| Interview
GB

即興とコラージュが生み出す音のコントラスト
熱狂のピークを迎えたコペンハーゲン・シーンの今
– こんにちは。とても綺麗な空ですね、今は外にいるんですか?
GB:そうなんだ、東京はこっち(デンマーク)より暑いらしいね。今日は話ができて嬉しいよ、ありがとう。
– 毎年暑くなっていて、今年は特に異常です。こちらこそお話できて嬉しいです。それでは、早速ですがインタビューを始めていきます。
まず初めに、1stアルバム『Gusse Music』(読み:ガシー・ミュージック)についてお聞きします。このアルバムは、残念ながら今年で活動を終えた〈Posh Isolation〉からリリースされましたが、なぜ彼らからリリースすることになったのか、その経緯を聞かせてください。
〈Posh Isolation〉を運営しているLokeとChristianとは、友達の友達という感じで、コペンハーゲンではいつも周りにいる人たちだった。僕がリハーサルしている練習場所が、コペンハーゲンの「Mayhem」*という建物にあって、そこはライブ会場でもあるんだ。同じ建物に会場だけでなく、いくつかのスタジオスペースがあって、LokeとChristian、そして僕のバンドもスタジオを構えている。だから、10代の頃から〈Posh Isolation〉のことは知っていたし、身近な存在だったんだ。
このアルバムを作った時、彼らのレーベルのサウンドに合うかもしれない、でも同時に新しいものにもなるだろうと感じた。〈Posh Isolation〉からすでにリリースされているものとは違う、より「歌」に近いものを作っていたからね。それで、Lokeにリンクを付けてテキストメッセージで「今こんな作品を作っていて、リリース先を探しているんだ。どうかな?」と送ったんだ。そしたら彼が「とても気に入ったから、会って話そう」と返信をくれたんだ。実際に会ってからはすごくクイックに物事が進んでいって、彼は「いつリリースしたい?」と聞いてくれて、僕はいつ出せるかと聞くと、「来週はどう?」と。僕は「2週間ください」と言ってマスタリングをして、それからリリースを迎えた。すごくスムーズで簡単な流れだったと思う。
音源を作ってすぐリリースできたから、人々の反応を早く見れて良かったよ。通常、アルバムのリリースってシングルを出したり、戦略を練って待ったりして、事前プロモーションを含めた長いキャンペーンがあったりするけど、最終的にリリースされた時に、思い描いた通りにはならないこともあると思うんだ。だけど〈Posh Isolation〉とはオーガニックかつスピーディーにリリースできたし、それは自分にとって本当に良いことだったと思う。
– 話に出てきた「Mayhem」は、僕らも昔から大好きな会場なのでお話が聞けて嬉しいです。
そうそう、そこから良い音楽がたくさん生まれているんだ。コペンハーゲンに来たことはある?
– 行ったことはないですが、ぜひ行ってみたいです。
ぜひ来てみて。この数年で少しずつ変わってきて、数年前はインダストリアル、ノイズミュージック、パンク、フリージャズといった音楽がとても盛んだったけど、今は若い世代がやって来て、テクノのパーティーを開催したりすることもあるよ。時々、練習しに「Mayhem」に行って、帰り際に若い人たちがテクノパーティーをしているのを見かけるね。
*Mayhem – 2009年に設立されたライブ会場 / スタジオ。実験的な音楽からハードコアなどマルチジャンルにライブを開催し、過去にはIceageやCommunionsなどコペンハーゲンのインディペンデントな音楽シーンで活躍するアーティストが演奏してきた。
– コラージュと即興 –
-『Gusse Music』は15曲収録されていて、長さは約30分と非常にコンパクトですよね。1曲ずつは短いですが、アルバム全体を通して聴くと、不思議な充足感がありました。ギターを中心としたシンフォニックなコラージュやアレンジが、このアルバムの鍵だと思います。通常、ギターやストリングスといった様々な要素を1つの作品に詰め込むと、アルバムの統一感を保つのが難しいように思うのですが、この作品からはそれを全く感じませんでした。このアルバムを制作するにあたって、特にこだわったことは何ですか?
