉というブランド名にしたんだ。
ただ、事業はまだ始まったばかりで、僕のクリエイティブな目標はまだ明確に定義されていない。ただ、やりたいことは決まっていて、蓄積された経験と無限のイマジネーションをシームレスに融合させ、フットウェア・デザインの境界線を探るような作品を作り続けたいんだ。

– 「伝統的なシューズ」と「アスレチック・シューズ」という普遍的な2つのアイテム、そして過去と未来とも言い換えられる「記憶」と「想像」という2つの概念が融合した不気味な雰囲気はとても好きです。こうした2つのカルチャーの融合は一種のトレンドにもなっていますが、あなたのシューズが他と違うことは、その組み合わせ方にあると思います。思い切りがよく大胆で、挑発的なムードを感じます。

ありがとう。自分でもそれは大事にしているんだ。スポーツ性とファッション性の両方を靴に取り入れることを目指すと同時に、この2つの特徴は見る人がそれぞれの意味を瞬時に理解できるような強い象徴性を持っている必要があった。だから、スポーツスタイルを反映させるための要素として2000年代前半のアスレチック・スニーカーを選んだ。特に日本のブランド、ASICSのランニングシューズだね。 ファッションの面では、時代を超越したダービーシューズをエンブレムに選んだ。最初の試作は、実際にアシックスのランニングシューズのかかとを切り落とし、接着剤で革のダービーシューズに貼り付けるというもので、デザインスケッチすらなかったんだ。ただ、出来上がったシューズを多くの友人に見せたところ、「唐突すぎる」「工夫が足りない」と酷評された。でも理由はわからないけど、この愚直で大胆な感覚に強い愛着を抱いているんだ。なんというか、大胆すぎて一種の間違いのようにも捉えることができるけど、この衝動性は失いたくなかった。僕は愚かさや間違いを受け入れることは、人間が持つ最も貴重なエッセンスの一つだと信じているからね。

– 僕がこの靴を買った理由も、まさにその愚直で大胆な感覚を感じたからだと思います。この感覚はプレス画像に添えられた言葉「The essence of life is the current confusion.(人生の本質は今ある混乱である。)」 によってさらに強調されていますね。

人は常に戸惑いながら人生を歩んでいると思う。人生において、さまざまな物事や経験に戸惑い、落胆することはよくある。このシューズを作るときも、これでいいのかと戸惑ったかもしれない。しかし、その戸惑いこそが僕たちの進歩の理由や動機だと思うし、何度も経験し、それぞれが自分のやりたいことを続けることでその戸惑いは消えていくんだと思う。

ー 僕のクリエイティブなアプローチは靴工場に近いところにある ー

– 伝統とスポーツスタイルを融合させた“ラグジュアル・ストリート”を表現しながら、人々に大胆な感覚を与えるあなたの作品を見て、Demna Gvasaliaの影響も感じました。

Demna Gvasaliaは卓越したデザイナーであり、その作品は僕の中にある多くのインスピレーションに火をつけてやまない。彼のデザインは人々を深く魅了し、鑑賞するたびに貴重な学びの体験となる。もちろんDemnaもそうだけど、芸術や文化の領域にまたがるさまざまなアーティストやクリエイターにも深い憧れを抱いているんだ。ただ、 これらの多様なインスピレーションを意識的に自分の作品に織り交ぜようとしたことはほとんどないことに気づいた。考えられるのは、これらの異分野からの影響が、意識しないうちに時間をかけて自分を微妙に形成してきたんだと思う。例えば、ヴィンテージのスニーカーデザインとかもそう。過去を振り返ると、ナイキやアディダスといったブランドが発表したアイコニックなシューズモデルには、オリジナルのクリエイターの名前を知らないにもかかわらず、限りない創造性と想像力が滲み出ているよね。

– このインターネット時代におけるファッションでは無限のリファレンスがあり、気づいたら影響を受けているということは多くありますよね。もちろん良い面もあるのですが、気づいたら他の創作物と同じようになってしまうということもよくあると思います。しかし、情報のインプットだけではなく実際に靴工場で働いていた、あなたの職人的な経験とアウトプットは作品のオリジナリティを保つ上で重要だったのではないでしょうか?

そうだね。僕のクリエイティブなアプローチが靴工場に近いところにあることは間違い無いと思う。単に美しいデザインスケッチにこだわるのではなく、工場の中に身を置き、靴作りの複雑な工程を把握することに大きな喜びを見出しているんだ。紙や画面の上だけでデザインを考えるのではなく、製造手順や製造方法を変えることで、僕の作品に新たな可能性を吹き込むことができるんだ。

– 少しアイテムの話から離れます。ブランドはまだウェブサイトがなく(*9月25日掲載時)、DMで注文を取っていますが、こうした方法でも多くの人がシューズの投稿に「購入したい」とコメントしていますね。この反響について率直にどう思いますか?

正直に言うと最初はこの靴のセールスに関してはあまり自信を持っていなかったんだ。しかし幸運な偶然が重なり、友人がこの靴をネットにアップしたところ、思いがけず大きな注目を集めることになった。嬉しい驚きとともに、あなたをはじめ僕のシューズを気に入ってくれたみなさんに心から感謝しています。皆さんの応援は僕にとって大きな励みです。皆さん、改めてありがとうございました。

– 現在、まだシューズしか制作されていませんが、今後は服作りも始める予定はありますか?

今のところ僕の頭の中にあることは、優れた靴のデザインを生み出すことだけだね。
でも、もし機会があれば優れたデザイナーとコラボレーションしてウェアを発表するのも面白そうだね。

– 最後に〈remagine〉が目指す将来像を教えてください。

冲田修一監督の映画『さかなのこ』は見ましたか?
僕はこの映画の主人公のように、情熱を持ち続けたいんだ。そして、いつか 〈remagine〉というブランドを思い浮かべるとき、楽しくて興味をそそる靴を作るブランドとして多くの人にイメージしてもらえたらと思う。もしそうなれば、それ以上に嬉しいことはないよ。