Interview – caroline

名門<Rough Trade>の創設者であるGeoff Travisが惚れ込んだ才能 caroline。 エモ、アパラチアン・フォークからミニマル・ミュージックにまで渡る様々なルーツと“即興”というキーワードをもとに作品を創り出してきた8人組の音楽集団は、一つの着地点となるデビューアルバム『caroline』をリリースした。新たな未来を照らすアルバムに詰め込められたcarolineの美学に迫るORMの独占インタビュー。

(※今回のインタビューはバンドの中心メンバー、Jasper Llewellynに回答していただきました。)

英語版はこちら

English version of the interview available from here.

ー かなりスローでミニマル、そして幅広い音楽 ー

− carolineは日本では謎の音楽集団とされています。まず初めに、簡単にバンドと音楽性についての紹介をお願いします。

Jasperです。チェロとドラムをやっていて、ボーカルも担当したりしているよ。僕たちはミステリアスな存在になっているということだけどなんでだろう(笑)。それほど多くの作品をリリースしていないからかな?

音楽に関して言えば、全体的にかなりスローでミニマル、そして幅広いね。あと、たくさん楽器を使っているね。何から影響を受けたのかについてはあまり話したくないんだ。自分の音楽について話そうとしているのに他の人の音楽について話すのはなんか変な感じがするからさ。

− carolineという名前はどのような経緯で決まったのでしょうか?

これが実は聞き間違いがきっかけで。僕らの友だちのMikeが昔“Cowlung” (読み:カウラング)というバンドをやっていたんだ。彼はいつもバンド名を“caroline” (読み:キャロライン)と聞き間違えていたんだ。僕たちも彼からは聞き間違えたバンド名で名前を聞かされていたからいい名前だなと思いつつも、使えないなってなっていたんだよね(笑)。ある時バンド名が実はcarolineではなくCowlungだったことがわかって自分たちのバンド名に使うことにしたんだ。

− 聞き間違いからだったんですね(笑)

そう、面白いよね。バンド名を決めた当時僕たちがやっていた音楽は“caroline”っていう名前にフィットするように思ったんだ。“caroline”にはどこか90年代のアメリカのスロウコア、エモ音楽を想起させる響きがあるからね。

− バンドのメンバーは8人編成と大所帯ですが、どのような経緯で今のメンバーになったのでしょうか?

基本的には人を追加していく形で増えていったね。最初は僕とMikeとCasperの3人がいて、そこからケースバイケースでゆっくりと人を増やしていった感じ。特定の曲の特定のパートを演奏してもらうために人を入れていたんだ。最初の頃のライブでは担当の曲を終えたら人はステージから捌けていたね。時間の経過とともにさらに人を増やしていったんだ。

最終的にはロックダウンと<Rough Trade>とのサインが今のメンバーを固定化したと思う。これ以上人を増やせなくなったのと、それまでに僕らの演奏に携わってきた人たちがみんな素晴らしかったんだ。良い集団が形成されていたしみんながバンドに貢献していた。これ以上のメンバーは必要ないと思ったね。

− お互いのことは前から知っていたのですか?

僕とCasperは大学時代からの知り合いなんだ。MikeとHughに関しては小さい頃からの友達だね。Oliverも大学時代に一緒に演奏してからの付き合い。それ以外にも多くのメンバーが古くからの友達が基本な感じかな。

レーベル・オーナーのGeoff Travis* はあなたたちのライブを見てから契約を即決したと聞きましたが、彼と初めて言葉を交わした時どんな話をしましたか?

