Interview / Story mfg.
イギリス / ブライトンを拠点にSaeed Al-RubeyiとKaty Al-Rubeyiの2人により始まったファッションブランド。高度技術、感情、および時間を有する生産過程を強調し、非科学プロセスに重点を置いた「Slow Made」を目標に掲げ、エコを犠牲にしない美しさを表現。労働者とブランドの利益配分にも十分に考慮された手作業のプロダクトは世界で高く評価され、過去にはReebokともコラボレーションし ている。
ー ブランドはパトロンであり、アートを 生み出す生産者を支える存在。だから手作業をプロジェクトの中心に 位置付けたんだ ー
– Story mfg. がスタートした経緯を教えてください。
Katy と僕は2012年に出会い、2013年の終わりには一緒に始めようと決めていた。服作りを始めたきっかけを簡単に説明すると、自分たちが着たくてもまだ存在しない洋服を一緒に作りたいと思ったからなんだ。でも、お金もないし人脈もほとんどなかったから、手探りで始めて少しずつファッションでは珍しい天然染料などを使って仕事をしている職人たちとつながる方法を見つけていった。そして、Reddit や他のフォーラムでこのプロジェクトについて話し、メーリングリストを作って自分たちの活動をアップデートし、カスタマーに製品(天然染料の手織りデニムを使ったジーンズ)のプレオーダーを呼びかけていったんだ。
生産を開始するための十分な資金ができたから、プロジェクトを本格的にスター トさせてジャケット、シャツと立て続けに生産を続けていき、もちろんお金がないと服は作れないから、常に次の手を打つための資金を調達するためにも10年かけてゆっくりと会社を大きくしてきたんだ。
– デザインは独学ですか?
Katyはデザイナーになるための勉強をしていたんだけど、僕はそうではなかった。ただ服が好きで、その過程で必要なスキルを徐々に身につけていった。このようにお互いの人生経験や興味を持つものが異なると、本当に面白いデザインができる。僕たちふたりは、Story mfg.でも大事にしている手作業にこだわっていて、Katyは刺繍の才能があり、僕は天然染料にとても興味があるんだ。
ー 生きていく上で当たり前のルール ー
– この手作業で作られるアイテムがStory mfg.の持つ大きな特徴ですね。多くの企業が機械を使い効率性を求める中、こうしたプロセスを重視する理由はなんでしょうか?
僕たちはアートを愛しているし、特別で重要なものだと思っている。そしてアー ティストが存在するためにはパトロンが必要なんだよ。僕たちは自分たちのブランドがパトロンであり、アートを生み出す生産者を支える存在であるべきだと考えている。だから機械ではなく、手作業をプロジェクトの中心に位置付けたんだ。
– アイテムからはアートに加えて、自然やエスニックな要素も感じられます。デザインを考える上でどのようなものからインスピレーションを受けているのでしょうか。
確かにそうだね。僕たちの主なインスピレーションはヴィンテージアイテムと自然界から得ている。そして、象徴的なアイテムやヴィンテージアイテムを自分たちのスタイルで作り直すことが好きなんだ。非常に規則的で均一なものをあえて不規則にしたり、ハンドメイドにしたり、素朴なアートスタイルを取り入れたりとかね。
– こうしたクリエイティブな面以外にも、地球環境に配慮しているブランドの姿勢も大きな支持を得ていますね。
ブランドのホームページに10個のマニフェストを掲載しているんだけど、これは僕らが生きていく上で当たり前のルールで、人間や世界がどうあるべきかをまとめたものなんだ。天然素材を使うなどの当たり前にあるべき姿のこともあれば、積極的に取り組むべき姿のことも書いてある。
Story mfg. Manifesto
– Patron of the arts –
かつての偉大なラグジュアリーメゾンはクラフトの大使として、しばしばニッチな職人技を存続させて きました。アートやクラフトは美しいだけでなく、より速く自動化された経済の中で取り残された多くの人々にとって、文化的に重要かつ不可欠なものです。私たちはこの2つの世界の架け橋となり、人々が疎外されている場所で芸術的実践を促進して新しいものを育てることを目的としています。
– Waste is lazy –
自然界に「無駄」はない。種は太陽からのエネルギーで植物に成長し、生きて、死んで、他のすべてのもののために生命を与える土に変わります。この「zero impact」だけでなく「positive impact」というアプロー チこそが私たちの究極の目標です。
私たちは生産工程で発生する天然繊維の端材を回収し、裏地や詰め物などに再利用しています。また、 小さくなりすぎて使えない場合は道路に流して紙にし、ハングタグやパッケージングに使用しています。 合成素材はほとんど使用していませんが、使用したものはリサイクルされるか、簡単に取り外して広く再利用できるもので、使い捨てのプラスチックはどこにも使用していません。
– Animal kind –
私たちは動物製品を決して使用しません。なぜなら、生き物を育てて屠殺することに、持続的可能性や肯定的な意味があるとは思えないからです。また私たちの配慮はメーカーや顧客にも及びます。ブランドの素材や衣服には、作業や着用に害を生じる有毒化学物質が含まれていないことを確認しています。私たちが行うことすべてはヴィーガンであり、無慈悲な行為はありません。
– Regenerative agriculture –
私たちの大きな目標は産業によってもたらされたダ メージを回復させ、私たちの仕事が終わった後も地 球がより良い状態に保たれるような習慣を取り入れることです。私たちの天然藍の調達は過耕作や耕作 された土壌の窒素レベルを固定するための努力から生まれ、私たちの染色は再植林された森林で行われ、すべての廃棄物は庭の肥料として使用されています。
