Interview – tenbin O
三者三様の個性を同居させながら新しい形で音楽のあり方を追求する次世代バンド tenbin O。
“悲壮の欠如”というテーマで訴えたもの、ジャンルや言語の括りを超えた先で鳴らした、3人の音に迫る。
– 既にもう、新しいところへ踏み出している −
– はじめに簡単なバンドの紹介からお願いします。
2022年1月に結成した、KD(Ba,Vo)、石井さやか(Gt)、松浦空洋(Dr)で構成されるトリオバンドです。東京を拠点に活動しています。
– キイチビール&ザ・ホーリーティッツと余命百年の元メンバーということですが、tenbin Oは2つのバンドよりも、より海外インディーに傾倒した雰囲気があります。“そのようなサウンドをやりたかったから” という思い以外に、方向転換した理由やきっかけがあれば教えてください。
前のバンドでは、元々の作詞作曲者でありボーカルの子が休むことなり、急遽コーラスだった私がフロントマンになってバンドを存続させるという、特殊な状況下での活動でした。その時の経験は大事なものだし、作曲も楽しかったけれど、既に出来上がっているバンドのイメージの枠の中で、創作への躊躇が出てきたんです。自分らしく自然に表現できて、もっと楽しいと思える瞬間を作ろうと、改めてtenbin Oを結成することに決め、前ディレクターの助言もあり石井ちゃんと空洋を誘いました。傾向が変わったように聴こえるのは、私の元々の趣味の部分が出せているからだと思います。曲調が変われば各々プレイスタイルも変わりますが、2人は柔軟で勘が良いので、どんどん新しいことに挑戦できる雰囲気です。これからも面白くなりそうです。
– tenbin Oのサウンドは、その耽美さから、〈Matador〉や〈4AD〉、最近だと〈Fire Talk〉のアーティストを想起させられました。しかし、tenbin Oとしてやっている以上 “〇〇っぽい” だけで括られるのは本望ではないと思いますし、アルバム全体で見れば、そうではない側面も感じました。ご自身が思うtenbin Oらしさや、目指す姿などはありますか?
tenbin Oは三者三様といいますか、それぞれが独立した気持ちの良い関係を築いていけると感じています。独特なバランス感覚とユーモアを大事にしながら、「こうあるべきだ、こうしなきゃいけない」という考えに囚われず、かっこいい曲を制作していきたいです。既にもう、新しいところへと踏み出しています。
– 別のインタビューで「tenbin Oを結成した当時は、声を張るような音楽はやりたくないなと思っていました。」と語っていたのが印象的です。このように思ったのは、以前活動していたバンドでの経験、あるいは何かきっかけなどがあったのでしょうか?
当時は色々と難しい状況だったこともあり、力が出なかったんですね。良い気分ではないとき、身体が動かないようなときにも聴ける音楽っていいなとぼんやり思っていました。
– スリーピースというミニマルな体制はこのバンドの特徴の一つだと思います。「声を張らない音楽」であることもそこに含まれると思いますが、限られた人数で音楽をやることのメリットは何かありますか?
誰かが遠慮することなく、3人が同等で、思いきり個性を発揮できるのが楽しいです。それぞれが向き合い、ちゃんと見る、集中するためにも、今は少人数がいいなと思っています。
– デビューアルバム『Lack Of Heroism』についてお聞きします。
タイトルの英語は“英雄的資質、悲壮の欠如”を意味します。サウンドから繰り出される儚さや脆さはどこか頼りなく、その点においてタイトルと繋がるように思います。このテーマ設定はどのような経緯で決まったのでしょうか?
Heroismは直訳で英雄的行為ともいいますが、私はそこに悲壮という意味を込めました。そこには羨望のような気持ちも含まれており、それが「欠如している」、今ここにないばかりか、もうどこにも見つからないのではないかというような風味さえ持っています。口語的に用いる「悲壮」という言葉の支配から脱して、もっとファクトに近づいた性質について思考している中で制作し、それらを通過した後、思い浮かんだタイトルです。
-『Lack Of Heroism』はバンドとして初のフルアルバムになりますが、今作の制作過程で特に困難だったこと、または楽しかったことはありますか?また、収録されている楽曲のうち、特に制作面で印象的だったものがあれば教えてください。
エンジニア(recording / mixing)の飯塚さんは、結成するちょっと前に *家主 のライブで初めて出会ったのですが、一緒にご飯を食べたり、好きな音楽とか、DTM周りのことを教えてもらったりして交流がありました。そういう友達のような関係の人と制作できるのは一つの理想だったし、実際楽しかったです。メンバーとは、私が作ったデモを初めてスタジオで合わせたときから「いいね!」って感じたし、ライブで慣らしたり調整しながら、それぞれの中にtenbin Oの形が見えてきたところでRECに臨んだので、ベーシック録りは2日間で終えました。1st テイクを採用した曲もあります。タイトな作業だったけど、変な緊張もなく、エキサイティングな時間でした。レコーディング自体は2022年の6月頃の話で、リリースとちょっと間が空いたんです。なので思い出しながらですが、そんな感じで順調だったと思います。
*家主 – 東京を拠点に活動する4人組バンド。2013年に田中ヤコブ(Vo, G)、田中悠平(Vo, B)、岡本成央(Dr, Cho)によって結成。2019年に谷江俊岳(Vo, G)が加入する。2019年に〈NEWFOLK〉より1stアルバム『生活の礎』、2021年に2nd アルバム『DOOM』をリリース。2022年12月に初のライブアルバム『INTO THE DOOM』を発表し、その後、全国ツアー「Live Tour 2023」を開催。初の単独公演を東京・渋谷CLUB QUATTROで行い、チケットがソールドアウトを記録した。2023年12月に3rdアルバム『石のような自由』を配信リリース。
– 楽曲は日本語と英語で歌われていますが、詩によって日本語の方が良い、あるいは英語の方が適しているというような基準があったりするのでしょうか?もしあれば、歌詞の具体例と一緒に教えていただけると嬉しいです。
最近の作り方で多いのは、メロディが生まれて、初めて口ずさむとき既に母音のような音がついているので、それをヒントにリズムやメロディを損なわない言葉を当てはめていくやり方です。アカペラで、歌詞が同時に出てくることも多いです。語感を大事にしており、自然と出てきた言語、合いそうな方を採用しています。「Blind Love」の出だし「まあるいコイントスのユーモア」とかは前から私の中にあった言い回しで、元は違う曲におさまっていました。世に出されなかったアイデアを再構築したり、メモを見返してこんなのあったなーっていう、お気に入りの言葉を引っ張ってくることもあります。
– Drug Store Romeosを撮影したNeelamがアルバムのジャケットを担当していますね。音楽とビジュアルが密接に関わっていると思いますが、今回のアルバムについて、楽曲ではなくアートワークを通して表現できたと感じることは何かありますか?
