| Interview
GeGeGe
宅録、ローファイ、SF、お化け、ウルトラマン。全ての解釈を注ぎ込み完成された最高傑作『また会おう』を生み出したGeGeGeの中心人物、ミズノリョウトへの独占インタビュー。
– 俺はお化けを信じていないけど、俺の中に何かを怖いって思っている感情は絶対にある –
– まずは最新アルバム『また会おう』の話の前に、GeGeGeそのものについて聞きたいと思います。GeGeGeはどのようにして始まったのでしょうか。
大学の時、軽音部でバンドを組んでいたんです。そのバンドは金沢のコンテストで賞を取ったりしていたんですが、僕は曲を作ったこともなければ、コピーもしたことないし作曲の構造も分かりませんでした。それでも、調子に乗っちゃって「俺らセンスあるじゃん」とか言っていましたね。でも、ある時ドラムとベースが体調不良で抜けてしまって、打ち込みでライブをしないといけなくなったんです。ドラムとベースを打ち込みでやるから自然とDTMを触るようになり、東京でギター2本と打ち込みのベースとドラムでライブをしたら、海外の人にも褒めてもらえたんです。自分では自信なかったけど、そういった反応がもらえて嬉しくて、そのタイミングで一人で曲を作れると思いました。とはいっても、元々やっていたバンドのサブみたいな感じで、当時よく聴いていた音楽に影響されたものを軽い気持ちでやってみようって感じでした。
– その当時聴いていた音楽は具体的にどんなアーティストでしたか?
当時聴いていたのは、2010年代初期の〈Captured Tracks〉周辺でしたね。それこそ、Mac DemarcoやBeach Fossils、DIIVです。僕は、DIIVよりもBeach Fossilsの方が好きで、あの1stのローでデッドな感じを聴いてから逆にVelvet Underground とか、昔のサーフロックにハマりました。あとは、PorchesやFrankie Cosmosも好きでした。日本語のアーティストで言ったら、スーパーカーが好きでしたね。
– 当時はどのようなルートでそういったジャンルを知ったのでしょうか?
YouTubeが多かったですね。特に「David Dean Burkhart」というチャンネルが好きでした。このチャンネルは昔の映画とかを勝手にコラージュしてMVを作って、アーティストがリリースしたものよりも多く見られるようなMVを多く作っていたんです。それを片っ端から追っかけてましたね。
– その”硬さ”はパンキッシュでロックな響きにはむしろより向いていると思ってます –
– 今の話は多くのインディー・ミュージックファンから共感されそうなお話ですね。では本題のGeGeGeについてですが、まずこの名前の由来を教えてください
この名前をつけた当時、かっこいい名前で日本語がいいと考えていました。僕の家の本棚にSF小説が並んでいて、そこにあったPhilip K. Dickの『Ubik』があったんですよ。当時はこれにしようと思ったんですけど、たまたまその隣にあった水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』を見たらその言葉のインパクトが強すぎて。ローマ字にしてもカッコよかったし、これだと思いました。ただ、しばらくしてから少しコミック要素が強すぎる名前だし、もっとかっこいい名前があったんじゃないかなと思ったこともありました。
– なるほど、やはりSFの世界観はGeGeGeから切り離せませんね。今の話で日本語が良かったとありましたが、USの音楽に興味を持ちながらも、歌詞などでも日本語を大事にしていますよね。日本語の魅力とはなんだと思いますか?
英語も日本語もどっちもかっこいいと思っていますが、日本語で歌おうと決めたのは英語だと自分の想いの全てを注ぐことが難しいと感じたからです。曲作りの時に、英語っぽいフレーズを仮録りする時もあるんですけど、やっぱり自分の想いが乗らない。だから、最初から英詞で作るつもりはなかったです。ただ、日本語で歌うと情報量が載せられないだけでなくて、メロディも硬くなるから英語で歌っている曲と同じ雰囲気にはできない。でも、その”硬さ”はパンキッシュでロックな響きにはむしろより向いてると思ってます。
– 英語で生まれたパンクやロックが、日本語を使うことによってさらにロックでパンキッシュになる。とても面白いことを聞けました。ただ、日本語を使って海外のサウンドと掛け合わせることは、多くの国内アーティストがやっていると思います。そのほとんどは魅力的では無いので、GeGeGeの魅力はその2つがかけ合わさっているだけではなく、その使い方にあると思います。詩に余白を持たせて意味が無さそうであったり、意味がありそうで無かったりする。その余白にサウンドがパズルのようにはまり、歌詞単体がサウンドを超えすぎることはなく、補完関係のようにあると思います。こうした特徴ははっぴいえんどやゆらゆら帝国、折坂悠太にも共通する優れた詞の条件のように思うのですが、この歌詞とサウンドの関係性で意識していることはありますか?
