| Interview
Astrid Sonne

曖昧で分からないことばかり。それでも存在する確かなもの。デンマーク出身アーティストAstrid Sonneの不確実性の美しさを示した最新作『Great Doubt』の背景に迫る独占インタビュー。
– 愛は進歩していくものでもあるし、衰退していくものでもある –
– あなたが再び日本に戻ってきてくれたことを嬉しく思います。今回の来日は7年ぶり2度目ですが、最初に来日した時は自分たちでツアーを組んだらしいですね。そこまでして日本でライブをしたいと思う理由はなんなのでしょうか?
ありがとう。私も戻ってくることができて本当に嬉しいわ。確かに前回は友人とツアーを自分たちで企画した。とにかく日本に旅行したくて、2人とも個人で音楽を始めたばかりだったからライブもやりたかったの。そんなにお金はなかったんだけど、デンマークに資金援助を申請して援助を受けられたことで、上手く旅行とライブの2つを組み合わせることができた。こうしたカルチャーへの補助が手厚いことはデンマークのいいところだね。日本に行きたかった理由は明確だったわけではなくて、ただ子供の頃から行きたいと思っていた国だった。映画やメディアで見ると日本は他の国と全く異なっていて、本当に美しいと思っていたの。実際に訪れると、信じられないくらいの歓迎を受けたわ。だから、今日に至るまで常にとても素晴らしい印象を持っているの。
– 何か観光したり、お気に入りは見つかりましたか?
もうだいぶ前になるけど、最初の来日ではレコードを買い漁ったり、東京の大きなお寺に行ったりした。そして住宅街にも行っていろんな建物を見ることも好きだったの。家とライブ空間、他にも家と何かのお店が一緒になっていたり。
– 狭い土地で人口が多い日本の都市の街並みは少し独特かもしれません。
そうそう。サブカルチャーだけではなくて、文化全体が本当に素晴らしいと思う。本当に楽しんでいるわ。今回はまだちゃんと観光をできていないんだけど、次の2、3日で観光しようと思っているの。
– 今回のツアーで京都や金沢など日本海側の地域でライブをされましたね。この2つはとても良い街ですが、来日アーティストのライブ会場として少し珍しさもあります。
今回のツアーをプロモートしてくれている〈Pacific Mode〉と連絡をとっていたら、京都と金沢を提案してくれたの。私もマネージャーも〈Pacific Mode〉のことを信頼しているから、間違いないと思ってただ行ってみた。そして、結果的に間違ってなかったわ。京都にも金沢にも行ったことがなかったけど、どちらの街も本当に素晴らしかった。メディアでよくフューチャーされる東京もいいけど、自分の知らない他の部分も見ることができてよかったと思う。
この後のライブも楽しみです。それでは、あなたの音楽の話を始めましょう。まず、あなたのキャリアはどのように始まったのでしょうか?
6歳から音楽を始めて、子供の頃はずっとクラシックをやっていたわ。 そして、2018年に初めて日本でライブをした1年前くらいにクラシックから離れた音楽を始めたの。確か2016年〜2017年頃だったと思う。パソコンで作業をするようになってクラシックから離れた当初は、もっと実験的なサウンドスケープを探求していて、なんというか今よりもアクセシブルな感じだった。でも、自分にとってはそれがどんなジャンルかというよりも、何に興奮して、何に興味を抱くことができるか、そしてそこに行きたいと思えるかが大事だと思う。だから次に作るアルバムがどんなサウンドになるかすらも、自分では全く想像ができないし、とにかく私は好奇心旺盛で、様々なことを試してみたい。


– もっとダイレクトに伝わるものが必要だった –
– 現在は拠点をロンドンに移し、まさにその好奇心を刺激する環境がありますね。MoinのValentina MagalettiやTirzahなどをはじめ、あなたの音楽と共鳴するようなアーティストがロンドンにはたくさんいますし、こうした環境に身を置いたことはあなたにとって大きかったのでは?