– Family values –
私たちの仕事は工芸的な要素が強く、職人たちと共に新しい技術を学びながら指導することになります。 私たちは、労働者に継続的で報酬の高い仕事を提供することに投資しており、安価な代替品に切り替えることはありません。
– Anti Racist –
ファッション業界は最も強力な迫害装置の一つです。もしこれを政府に置きかえるとするならば、人種差別的な慣習を支持して権利を剥奪し、そして経済的な奴隷を生み出し人種差別の固定観念を永続させている、地球上で最も残酷な政権と人々は呼ぶでしょ う。
この業界は人々の勤勉さ、文化、歴史、情熱、資源に依存しており、人種に基づいた顧客に対する負の価値を普及させています。私たちは共に働く人々を支持し続け、あらゆる場面で人種差別的な態度に異議を唱えます。私たちは、雇用慣行、パートナー シップ、コラボレーション、メディアにおいて包括的であり、構造的な異民族の排除を嫌い、あらゆる差別と戦うために私たちの影響力を行使していきます。
– Clothing is skincare –
衣料品に含まれる化学物質が例えクリームになった としても、それを肌に近づけることはないでしょう。 私たちの生地と染料へのアプローチは、毒性がなく肌に優しい成分のみを使用することです。私たちの染料と素材のほとんどは、歴史上使用されてきた自然の要素から作られています(ただし、ピーナッツや大豆など、自然界に存在するものにアレルギーを持つ人がいることも覚えておかないといけません)。
– Built to last –
持続可能な生き方とはより少ない買い物をすることでもあるため、私たちは長く使える製品を作ります。 私たちの製品は、ヴィンテージのワークウェアやミリタリーウェアから受け継いだ製法で作られており、 耐久性に優れ丈夫で長持ちすることが特徴です。
– Synthetics are not our enemy –
合成繊維は、より良い未来のための戦いにおける敵の第一候補として悪者にされてきましたが、これは より曖昧な問題から少し目をそらしているように感じられます。合成樹脂は、適切な用途と思慮深いデ ザインによって、より良い素材となることがあります。使い捨てのレジ袋は明らかにバカバカしく短絡 的ですが、合成素材を使ったリサイクルや配慮のあるデザインは重要だと思います。
ー Pragmatic by nature ー
Story mfg. は常に新しい発見に適応します。そして私たちのマニフェストは生きたドキュメントです。新しくより良い、より優しい生産の選択肢が出てきた場合は私たちはイデオロギーにとらわれないよう注意しています。
ー Gentle Fullnessは僕たちの一部 ー
– 2022SS からスタートしたGentle Fullnessについてお聞きします。このライン ではあなたと Katy に加えて、Story mfg. のルックモデルにも起用されている Daniel Pacitti が加わっていますね。このブランドは Story mfg. の別ラインとして どのような立ち位置になっていくのでしょうか?
Dan はこのブランドの友人であり、これまでにもたくさん一緒に仕事をしてき た。彼は素晴らしいアイデアを持っていて新鮮な視点をもたらしてくれるから、 別のプロジェクトの検討を始めたときに参加してくれるように頼んだんだ。別 ラインではあるけど、Gentle Fullnessは僕たち Story mfg.の一部でもあるという 感覚は常に存在する。だけど、これからこのブランドは Story mfg. と少し違っ た雰囲気のものになるだろうし、今それを模索しているところだね。
話が変わるけど、日本のNEPENTHESはたくさんのブランドを持ちながらも、 全てが同じ言語で表現されているような感じがしてとてもクールだと思う。だ からStory mfg.もそうありたいと思っているんだ。
– 確かにStory mfg.らしさが残りながらも違う雰囲気がGentle Fullnessからは 感じます。Story mfg. がReebokと協業して作ったブランド初のスニーカー「Club C」と「Beatnik」に関してもあなたたちの色味がはっきりと反映されているように思います。
そうだね。さっきも言ったように、Katyと僕はアイコニックなアイテムを自 分たちのスタイルで再構築することが好きなんだ。僕らはスニーカーの大ファンというわけではないけど、「Club C」も「Beatnik」もアイコニックな魅力があるから、このプロジェクトに取り組むことができてとても楽しかった。特に「Beatnik」のパフ型は今まで誰も作っていなかったから、とても好評だったね。
– あなたたちは日本でも大変人気です。日本には独自のファッション文化があり、ルックとは全く違う様々な着こなしを見ることができますが、単純にこのことについてどう思いますか?
様々なカスタマーがブランドのアイテムを独自に着こなす姿を見ることが好きなんだ。自分たちが作った服ではあるけれど、一度手にした服はあなたのものであってその旅はずっと続いていく。特に日本人のスタイリングはとても面白いよね。実際に僕たちのスタイリングは日本人からの影響を受けることもあるよ。
– 最後にあなたが考えるブランドの将来像を教えてください。
とにかく新しいアイデアを生み出し続けながらゆっくりと進んでいきたいと思っている。僕らのブランドの成長を見てきた人は、僕たちがとても速く成長してきたように見えるかもしれないけど、資産も経験もないブランドをここまで成長させるために、ゆっくりと 10 年もの時間を費やした。だからこれからも時間をかけて、自分たちや業界への挑戦を続けていきたいね。