Interview – ryaw
デザイナー片出真武が手がけるファッションブランド。テックウェアに影響を受けた機能的なデザインに衝動的なエネルギーを注いだアイテムで、着用者や社会に向け深 い思考を促すモノづくりを追求。植物や自然、さらには医療用の備品にまで幅広い世界をアイテムを生み出してきたほか、来場者とブランドで紫外線を活用した服作りを行う実験型ポップアップを開催するなど、幅広い分野でボーダーレスな活動を展開。
ー ただ着るだけではないその奥にある何かを作り上げていくていく ー
– 初めに、服作りを始めたきっかけを教えてください。
もともとはスケートボードを始めたことがきっかけで、ヒップホップカルチャーにのめり込んで行きました。幼い頃を振り返 ると、いつも物を作ることに没頭していました。自作のダンボール家具を母が化粧品を収納する為に使っていた光景を今でも鮮明に覚えていて、私が作った物体の機能性を果たしながら母が使ってくれていることが新鮮で嬉しかったんです。
– 昔から物作りが好きだったんですね。
母に連れて行ってもらっていたどこにでもあるような服屋でいつも母が選んだ服を買ってもらい、その服を着ていました。でも、ある時自分の意見を持って服を選びその服を着たときにとても気分が高揚したことを覚えています。そういった経験から自分は服を好きになり、物を作ることも好きだったので今も服を作っているんだと思います。
ー “ ソーラーパンク ” は “ サイバーパンク ” の反対側にある概念 ー
– 「物体の機能性を果たしながら」という言葉を聞き、ryaw で表現しているテックウェアへのリスペクトは幼い頃から存在していたのだなと感心しました。
テックウェアの魅力は少年の頃の心に訴えかけるロマンのようなモノが詰まっていることと、従来の服にはない機能性が魅力です。デザインをするうえで機能性も大事だと思うのですが、そこのみに力を注ぐことは ryaw として存在する意味が無いと思い、コンセプトやメッセージを含ませながらもっと両軸を保ちつつデザインできるようにしていきたいと考えています。
– 片出さんにとって服をデザインすることは何を意味しますか?
色んな人たちに「こんな世界良いと思うんだけどどうかな?」といったような、自分が想像する世界を服のデザインに落とし込んでみんな に提案をさせてもらっています。本来、人間のあるべき姿は単純に自分のやりたいことをやり続けることだと思っており、その考えがみんなに広まっていったらちょっと良い世界になりそうだと考えていてます。その考えを自分の人生に照し合わせながら、服をデザインし続け ることが自分が服を作る意味なのかと思います。
でも、理由とか意味よりも、やりたいと思ったその感情を大事にすることが重要です。その純粋な気持ちや衝動的な部分のエネルギーはとても大きいので、まずやってみることが良いことなのかもしれませんね。
– デザイナーのクリエイティビティーだけで終結するのではなく、自然や社会、人の在り方について提案する姿勢がとても好きです。ブラ ンドのホームページには「ソーラーパンク」の概念も提唱されていま すね。
“ ソーラーパンク ” は “ サイバーパンク ” の反対側にある概念だと思い ます。「荒廃した夜の街に走るネオン」がサイバーパンクだとしたら「明るくて自然と社会が共存する」ことが “ ソーラーパンク ” の考えであり、現代の社会をより良い方向に進めていく力になってくれる考えています。自然に恵まれた環境で過ごし、その重要性を理解していたので、元々好きだった SF の世界観に、自然からのインスピレーションを織り交ぜた服を作っていたところ、展示会に来てくれた海外の知り合いからソーラーパンクという存在を教えて頂き、そこからもっと意識的にリンクさせていきました。
私が今までで影響を受けた映画の中に『美しき緑の星』という作品があり、その考え方や内面部分で共感した要素を ryaw の世界観に反映させています。この映画は自分が生まれた96 年に上映、発売が禁止されてしまったもので、当時の社会の核心部分を見せようとしたとても面白い内容です。サブスクには無いですが、ニコニコ動画に1 本だけ上がっているので良かったら観てみてください。
– 自然と社会そして人間の在り方について提案し、尚且つ衝動的でもある。これを服で表現することは難しいと思いますが、ryaw はそれを見事に実現していると思います。特にVein JACKETからは強いエネルギーのようなものを感じます。