そうだね。ロンドンに住むことも好奇心、探究心によるものでもあったし、本当に素晴らしい環境だと思う。でも、同時にそれは大変なことでもあるの。物価はとても高いし、コペンハーゲンよりも大きな経済があって、競争も激しい。ただ、今話に出たアーティストの音楽もそうだし、エキサイティングなこともたくさんある。特にロンドンからは強い多様性を感じる。そしてあなたの言った通り、それが私の音楽にも反映されていることは間違いないわ。
– そうして生まれた最新作『Great Doubt』には、ドラムのビートとボーカルが加わり、今までの実験的でエレクトロニックな作品とは明らかな変化を感じました。環境を変えたことにより生まれた変化でもあると思いますが、より具体的に、どういった考えや感覚の変化があったのでしょうか?
変化を一言で表すとすれば、“音色の幅の探求”という考え方になると思う。『Great Doubt』を作る時、新鮮さや新しさを感じるものに惹かれたの。だから、ドラムや自分のボーカルに取り組んだのは、そうした追求から生まれたものだし、ここに至るまでとても長いプロセスだったと思う。今まで合唱団で歌ったり、クラシックを歌ったりすることはあっても、声をソロ楽器として使うことはなかったからね。だから最初は表現としての露出度が高すぎるとも感じたけど、私にとってもっとダイレクトに伝わるものが必要だったから、この変化は理にかなっていたと思う。
– こうした問いは常に変化するし、面白い疑問だと思う –
– まさに今言った「ダイレクトに伝わるもの」が僕の感じるアルバムの魅力の一つです。全体的に抽象的なサウンドや雰囲気に包まれていますが、要所でハイライトになるようなリズムやメロディと詩が存在します。「Do You Wanna」にある“Do you wanna have a baby?”という詩も、とてもダイレクトで何か生々しい印象を持ちました。
この曲はとても面白くて、聴いた人みんながそれぞれ違った印象を持つの。悲しいと思う人もいれば、バカバカしいと思う人、ロマンチックだと思う人もいて、ある人は面白いと感じる。実際のところ、この曲は現実的なものから生まれたのよ。あるパーティーで何気ない会話をしていて、その人に「赤ちゃんは欲しい?」と聞かれたんだよね。なんとなくその言葉が面白いと感じて、それをリリックの中心として曲を作ったの。だから、あまり意識的に生んだ言葉ではなくて、何気ない会話から生まれたの言葉なのよ。
だけど、この言葉は女性として20代、30代になったときに受ける、ごく普通の質問なんだよね。そして、よく受ける個人的な質問であると同時に、より高い視点から見ることもできる。例えば、「この世界に新たな命を呼び込むとはどういうことなのか?」とか、もっと言えば「私たちが生きている世界とは何なのか?」みたいなね。というのも、私たちは多くのことがすぐに変化する時代に生きていると思うから、こうした問いは常にその時によって変化するし、面白い疑問だと思うの。このアルバムや曲を書いているときですらも、個人的に大きく変化していたのよ。
だから、様々な意見があると思うけど、みんなが自分の個人的な経験をどのように私の曲に反映させるか、そして解釈するかをとても楽しんでいるわ。それはその時々で全く違うからね。
– 関係性にもよりますが、女性に「赤ちゃんは欲しい?」って聞くことは女性を生きづらくさせる、危険性のある言葉でもありますよね。なので、初めて聴いた時はそうしたことに対する疑問や怒りなのかなとも思いましたが、世界を考えるきっかけとなる言葉としても捉えていたのですね。
もちろん、その感覚も分かるわ。実はこのアルバムを制作していたとき、この曲はちょっと直接的すぎるし、リリースするのは止めようと思っていたの。”Do you wanna have a baby?” の詞も問題になりそうだしね。でも、この曲は結果的に人々の心に届いて響いてくれたし、それって本当に素晴らしいことだと思う。
– そんな背景があったんですね。こうした緊張感はアルバム全体で感じます。また、愛について歌う曲であっても、愛の不確かさや、脆さ、怖さもありますよね。少し大きなテーマになりますが、あなたの愛に対する捉え方や考え方が気になります。
