| Interview
THUS LOVE
アメリカの郊外バーモントで結成されたコミュニティTHUS LOVE。デビューアルバムの成功から、変化と成熟を経て歌われる歓びの讃歌『All Pleasure』が生まれた環境と背景に迫った独占インタビュー
– ここで暮らすことはニューヨークに住んでいることと訳が違う –
– まずは今回のインタビューに応じてくれてありがとうございます。早速ですが、2ndアルバム『All Pleasure』が11/1にリリースされますね。このアルバムについて自分自身で説明するなら、どのように表しますか?
Echo : 良い意味で乱雑なレコードだと思う。そしてこのレコードを形作ったすべてのニュアンスや状況に基づけば、これは新しいラインナップになったバンドとしての素晴らしい始まりだと思う。
– 確かにバンドのラインナップは変わり、AllyとShaneが新たに加わりましたよね。そして2年前の1stアルバム『Memorial』を経てバンドとしての自信が感じられますし、あなたが言ったようにTHUS LOVEの新たな始まり、良い意味で本当のデビューアルバムのようにも思えました。
Echo : その通りで、みんなが今まで培ってきたスキルを持ち寄ったおかげで、より自信に満ちたアルバムになったのは間違いないね。特に新メンバーの加入は大きかったし、Louieと自分は2ndアルバムまでに十分な経験を積んでいたから、より自信に満ちたアルバムができたと思う。
でも、もっと面白いことは、このレコードを作った後にアルバムを一緒に演奏するようになり、自分たちがライブ・バンドになれたことだと思う。だから、色々な意味でバンドは新しくなったし、個人的にはレコードで聴くTHUS LOVEとライブで聴くTHUS LOVEでの違いや、それぞれが持つ特徴に対してかなり自信を持っているんだ。今までもそうだったけど、アーティストとしてこれからもこの感覚は大事にしていきたいね。そして何よりも、この作品を世界と共有できることに本当に興奮しているんだ。
– 日本でもすでにリリースされた先行シングルを聴いて、期待を高めている人は多いと思います。
Echo : 本当に信じられないことだし、最高だね。
– 色々な方法がある現代だからこそ、このやり方が自分たちにあっているんだ –
– 成熟を重ねながらも、フレッシュにもなった2ndアルバム『All Pleasure』ですが、1stアルバムで示した音楽性はしっかりと受け継がれていますね。共通点として、現代的なポストパンクでありながら、The SmithsやThe Cureなど80年代の影響が根幹に感じられます。ミクスチャー音楽とは異なり、一つのジャンルを深めながら新しさと懐かしさを感じられることはバンドの大きな特徴ですね。
Echo : 今名前に出たバンドもそうだし、THUS LOVEは自分たちの影響を受けたアーティストの集大成的な音楽でもあると思う。全ての影響が一つに凝縮されているんだ。だから、自分たちが好きなアーティスト、あるいは強く影響を受けている人のすべてと比べることができると思う。ただ、個人的にガレージロックをこのアルバムでやりたかったから、より大きくそのジャンルの影響が現れていると思う。みんなはどう思う?
Shane : 確かにそれはあると思う。ただ自分はここに来たばかりだからはっきりとわかるけど、バーモントに住んでいることはバンドのサウンドに大きな影響を与えていると思うんだ。ここで暮らすってことは、ニューヨークに住んでいることとは訳が違う。はっきりと言うことは難しいけど、バーモントはより自然豊かで、ガレージ・ロックに深入りしたり、あるいは他の何かに興味を持ったりするにしても、もう少しスペースがあると思うんだ。ここで暮らしているからこそ生まれる、生活の中にあるスペースはこのアルバムのイメージやサウンド、バンド全体に大きく影響しているはずだね。
– 確かにそれは大きく関係してきそうですね。今回のアルバムも1stアルバム同様、レコーディングスタジオを自分たちで作ったらしいですね。まさにこれはスペースがないとできないことですが、バンドにとって良いスタジオを見つけるよりも、自分たちで作った方が都合がいいのでしょうか?