僕にとって、このアルバムはコラージュだった。アルバムを作っているという自覚はなく、ただ毎日ランダムに曲を書いたり録音していたんだ。ある日は曲を作り、またある日は即興音源を編集し、友人と一緒に演奏をしたり。また別の日には、弦楽器の小編成の曲を書いて友人と録音したりしていた。そうやって作品の断片やかけらのようなものが、コンピューターやハードディスク、テープにたくさん溜まっていったんだ。それで、友人たちと集まって、お互いの作品について話し合う批評グループのようなものを作ろうとしていて、自分は15分間の音楽を発表することになっていたんだ。そのために、最近の音源やデモのアーカイブを見返して、小さな断片や短い曲などをつなぎ合わせて、15分間のミックステープのようなものを作った。
それを聴き返した時、アルバムを作るのにとても近いことをしていると気づいたんだ。断片は十分にあったし、あと15分間同じことをすれば、アルバムが完成できると思った。だから、ある曲は小さな弦楽器のアレンジで、次の曲はポップソングという風になっていて、たくさんの素材があったから、物語を組み立てていく作業はとても直感的だったね。
– carolineというバンドをご存知ですか?
知っているよ。ロンドンのバンドだよね。Caroline Polachekとの曲も良かったね。
– 彼らは来日したばかりで、3年前にインタビューをしたんです。バンドの中心人物であるJasperが、あなたと似たようなことを言っていました。断片的な録音をたくさん持っていて、それらをすべて集めて最終的にアルバムになったと。
本当に良い制作方法だと思うよ。僕は毎日音楽を作ったり、何かを録音したり、書いたりするようにしているんだ。そうやって続けていると、最終的にアルバムのための素材ができる。これは、コラージュの手法でやっているからこそできるんだ。
だけど同時に、まったく逆のアルバムにも取り組んでいるんだ。アレンジもパートもすべて完成させてから、バンドとスタジオに入り、一発録りでバンドサウンドのアルバムを作りたいと思っていてね。この2つの制作方法を行き来できるのはとても良いことなんじゃないかな。
– 次に、アルバムタイトルについてお伺いします。「Gusse」という言葉に馴染みがなかったので調べてみたのですが、意味が見つかりませんでした。この言葉とタイトルの意味を教えていただけますか?もしかして、あなたの本名であるGustav(グスタフ)から来ていますか?
そう、その通りだよ。ニックネームのGusseからきているんだ。デンマークの友人は僕のことを「Gusse」(ガシー)と呼び、それが「Gusse Music」のタイトルになったんだ。かっこいいタイトルだと思ったし、当時、Playboi Cartiの「IAM MUSIC」の言葉がアートワークに入ったアルバム『MUSIC』が話題になっていたから、それも少し連想できて気に入ったんだ。自分にとっては、ファッションブランドのようなクールな響きにも聞こえるんだよね。
そんな背景があったんですね。少し話を戻しますが、レーベルの〈Posh Isolation〉のついてお聞きします。残念ながら今年で彼らはレーベルを終えることになりましたね。始まってから15年が経ちますが、〈Posh Isolation〉はデンマークのシーンで非常に重要な役割を果たしたと思います。この中で、あなたに特に強い印象や影響を与えたアーティストはいますか?
10代の頃、レーベルを運営していたLokeがSkurvというバンドで演奏していて、そのショーに行ったことはとても印象的だね。かなりクレイジーで、彼はコペンハーゲンのフリータウンであるクリスチャニアにある、古くて木造の会場の木の柱にぶら下がって、スクリーモや唸り声を上げていたんだ。素晴らしかったよ。その音楽にオーディエンスがどう反応しているかを見れたことも、自分を形成する上で大きな経験だった。
もう一人は、CTMことCæcilie Trieだね。コペンハーゲンの音楽院に通っていた時に、彼女のクラスをいくつか受講していて、学士課程のプロジェクトでは彼女が指導者になってくれたんだ。とても知的で、音楽や作品について、そして毎日制作を続けることの重要性についてたくさん話した。彼女は大きなインスピレーション源の一つだね。
– 自分も彼女のLPを持っています。
素晴らしいインストゥルメンタル作品だよね。彼女は素晴らしいチェリストだと思う。特に2018年か19年頃に〈Posh Isolation〉から出したアルバム『Red Dragon』には大きな影響を受けているんだ。
〈Posh Isolation〉が活動を終えた後も、デンマークの音楽シーン全体は活発だと思います。実際、〈Escho〉や〈15 Love〉といった重要なレーベルがあり、Astrid SonneやElias Rønnenfelt、Fineといったアーティストを輩出して、さらに勢いを増しています。現在のデンマークの音楽シーンを、あなたの視点から見てどう思いますか?