とても面白くて良い質問だと思う。けどなんて言えばいいんだろう…。
-大きくて抽象的な質問でしたね。自分がこれを聞きたかったのは、「愛は偉大だ」みたいな価値観が定着していることに少し疑問があるからです。もちろん素晴らしいものであって欲しいですけど、そうではないと感じることや偉大というわりには意外と脆く感じたりもします。
愛が何なのか、私もあなたも何となく分かっていると思う。でもその一方で、分からないこともあるし、それはこれからもずっとそうだと思う。進歩していくものでもあるし、衰退していくものでもある。よく赤い糸というけど、常にそうなんだと思う。素敵な繋がりだけど、時に簡単に切れてしまう。そしてもちろん、とても重要なことだと感じる。家族や友人、パートナーなど、いろいろな形で存在するものだから一概に定義することは難しいけどね。ただこうしたことを考えるのは好きだわ。

– 私と〈Escho〉は強い繋がりがある –
– 作品の話に戻りましょう。リミックスアルバム『Great Doubt EDITS』ではML Buch、Fine、Molinaなど同郷デンマークのアーティストや、MoinのValentina Magalettiも加わった素晴らしい作品だと思います。ロックをエレクトロニックに変化させることがよくありますが、このアルバムでは世界観はそのままで、別の角度から同じ方向に探求しているように感じました。オリジナルアルバムを制作する段階で、他のアーティストを参加させることも前提に曲作りをしていたのかなと予想したのですが、実際はどうなのでしょうか?
実は違くて、このアイデアは最初は存在しなかったの。なんというか、リミックス・アルバムに対しては、いつもちょっと気が引けていて。でも、レーベルの〈Escho〉が「やるしかない、絶対にやるべきだ」って言ってくれたの。それで実際にやってみたんだけど、実行して正解だったと思う。本当に簡単で楽しいプロセスだった。何人かの友人や、個人的に知り合っていないアーティストたちにも声をかけたら、みんながやる気になってくれた。彼らが貢献したいと言ってくれたことをとても光栄に思うし、嬉しいわ。
– まだ知り合っていないアーティストもいたんですね。コラボレーションしたアーティストとあなたの音楽の共鳴はとても自然で美しかったです。そして今話に出たレーベル〈Escho〉は2010年以降の音楽を語る上で欠かせません。イギリスに拠点を置きながらも、このレーベルからリリースすることはやはり特別でしたか?
〈Escho〉とは今も一緒に仕事をしているし、キャリア全体を通してもまだ〈Escho〉としか仕事をしていないの。彼らと一緒に仕事をすることが本当に楽しいし、信頼しているわ。そしてレーベルもそうだけどマネージャーに対しても信頼していて、私にとって必要な存在なの。マネージャーも元々〈Escho〉で働いていたこともあって、私たちと〈Escho〉は強い繋がりがある。
そろそろライブの時間も迫ってきていますが、今の気持ちはどうですか?
とても興奮している。それにみんなすごく暖かくて親切なことが本当に嬉しいの。WWWはクールな会場だし、このツアーで一番大きなショーになる。何よりも石橋英子と同じ舞台に出れるなんて夢のようだわ。
Photographed by kokoro
◼︎Biography
デンマーク出身で現在ロンドンを拠点に活動している作曲家、ヴィオラ奏者。2018年のデビュー以降、エレクトロニックとアコースティックな楽器を駆使した実験的なアプローチで楽曲をリリース。2024年1月にデンマークのインディペンデント・シーンを代表する名門レーベル〈Escho〉から3rdアルバム『Great Doubt』を発表。飛躍した演奏技術と新たにボーカルとビートが加わった作品はアート・ポップ/モダン・クラシカルへと進化を遂げ、2024年度の最高傑作として世界中のメディアから称賛された。2025年2月に〈Pacific Mode〉が主催となり2度目の来日を果たし、東京公演ではAstrid Sonneが敬愛する石橋英子と共演を果たした。