Echo : もちろんそうだね。他のスタジオを借りると本当に高いから、もし自分でできるのであればたくさんのコストを節約できるし、時間も確保できるんだ。もちろん、そういったお金の問題を抱えながら創作を追求することにも理想主義的な美しさはあるけど、Shaneが今言ったように、もし自分たち自身にスペースを与えることができれば、特にそれが新しいことであり新しい人たちとやろうとしているなら、自分たちでスタジオを作る方がより多くの自由が生まれるんだ。それに今はなんでもデジタルの時代だから、自分たちが作ったものを地球の裏側にいる誰かに送れば、その人が何かクレイジーなことをしてくれる。 色々な方法がある現代だからこそ、このやり方が自分たちにあっているんだ。
– まさにDIY精神ですね。
Echo : そうだね。だけど自分たちは間違いなく、良いスタジオを使うレベルにあるバンドだと思う。だから、将来的に違うやり方になる可能性もあると思うけど、適切な時間の中で自分たちの望むサウンドに仕上げられたことを本当に幸せに感じるんだ。それと同時に、自分たちでレコーディングする方が自由とはいえ、時間に限りもあったし『All Pleasure』の制作は本当に大変だったよ。ただ、自分たちの生活がある中で、他のスタジオにみんなが集まり数日間一緒にレコーディングするってことは現実的ではないから、自分たちのレコーディングスタジオと機材を持つ方がより融通が効くんだよね。
– 「Birthday Song」の撮影ももバーモントですよね。MVやGoogleマップでも見たのですが、自然豊かで綺麗な地域ですね。
Louie : このビデオを撮影するってなった時に、ホームタウンで撮影するか、ニューヨークで撮影するかのどちらかだったんだけど、ビデオの監督の一人がバーモントの出身だったんだ。だから彼は、自分たちが何を撮りたいかを完全に理解してくれていたからバーモントで撮影することはとても理にかなっていたと思う。
Echo : 他にもニューヨークで完成させたビデオもあるし、シングル「All Pleasure」はUKツアーから戻った直後、メイン州のポートランドで2日間かけて撮影したものなんだ。ポートランドはとてもきれいなところで、地元に似た雰囲気もあったしお気に入りだね。
Shane : さっき言ったようにバーモントはバンドにとってとても大事な場所だから、ビデオ監督が同じ町出身というのはとても助かったんだ。ポートランドで撮った「All Pleasure」も自分たちが何を撮りたいかを完全に理解してくれていて、バーモントに似た自然に存在するファンタジーのような雰囲気を曲の中で再現できたと思う。MVの撮影はめちゃくちゃ良かったよね?
Echo : 最高だったね。そこに行く人の多くが感じるであろう感覚を上手くビジュアル化できたよ。
– 仲間を見つけること。コミュニティを見つけること –
– バーモントにはいつか行ってみたいですね。そもそもこの町でメンバーはどのように出会ったんですか?
Echo : Louieと自分は6年前に知り合って、一緒に音楽活動をしていたんだ。1stまではベースはNathanielという元メンバーで3ピースバンドだったんだけど今はいなくて、今回からはShaneとAllyが加わっているんだ。ここ1年か2年の間にそれぞれお互いのバンドを通して、全員と知り合ったんだ。そして、Louieと自分がメンバーを探していている時に、お互いを深く知るようになったんだ。面白いことに、自分とLouieは一緒にツアーを周っているときにShaneとAllyのバンドと一緒にツアーをしてたこともあるんだ。自分たちは親友だし、可能な限り最高のものを作るために一緒にやってきたんだ。そして今、〈Captured Tracks〉という素晴らしいレーベルと一緒に新しいものを作っていて、THUS LOVEの音楽をより大きな形で発表することができる。
– 郊外のバーモントで出会い、名門〈Captured Tracks〉からアルバム2作をリリース。夢があり、素晴らしいストーリーだと思います。
あなたたちを深掘る上でお聞きしたいのが、セクシュアリティについてです。プレスリリースにもあるようにあなたたちはトランスアーティストを自認し、オープンにしていますね。特にここ日本ではいまだにセクシュアリティをカミングアウトしたくてもできてない人もいるのですが、あなたたちは自分たちのセクシュアリティをオープンにすることによってこうした人に何かしらのインスピレーションを与えたいという思いはあるのでしょうか?もし、差し支えなければ教えてください。
Louie : そのような思いはあるよ。そしてゴールは常に希望を与え続け、変化を促すことだと思う。でも、それを安全に、コミュニティに寄り添うような形で行うことが大事だと思っているんだ。 つまり、弱音を吐ける仲間を見つけ、一緒にいて安全であり、何かを探求していけると感じられる関係を築けるような手助けになれればいいと思う。特に自分の場合、カミングアウトすることに役立ったのは、友達やグループを見つけたり、一緒にいて安心できる人を見つけたりすることだった。 それが一番大事なことなんだと思う。仲間を見つけること、コミュニティを見つけることがね。
– UKツアーを8月に行っていましたが、率直にいかがでしたか?