彼に初めて会った日、僕たちはマネージャーの家でライブをしていたんだ。その家は古いスポーツクラブのような建物で大きなジムがあるんだ。僕たちはそこで演奏をした。僕とマネージャーの2人は入り口でお客さんのチケットのもぎりをしていたんだけど、そこにGeoffが来てね。ただ、その時はGeoffだと認識していなくて、ライブを観にきた一般客だと思っていたんだ。それで、マネージャーと「あのおじさんは誰だろうね?」って話していたんだ(笑)

ライブの夜に話したかは覚えてないんだけど、後からマネージャーにGeoffが僕たちとアルバムを作りたいと話していることを教えてくれて。本当にクレイジーだったよ。まさかそんなことが起きるなんて思ってもなかったからね。本当に驚いたよ(笑)。

それから1ヶ月くらいしてからGeoffと会った。コロナが拡大する直前だったね。carolineが初めて結成したバンドだったこともあって音楽業界やジェフについてそれほど知らなかったんだ。だけど後になって新聞で彼についての記事を読んで「オーマイガー」ってなったね(笑)。

この2年半の間でたくさんの学びが得られたよ。音楽業界の構造を理解しようとしているけど実は複雑なことも多いんだね。色々なルール、色々な仕事が様々な分野である。少しずつ勉強しているところだよ。

*Geoff Travis:イギリスとアメリカに拠点を置くインディーレーベル / レコードショップ<Rough Trade>の創始者。

− Geoffとは普段どんな会話をするのですか?

そうだね、いたって普通の会話だよ。最近の調子はどうかとか、どんな音楽を聴いているかだとか。あとはcarolineとしてどんな予定があるかの話をしたり。Geoffとは毎日一緒に仕事している訳でないけど数ヶ月に一度の様子チェックみたいな感じで、お互いの楽しみなことを共有したりしているよ。

彼はいつも僕たちの音楽が好きでとても情熱的だと言ってくれるね。とても嬉しいことだよ。彼はいつもライブに来ると後ろの方で踊っているんだ。僕がもしcarolineのメンバーじゃなくてライブを観に来ていたとしたら絶対に踊りたいと思わない(笑)。他の人もみんなそうだと思うけど。だからこそそんな風に(踊りで)音楽の楽しさを表現してくれるのは本当に嬉しいことだと思うよ。

− 「Dark Blue」のプールセッションを見ましたが、あの動画はどのような経緯で撮られたのですか?

あれはドラマーのHughのスタジオなんだ。彼は身体が不自由な人のために楽器を作ったりしているんだけど、制作にあの場所を使っているんだ。僕たちはセッション映像でなく“ライブ・ビデオ”を作りたいと思っていた。それであの建物の様々な場所からメンバーが演奏して、それをレコーディングしたら面白いんじゃないかと思ったんだ。あと、プールで撮影したもう一つの理由としては特殊な場所で僕たちの音楽がどのように聞こえるかを探るという目的もあったね。プールにはどこか“人工的”なイメージと同時に、極端な“空虚さ”があってそれがまた面白いよね。

ー 即興的にアイデアをどのような形で展開できるか ー

− 楽曲の制作プロセスについておうかがいします。歌詞のある曲についてですが普段は作詞から入るのでしょうか、それとも作曲から入るのでしょうか?

制作はいつもメロディーが先だね。通常の場合だと僕もCasperも小さいアイデア(一文や一行のような断片)を発展させる形でスタートするんだ。そこから僕とCasperとMikeの3人で、即興的にそれらのアイデアをどのような形で展開できるか話し合う。加えて、音楽について共有するときは演奏するよりも“話し合い”の方が多いね。スタジオで練習するときも。話し合いの中で曲の構造を発展させて、それを他のメンバーに持ち寄るんだ。そこからまた即興的に組み立てる。話し合いはアイデアごとに必ず特定のメンバーと行うんだ。彼らもまた自分の特性を付け加える。だからいくつものステージに渡るプロセスだね。

− 一曲を完成させるのにどれくらいの時間を費やしますか?