まず第一に、コペンハーゲンは本当に小さな街で、話に出てきたアーティストたちはみんな知り合いなんだ。コペンハーゲンでコンサートに行ったり、音楽やアートの世界で活動していれば、簡単に知り合いになるんだよね。コペンハーゲンの良いところは、みんなが物理的に近くにいて、外に出るだけで実際に会って話したり、経験を共有できることだと思う。
ただ、自分がロンドンに引っ越す理由もそこにあるんだ。知り合いの少ない大都市でアウトサイダーとなることで、集中力を高めるきっかけにもなると思っていてね。自分の力で街を体験できるというか。コペンハーゲンでずっと暮らしていると、バーやコンサートに行ったりしても、一人になることはほとんどないんだよ。家族や友人が近くにいることは素晴らしいんだけど、今の自分には、あまり知らない大都市での「孤立」が良いコントラストを与えてくれると思う。
– デンマークの教育と社会経済 –
都市のサイズは、音楽シーンを考える上で重要な視点ですね。
そうだね。コペンハーゲンにいると遠くまで移動する必要がないんだよね。金曜日の夜に家にいて、その夜に行われるショーについていきなり知ったとしても、自転車に乗って10分で街の反対側まで行くことができる。ロンドンではそうはいかない。昨年ロンドンのアーチウェイという場所に住んでいて、サウスロンドンででショーがあると知っても、そこまで行くのに1時間半もかかる。疲れていたら行く気にならないよね。でもコペンハーゲンでは、全部が近いからより自発的な行動が可能なんだ。
– デンマークの文化について調べている時に、「Rhythmic Music Conservatory(リズミック・ミュージック・コンサバトリー)」という学校の存在を知りました。ガーディアン紙の記事でErika de Casier、Smerz、Astrid Sonne、Fine、ML Buch、そしてあなたの名前が卒業生として上がっていて、とても驚きました。どのような学校なのか、またどんな授業を受けて、何を学んだのか教えていただけますか?
僕はこの夏に卒業したばかりだけど、とてもユニークで良い学校だと思う。音楽専門の音楽院だけど、より広い意味ではアートスクールだし、授業は理論的なプログラムではないから、必ずしも楽譜を書いたり、読んだりする必要もないんだ。パフォーマンスや録音した音楽で応募できて、楽器を演奏したことがなくても、何かを録音して作品にまとめることができる人たちがたくさんいるんだよね。
– 本格的な音楽学校としては、とても珍しいですね。
僕の知る限り、この学校は非常に先進的だと思う。ヨーロッパのほとんどの音楽院では、楽譜が読めることが条件だったりするからね。授業では主に批評が中心となる。生徒と先生が同じ部屋に集まるんだけど、あくまでも先生は進行役で教えることはあまりあまりないんだ。基本は、自分たちの10分ほどの作品を持ち寄って、一緒に聴き、お互いにフィードバックをする。自分は主にヨーロッパ各地の留学生と学び、彼らが育った場所、聴いてきた音楽、その向き合い方などの視点が全く違うから面白かったし、良い経験だったと思う。コペンハーゲンから良い音楽がたくさん生まれている理由の一つに、この学校の存在があることは間違いないね。
– 間違いないですね。あとは社会経済はどうでしょう?世界有数の福祉国家としてデンマークは有名ですよね。
間違いなく関係しているよ。デンマークでは学費を払う必要がないし、毎月学生手当が800ユーロ(約14万円)支給されるから、学業に集中する時間がたくさんあるんだ。当然、たくさんの音楽を作ることができるし、この点に関してはロンドンで知り合った友人たちと大きく違うと思う。彼らは学費を払う必要があり、さらに生活費を稼ぐために2つのアルバイトを掛け持ちしている人が多いんだ。でもデンマークの制度は、制作に多くの時間を費やし、集中することを可能にしてくれる。とても感謝しているよ。
– 音楽制作には二面性がある
そのどちらも否定したくないんだ –
あなたの音楽の話に戻ります。今年、ダブルEP『Ressed / Falter』がイギリスのレーベル〈untitled recs〉からリリースされましたね。『Ressed』はギターを中心としたアップテンポな曲を収録し、『Falter』は雰囲気のあるインストゥルメンタル曲を集めた構成です。まず、『Ressed』についてお伺いします。テーマは何でしたか?