このアイテムが作られた期間はコロナが大流行していた時期だったということもあり、みんなが色々な制限をかけられストレスが溜まっていたと思います。自分もやりきれない思いがあったので、怒りの際に皮膚から浮き上がる血管を生地で表現し、みんなの気持ちを反映させたアイテムにしました。この技法をまだ続けていく必要があると思い、 22AW では葉脈としてベストとバッグにこの加工を施しました。まだ十分に新しい表現ができる技法だと思うので、さらに研究してryaw独自の表現方法として確立させていきたいと考えています。
ー 常にみんなが驚いてくれたり、何か心に引っかかる写真を撮ることを大事 ー
– 植物工場のような場所で撮影された 22AW のルックは ryaw の世界観 にぴったりなロケーションだと思いました。
この撮影はフォトグラファーの tanase と今までに誰も撮ったことがな いビジュアルを求めて作り上げたルックになります。当初、ロケーショ ンは植物園などを予定していたのですが、tanase から植物工場を提案してもらいました。元々自分も植物工場に魅力を感じていたのですが、 国内にはないだろうという勝手な思い込みが働いており、その自分の思い込みを tanase のおかげで無くすことができ、実際に撮影すること ができました。
本来、植物工場では防護服を着用しなければならない為、断られ続けたことで私自身に火がついて地方の工場へ足を運びながら探していま した。最終的に東京の植物工場に協力頂き、今まで ryaw を撮影をしてくれていた iu を呼びかけ、試行錯誤を繰り返し完成した思い入れの深いルックです。
– ベルリンのセレクトショップ ARYS Store のルックではアイススケー トリンクを舞台にしているのも面白いですね。
これは以前から一緒に撮影をしたいと思っていた Sound Sports の ryotaishii に声をかけて進めてたプロジェクトです。撮影では常にみんなが驚いてくれたり、何か心に引っかかる写真を撮ることを大事にしています。ryota と私の共通する部分に「雪」や「冬」といった冷たいイメージがあったので、私がアイスリンクでの撮影を提案したところ、 ryota の所属する Sound Sports のアイデンティティーからスピードスケートを提案してもらい作り上げました。実際にスケートリンクに入ると想像以上にハードな撮影でしたが、みんながより良い写真を作る為に挑んでいた空気感は何にも代えることができない良い思い出です。ryota、taguri、takeuchi に心から感謝します。
– 受け手と作り手の垣根を超えた新しい挑戦をするなど、広い視野を持つ片出さんですが、ブランド以外にも何か活動をし ているのでしょうか?
今は ryaw だけでなく、AVALONE というブランドのビジュアル、グラフィックのアシスタントを行いながらデザイナーの三浦進さんから服のデザイン、そしてデザイナーとしての姿勢を学んでいます。三浦さんは AVALONE を発展させるうえで、道のりにしっかりこだわりを持ちながらデザインを行ってきた人でデザイナー以前に人として尊敬できる方です。
– 他にも CYANON と題したポップアップでも新しい試みを行っていま すね。
CYANON は byre という牛舎で古着や植物を展開するという、東京とは思えない空気感を持つショップに協力をして頂きました。一人一人が実験者となって、来場者とryawで紫外線を活用して透明のフィルムにプリントされたグラフィックで影を作りTシャツに印刷しました。実験ではありますが結果に着目はしておらず、作り上げていくプロセスに焦点を当て、参加者とryawで新しい経験をする場として機能させました。ryawを着ていただいている人たちには消費という経験だけではなく、作ることの楽しさや製作者側になっていただくことで何かのきっかけになりたいと考えています。実際に医療関係の方やryawを知らなかった方々と交わることができ、私自身とても楽しかったです。
– 最後にブランドがイメージしている将来像について教えてください。
今は新しいコレクションを発表するまでの工程をほとんど一人でこなしているので、今後は仲間を見つけてチームで ryaw を作り上げていけるようにしようと考えています。もっと表現方法を広めつつ、ただ着るだけではない、その奥にある何かを作り上げていきます。