Louie : イギリスには何回か行っているんだけど、今回は今までで一番短くて一週間程度のツアーだったんだ。すべてがすごくスムーズに進んだと思う。ツアーが短かったおかげで、さらに楽しむことができたね。
Echo : Shaneの婚約者も来たよね。
Louie : そうそう。自分の親友も一緒に来てくれたし、今までで一番大きなフェスで演奏することができて、本当に信じられないくらい素晴らしかったね。
Shane : 個人的には、アメリカの外に出ることは初めてだった。だから、そこで過ごした1秒1秒がとても大切な思い出だし、イギリスでライブができたことはとても楽しかったよ。違う国でロックがどんな風に演奏されているかは常に興味があったし、特にイギリスはいいバンドがたくさんいるからね。
– THUS LOVEの音楽とも共鳴するバンドも多かったのでは?
Louie : ああ、そうだね。自分たちのお気に入りのバンドでレーベルメイトでもあるDrahlaがいるよね。あとはDry Cleaning、PVAの3つは今思い浮かぶお気に入りのバンドだね。ただ、他にもたくさん素晴らしいアーティストがいてとてもエキサイティングなシーンだと思う。
– 少し音楽から離れた話題に移ります。他のインタビューで、あなたたちはそれぞれ音楽以外にも、様々なクリエイティブな活動をしていると言っていましたね。具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?
Louie : 自分は厨房で働いているんだ。もう8年か9年働いていて本当に大変な仕事だけど、重要な仕事だと思う。当たり前だけど人の役に立てる仕事をすることは良いことだしね。その中でも、食は人と繋がるための大切な手段だと思う。毎日顔を合わせる人たちに食事を提供することで、笑顔にもなれる。まあ労働ってこと自体は最悪だけど、やっている仕事は最高なんだ。
Shane : 自分も厨房で働いているんだよね。街のタイ料理レストランでフライの調理をしているんだ。あとは、州立公園の係員としても働いているよ。でも仕事以外では、音楽が主な創作の場ではあるけど、バンドに関係あるなしにかかわらずいつも何かを作っているんだ。
– Echoはどうですか?
Echo : みんなと一緒で、人生の大半を厨房で働くことが多かった。厨房で皿洗いや調理の下ごしらえをしてきたんだけど、最近はそこから少し逃れようとしているんだ。バンドのリハーサルで使っているプリントショップで働いたり、キャベツの漬物やキムチ、ピクルスなどを作っている友人が経営する食品発酵会社で働いたりしているよ。
– イラストレイティングが得意というのも聞きました。
Echo : そうなんだ。絵を描くし、それがアルバイトの一つでもあるんだよね。何年も前にはコミック・アーティストになりたかったんだけど、それを追求することはなかった。でも、ビジュアル・アーティストとして活動してきて、音楽をやりながらバンドのマーチなども作るようになったんだ。そのせいでヘトヘトだけどね(笑)。
– こうした活動はTHUS LOVEの音楽に影響を与えることはあると思いますか?
Echo : 正直全く関係ないんだよね(笑)。なんというか、説明がすごく難しいんだけどイラストレーティングは脳の前方部分を使っているようで、それに対して音楽はもっと深いところで考えて、全く違う言語みたいな感覚で考えることが多い。だから、どちらも作品作りという意味では同じだけど、アイデアが生まれる方法が全く違うんだ。でも、それがバンドのマーチデザインのために役立ったり、機能的な面でリンクすることは好きなんだ。
– インタビューも終わりに近づいてきました。最後に、今のあなたたちの目標や挑戦したいことがあれば教えてください。
Echo : うーん、難しいな。Shaneと自分はギターにワミー・バーを付けたいと思ってる(笑)
Louie : あとはトランペットのようなブラス・セクションも欲しいね。もっと面白いパーカッションもかな。
Shane: あとはシンセサイザーも欲しいね。そしていつか日本でツアーを経験したいんだ。
Echo / Louie : そうだね、かなり本気で日本には行きたいと思っているんだ。いつか実現することを願っているよ。冗談抜きに、大きな夢の一つなんだ。
◼︎Biography
2019年、コロナウイルスによるパンデミックの最中にアメリカ / バーモントで結成されたバンド。2022年には、80年代のポストパンクから2000年代のガレージロックにまで影響を受けたデビューアルバム『Memorial』を名門〈Captured Tracks〉よりリリース。大きな話題となり各メディアで絶賛されたデビューアルバムの勢いはアメリカだけに留まらず、イギリスにも広がりUKツアーを成功させた。
その後ベースのNathaniel van Osdolが脱退し、Ally JuleenとShane Blankが加わりバンドは3人組から4人体制へと変更。2024年11月1日に待望の2ndアルバム『All Pleasure』のリリースを控え、世界中のギターロック・リスナーからの期待を集める。