それはめちゃくちゃ意識していますね。具体的にこの“余白”を持たせるために、歌詞で時代をイメージさせる言葉は使わないようにしています。例えば「スマホ」とか「SNS」、今の政治の状況とか固有名詞は入れないです。聴いた時にできるだけ、どの時代にそれが歌われているかイメージされない状態にしたいんです。僕的にそれはSF的な感覚に近いと思っています。未来についてはよく歌詞にしますが、あらかじめ未来について言うことって、もうすでに普遍性を持っていますよね。あと、はっぴいえんどは歌詞に余白を持たせることはしていると思いますが、逆に『風街ろまん』とか聴くとコンセプチュアルに世界観を組み立てているなという印象があります。そういう意味で言うと、僕の作る曲にコンセプトは存在していなくて、どちらかというと自分の想いの方が強いんですよね。
– なるほど。基本的に一人称、ひいては俺/僕という視点で語られているのが特徴的だと思っていましたが、そういった経緯があったのですね。OGRE YOU ASSHOLEの出戸さんもこのような語り方をされますよね。
例えば「僕は見た」という歌詞があったとしても、本当に僕が言っているような感覚の時もあれば、子供の時の僕が言っているような時もあります。でも、どちらにしても僕自身の想いからは抜け出したくないんです。聴いている人にとっては、その人にとっての僕だったりするのかもしれないですけど、僕の想いが強ければ強いほど共感はしやすいのではないかなと思います。
– その何かっていうのが心霊で、お化けがいるとかいないとかじゃない –
– 引き続き日本語についてお聞きします。海外のアーティストに比べて、GeGeGeのみならず、betcoverや折坂悠太、踊ってばかりの国、坂本慎太郎などが「お化け」「幽霊」などの心霊に関する歌詞や曲名を使っています。1stアルバムに「消えた幽霊船」という曲を作ったGeGeGeのミズノさんにも、どのような感覚をお持ちかお聞きしたいです。
名前もGeGeGeですもんね(笑)。まず、日本のお化けとか妖怪って宗教的な雰囲気が少ないですよね。海外だと宗教が絡んでくることが多いイメージ。日本人にとっての幽霊はどちらかというと、心の中にある恐怖が形となってみんなが認識できるように表現されているのではないかなと思いますね。話が変わっちゃうんですけど、金沢のバンドの先輩で心霊好きの先輩がいて、僕は信じていないから、その先輩に「幽霊とかいないし、何言ってるんですか(笑)」みたいなことを言ったんです。そしたら、『ミズノ君、夜中の3時に窓を3cm開けて、「おいでください」って言える?』って言われたんです。考えてみたら言えないなと思って、これってなんなんだろうと言ったら先輩が「それが心霊だよ。君の心の中で怖いと思っている、その何かっていうのが心霊で、お化けがいるとかいないとかじゃないよ」って答えて。これを聞いてなるほどなって思ったんです。俺はお化けを信じていないけど、俺の中に何かを怖いって思っている感情は絶対にあるなって思って。それが僕のお化けの感覚ですね。
– 確かに腑に落ちました。自分もそうですけど、心霊を信じていない人も恐怖の感情はありますよね。そして日本では、ほとんどの人が貞子や妖怪、白い服を着た女の人など、様々なことに対する恐怖感を共通して持っていますよね。それを持っているからこそ、アーティストが使うお化けや幽霊を使ったそれぞれの世界観に辿り着けるみたいなことはもしかしたらありますね。
– 今作『また会おう』はオリジナルアルバムとしては5年ぶりとなるリリースですが、その前に今年3月に音源集『demotachi』をリリースしていたことも記憶に新しいです。37曲という驚きの曲数に、Mac DeMarcoが昨年199曲/9時間という異常なデモアルバムを出していたことを思い出しました。『demotachi』がこのタイミングでリリースされたのは、『また会おう』への序章的な意味合い、今までとの区切りみたいな意味が込められていたのでしょうか。
コロナで2ndアルバム『MOON』のツアーがなくなっちゃったんです。まだその時は金沢にいたのでライブもやりづらくて、自分で音楽を外に出すっていう機会がなくなってしまって。そうした中で、今までのデモ音源を聴き直して、このデモにしかない良さがあるなって改めて思ったんです。あとは、今言ってくれたようにMacが曲を一気にリリースしたり、WHITNEYのデモ盤とかTame Impalaが『Lonerism』の10周年盤にデモ音源も入れたりしたことも影響を受けました。こういうデモをあげるっていうのは僕がいいと思っているかどうかは別として、聴く人からしたらどっちも関係ないなって思ったんです。それだったら自分のパソコンも買い替えたいタイミングだったし、その前に全部リセットしようと思って、今までのデモを発掘してきてリリースしたんです。なので、区切りをつけたかったというのは結構あります。『MOON』までのデモを含めた楽曲を全部出し切っちゃって、自分のスタイルは一旦ないことにして、改めて作り直そうと思ったのがあの作品です。
– やはり今作『また会おう』は聞いても分かりましたが新たなGeGeGeなんですね。とはいえ、前作から5年が経過しましたが、この期間で何かアーティストとして考えの変化はありましたか?