Neelamとはメールでやり取りし、タイトルに込めた意味やイメージを伝えました。ひとりの人の、形容することができない表情、憂鬱かもしれない、惹きつけられるような眼差し、誠実で中立的、少しの希望。そういう漠とした心の中の風景がNeelamの手によって現実に見えるものとなって、たくさんの人と共有できることが嬉しいです。
− 自分次第で色んな状況を楽しめる –
– ここ数年、海外ではドリームポップ再評価の流れがあり、ここ日本でもコクトー・ツインズやマジー・スターといった、シーンを代表するアーティストが再び注目を集めています。そんな中で、日本人のアーティストとして、ドリームポップをやる意味やバンドとして目指していることはありますか?
ドリームポップ…あまり意識していなかったです。やる意味についても考えたことがありません。変化を重ねて、その時点での自分たちを全力で表現し、形に残していきたいです。最近はダンサブルなアプローチにはまっていて、みんなで探求しています。
– 日本のインディーシーンに長年身を置き、海外のインディーシーンも追っているとは思いますが、日本の音楽シーンが持つ良さや、その逆に良くないと感じることはありますか?
うーん。疑問に思うことは多々あります。でも、共演した海外のアーティストたちが日本の音楽シーンを楽しんでいる様子を見て、自分の見方の問題もあるのかもと感じました。みんなが好きなものを自分は全然わからないってのが繰り返されると、塞いだ気分になることもあるのですが、それは数ある罠のうちのひとつみたいなもので。気にしなくていいんだけど、自分次第でもっと色んなものの良いところを発見できるし、色んな状況を楽しめるんだってことも忘れないでいたいです。そして、そういうしなやかな人間性は自信から出発するものだと思っています。だから着実にやるしかないですね。
– これからの活動についてお聞きします。今後共演してみたい人や、クリエイティブ面においてコラボしてみたい人はいますか?
The OriellesはNeelamの写真を通して知ったのですが、創造性に溢れていて、とてもクールです。いつか共演してみたいです。あと、Charlotte Adigéry & Bolis Pupulと踊れるショーをやりたい。クリエイティブ面だと、台湾を拠点に活動するアーティスト/アニメーターのZhong Xianさんの作品が好きです。いつかMVを一緒に作りたい。メキシコのアニメーター/イラストレータースタジオのCossaも気になっています。
– 1st アルバムのリリースを経た今、tenbin Oを通して実現したいことはありますか?
早速ですが今年は2ndアルバムのリリース、そして3rdの制作に集中したいです。
– 最後にメッセージをお願いします。
2月28日 (水) に下北沢THREEでリリースパーティーを開催します。音源とはまた違うtenbin Oの姿を楽しんでもらえたらと思います。ぜひ遊びに来てください。
■ Release Information
ARTIST:tenbin O
TITLE:『Orphans (猫シ Corp. Remix)』
RELEASE DATE:2024. 1. 24
LABEL:IDEAL MUSIC LLC.
■ Biography
tenbin O
2022年1月結成。
ポストパンクからモダンソウルまで様々なジャンルを織り込み、オルタナティブロックを革新するトリオバンド。欧米のインディ/サッドコアにも通じる美しいメロディーとシュプレヒゲザングのような歌唱が同居し、〈Matador〉や〈4AD〉といった老舗だけでなく、〈Fire Talk〉のような新進気鋭 のレーベルからも続々登場してくるオルタナを指向するバンドとの親和性も高い。
2023年 11月 15日 に1st シングル「Happy Medium」、12月 6日に1st アルバム『Lack Of Heroism』をリリース。サウンド・プロデュースはREC&MIXエンジニアも務める飯塚晃弘。 マスタリングは風間萌が手がける。ビジュアル面では、世界中のアーティストのライブ写真、ヘッドショットを撮影し、Weyes BloodやThe Oriellesのミュージックビデオも手掛けるフォトグラファー&映像ディレクター、 Neelam Khan Vela がジャケットを撮り下ろし。「Happy Medium」のミュージックビデオはミラーレイチェル智恵が手がけている。