まず、このアルバムは2枚のEPで構成された2つの独立した作品だと考えているんだよね。A面にあたる『Ressed』は、言ってくれたように、よりアップテンポで気分が上がるようなポップソングを作ってみようという試みで、さらに『Gussy Music』のメランコリックでとシネマティックな雰囲気も同時に感じられるようにしたかった。これまであまりやってこなかったアプローチで、1月か2月頃にこの3曲を書き上げたから、とてもスピーディーなプロセスで楽しかったよ。
– B面にあたる『Falter』はいかがですか?
『Falter』はすべて、他のミュージシャンと行った即興演奏から作られている。自分は古いテープレコーダーを持っていて、それを部屋に持ち込み、マイクを4本つないで、カセットテープ1本分の20分間を即興演奏したんだ。それを何回か行い、気に入った部分を編集して、それが『Falter』になった。非常に直感的なアプローチだったと思う。
– なぜそれら2つを一緒にしようと思ったのでしょうか。
この2枚のEPからなる作品に、少し混乱させるようなコントラストをつけたかったんだ。A面は明るい色や太陽を連想させるようなアップテンポなもの、そしてB面は奇妙で奇抜なインストゥルメンタルで雰囲気のあるようなね。
– そのコントラストを生み出すために、2つを一緒にリリースしたのですね。
そうなんだ。音楽制作には二面性があると思うんだ。ある日スタジオに入って一つのものを作ると、それは自分の一面を映し出し、そして別の日に全く違うものを作ると、また別の側面を表してくれる。そのどちらも否定したくなかったんだ。両方とも僕の一部であることを、一緒に提示したかった。
アルバムを作る際、人々は統一感のあるものや、一つの美学、一貫性のあるものを提示しようとする。それは素晴らしいし、アルバムを一つの完結したアート作品として扱うのは良いことだと思う。でも、このダブルEPでは、その逆をやってみたかったんだ。様々ななものを詰め込むことを許し、コントラストのある作品にした。このアイデアは、レーベルの〈untitled (recs)〉からの提案だったんだよね。ストリーミングでは一つの作品になってしまうけど、A面とB面を違うミックスにして、それぞれ違う人にマスタリングしてもらったから、そう言った意味でも、異なる方法で制作された2つレコードでもあるんだ。だからアートワークも2つあって、こっちがA面の『Ressed』のアートワーク、そしてこれがB面の『Falter』になっている。クールでしょ?


– 『Ressed』というタイトルはどういう意味なのでしょうか?
「Ressed」という言葉は、コンピューターゲームやビデオゲームで、誰かが死んだときに生き返らせる「resurrect」(復活させる)という言葉から来ているんだ。ゲーマーのスラングでは、これを「RES」と略すんだよ。だからこの作品の『Ressed』は、「蘇生された」「再び命を与えられる」という意味で、アートワークに終末的な太陽が描かれているのはそれが理由なんだ。人々に再び生命を与える、生命を扱う作品だからね。
– アートワークから、精神的な回復やゆっくりと傷が癒えていく感覚を想像していましたが、今それが繋がって納得がいきました。
そう言ってもらえて嬉しいよ。『Ressed』のアートワークは自分が作ったけど、『Falter』はコペンハーゲンのビジュアルアーティストである友人のFrederik Tøt Godskが作ってくれたんだ。非常に直感的なプロセスで、雑誌から2つの写真を切り抜き、それをコラージュしたんだけど、音楽や歌詞でもこのコラージュを多用している。
– 〈untitled (recs)〉からのリリースというのも良いですね。2023年に雑誌で彼らにインタビューしましたが、〈Posh Isolation〉と似たような精神性を感じるレーベルです。
そうだね。直感的に好きな人たちと仕事をしていて、ビジネス的な側面よりも、人との繋がりをどちらも大事にしているね。
– インタビューはそろそろ終わりになります。最後に、何かメッセージや伝えたいことがあれば、ぜひ聞かせてください。
日本には行ったことがないので、もしこの記事を読んでいるプロモーターの方がいたら、ぜひ連絡してください。日本でツアーをするのが夢です。いつか実現すると願っています。