正直、僕にとっての音楽は世の中に出すためだけにあるわけではなくて、家で特に目的もなくギターを弾いている時もあれば、リリースのためではない録音だってする時もあります。だから、リリースしていないから音楽と離れてたわけでもないし、自分にとってリリースすることはそこまで重要ではないんです。ただ、金沢での仕事に区切りをつけて東京に行くことを決めて、そのタイミングで、改めて外に向けて音楽を出したいという想いが強くなって、ライブもしたいなって思いました。今までは70%くらいで曲作りを終えていて、その状態がむしろ好きだったんですけど、100%の状態に持っていこうって2023年くらいのタイミングで思いました。そしてライブも月に1~2回やるようになると、バンドの音の響きが新鮮でそういえばこんなかっこよさがあったよなって改めて思い出させられたんです。だから今作は、宅録ではあるけど、宅録すぎないバンドのかっこよさが聞こえるようにしたいなって思ってちょうどその折衷案がこれだったんです。
– 今作を語る上でもう一つキーになるのが、客演ですよね。xiexieのMeariさん、BSSMのAyuさん、Yusukeさん、LIGHTERSのRumiさん。この客演はそういったバンドサウンドへの意識によるものから生まれたアイデアだったのでしょうか。
やっぱり、家で一人で作っている曲ってめちゃくちゃ暗いんですよ。自分が暗い曲が好きだし、暗いとか悲しいみたいな部分がないバンドってあまり好きになれなくて。逆にアイドルくらい全くそういうのを感じさせなければ好きなんですけど。
それと、今作は3枚目なので他のバンドの3rdアルバムをよく聴いていたんです。Beach FossilsやDIIV、The Velvet Underground、ゆらゆら帝国の3枚目とか。これらを聴いてみると、どれも爽やかなんですよね。だから自分も爽やかな作品を作ろうと思って、どうやったらできるだろうと考えたんですけど、自分の声だけだとどうしても無理だなって気づいたんです。そのために女性の声を入れて、爽やかに、そしてパワフルにしたいって思い参加していただきました。
– 確かにそれは言えますよね。Beach Fossilsの3枚目のアルバムは群を抜いて爽やかですもんね。
当時は3枚目より前のBeach Fossilsが好きで、最初に「This Year」を聴いた時は少し戸惑いましたけどね。ただ、今聴くとなるほどってなるんです。この爽やかさってバンドだからこそ出せる、広がりを持っているキラキラさだと思うし、それを自分も出したいなって思ったんです。
– ウルトラマンのテーマソング –
– 詩に関して言えば、小学生にもわかる日本語で曲を書いたとありますね。
今回のアルバムを作るにあたって、自分の子供の時の原体験だったウルトラマンのテーマソングを改めて聴いてたんです。そのテーマソングは幼稚園の時に親戚が僕のためだけに、ウルトラマン・テーマソング集みたいなものを作ってくれて、しかも盤面も僕がウルトラマンの格好をしたやつで。それを聴いていて、そのワクワクする感じやパワフルな感じとか、曲によってウルトラマンが戦わないといけない悲しさみたいなのが表現されていて、それがすごく好きで。ヒーローソングの、子供にも伝わりながらもちゃんと今聴いてもかっこいいと思える良さみたいなところを意識したかったんです。もちろんヒーローソングと曲の雰囲気は違いますけど。
– そのいい意味での「わかりやすいかっこよさ」みたいなものはサウンド面でも感じ取れます。今作は「改めて1stアルバムを作った気持ちで制作した」とプレスリリースに書かれてましたが、確かに、今まで以上にガレージ、そしてUKの色味が加わったようにも感じました。これまでのGeGeGeはUSインディー直系の“ローファイ〜宅録”感のあるサウンドが特徴的だったこともあり、その意味で今回の変化には驚きました。ダンスやエレクトロニックなど様々なスタイルチェンジのやり方がある中で、このガレージロックっぽさを強める方向に行ったのはなぜでしょう。
The LibertinesとかThe Strokes、The Kinksとかをよく聴いていましたし、単純に僕がガレージロックが好きということが大きいと思います。そしてさっき言ったバンドのかっこよさみたいなものを深掘ると、それは自分の中でガレージロックのかっこよさにも繋がる部分が、僕の中にどうしてもあるんだと思います。それでも、今作は宅録でギターやベースを録って、アンプも通していないんです。自分のやってきた宅録へのこだわりもあって。これまでのアルバムはリアンプと言って、一度宅録したものをアンプに通して、アンプから録音する方法でやってきたんです。ただ、『demotachi』を聴いて、直で宅録する良さがあるなと改めて感じました。だから今作は完全に宅録で、その中でガレージロックのかっこよさをどこまで表現できるかっていうチャレンジでもあったんです。
– アンプを通さないことで生の音を使わずに、生の音に近づけたということですね。
そうです。アンプを通していると部屋鳴りが聞こえるんですけど、キラキラしているサウンドやリバーブの効いた音の立体感が出るんですよね。だけど、『demotachi』を聴いて思ったのは、耳に直接刺さる感じや個人の人が家でセコセコやっている感っていうのは、アンプではなくてライン録りでやっているからこそというのもあるんじゃないかなと、無理矢理自分で解釈した感じですね。だから、決め事として、アンプからは今回は録らないって決めたんです。これってハイパーポップ系のアーティストとかは、もう当たり前にやっていますよね。ライブもインターフェースを繋いでスピーカーから出すってことも普通ですし。そういうライブも東京に来てから観るようになって、なるほどってなりましたね。
– 来年ツアーをされますが、今回アンプを使わなかった音源をライブでどう表現していくかというイメージはありますか?
それはアンプです。というのも、ライブと音源は全く別と考えているからなんですよね。自分の音源に持っている湿っぽさはライブには存在せず、もう少しカラッとしてパワーを感じて欲しいんです。そのパワーを出すためにはアンプを通すこともそうですし、できるだけ人数を少なくしてそれぞれの良さが聞こえる状態でドカンとやりたい。なので、音源だったらギターが5本鳴っているところも、歪ませてボリューム大きめで1人でやります。
– 今の話やアルバムの音源を聴いても、ライブがとても楽しみです。では、最後にこの記事を読んでいる読者に何かメッセージがあればお願いします。
みんなも曲を作ってくれって言いたいです。本当にそれだけです。今の時代、作れると思うんですよね、パソコン一台あれば。別にそれはロックでなくても、ダンスでもなんでもいいと思います。そしてできれば、バンドとかみんなで何か作るのではなくて、一人の人が作ってその人の音を聴かせてくれって思います。そしてそれを送ってください。聴いてみたいです。ただ、知らない人にいきなり送られても少し困っちゃいますけどね(笑)。
◼︎Biography
GeGeGe は日本のインディー音楽プロジェクトであり、2017年頃からミズノリョウトによるソロ・プロジェクトとして石川県金沢市を拠点に始動。同年2月には1stEP『もやもや』を〈Dead Funny Records〉からリリースし、12月にGalileo Galileiのプライベートスタジオ「わんわんスタジオ」にて一部制作された1stフルアルバム『SF』をフィジカルとして初めてリリース。US インディーのアーティストを彷彿させるようなローファイ・ミュージックに、浮遊感のある日本詩が絡み合うサウンドを展開し、無名ながらも注目を浴びることとなる。2018年からは、友人達をメンバーに迎え、東京を中心にライブ活動を始め、2019年12月に2ndフルアルバム『MOON』をリリース。2020年には、株式会社ユートニックとウェブ音楽メディア「OTOKAKE」が共同主催するコンテスト「PPCONTEST」にてサウンドや歌詞が評価され総合グランプリを受賞。現在は東京を拠点にgt/vo.ミズノリョウト、dr.フクダタクロウ、gt.オダモリト、ba.マエノリンカイを4人で活動。