とても長い時間。今回のアルバムの曲に関して言えば4年くらい制作に費やしていた。何曲かは短かったけど。アルバムラストの曲「Natural death」は短くて、6ヵ月くらいだったかな。それでも最低6ヵ月はかかるね。だけど将来的には制作スピードも上がっていくと思う。今回のアルバムで作曲の仕方を習得したし、自分たちの制作プロセスについても理解できたんだ。

ー アルバムには“化石”に似た何かがあると思うんだ。それは瞬間を凍らせる。 ー

− 以前他のインタビューで「曲を完成させることは最優先事項でなく、“その瞬間”という場で一緒に演奏することがしたい」と話していました。即興性や演奏の過程を重視するあなたたちにとって、“アルバム”という一つの完成された(録り終えた)ものはある意味真逆の概念だと思いますが、そこに込めた思いはどのようなものですか?

とても良い質問だね。確かに“完成されたアルバム”は僕たちの行っているプロセス(=コンスタントに曲を変化させる、何年も同じ曲に取り組む)とはある意味逆のようなものだと思う。ただ、実を言うと僕は今回アルバムができて、それも一つの作品としてのコレクションとして取り組めたことはとても嬉しいんだ。アルバムはランダムに曲を集めたものではなく並びが決まっていて目的もある。だから、アルバム一つとしての構成がものすごく丁寧に考えられているんだ。そのレベルでの取り組みというのはとても興味深いものだった。

僕たちはオープンエンド、物事が未解決な状態であったり即興的であることにとても興味がある。アルバムには“化石”に似た何かがあると思うんだ。それは瞬間を凍らせる。

それと、いくつかの作品についてはある種の着地点を決める必要性を感じていたんだ。でも、もしかするとこれからも制作を続けてさらに変化していくかもしれない。それはそれで良いと思う。同じ曲であってもこの先も取り組み続けたいね。ただ、新しいアイデアも生み出したいから基本的には新しいものを作ることを優先していくつもり。

− Facebook内のファンコミュニティーにバンドのライブ映像が一部上がっており観させていただきました。どのステージも臨場感、そして気迫を感じるものでした。一点気づいたのが、ステージ上のフォーメーションです。メンバーが円を作るように向かい合っていたのが印象的だったのですが、昔からあのスタイルだったのでしょうか?

初めてライブをした時からずっと円で演奏してきたね。それが練習のスタイルだから。僕たちの音楽は即興性を重視しているけど、それを実現するにはたくさんのコミュニケーションが必要なんだ。

オーディエンスの視点で考えると、部屋の真ん中に円を作ったとき観客は立ち位置によってみんな異なる視聴体験をするんだ。バイオリンに近い人、ギターアンプの目の前の人、ドラムのそばにいる人。僕たちは観客によって視聴体験がどのように異なるのかについて強い興味があるんだ。この体験は2台のスピーカーが前に設置されているような、典型的なライブのスタイルでは得られないものだよね。音楽がオーディエンスとどのように関わっているのかということはとても大事なことだと思うよ。このスタイルは今後も永久的に続けていくと思う。僕たちもこれに慣れてしまったし、この方法でいつも最高の演奏ができるからね。

− ストリーミングでは未配信の作品で『NC NJ NLFT』(Bandcamp、YouTube、カセット限定でリリース)というものがありますね。初めに、このタイトルの由来を教えてください。

ハハ!実はタイトルは2020年の夏頃にFacebookで出回っていた落書き画像の文字から取ったんだ。 “No Cops, No Jails, No Linear Fucking Time”という言葉の略なんだけど。「警察を廃止しろ!」みたいな意味のスローガンだったと思う。このカセットを出した当時BLM運動が活発化していて、その最中にこの画像を見つけたんだ。そんなタイミングの重なりもあって、「あ、タイトルにすればいいんじゃ?」と。タイトルの由来は初めて聞かれたな(笑)。

− 作品紹介で「iPhoneに録りためてあったボイスメモ、曲のアイデア、練習のデモ」とありました。この作品に集められたアイデアの断片は今回のアルバムで何か活かされたりしましたか?

そのレコーディングにどのようなものが入っていたかは正確に覚えてないな。だけどレコーディングを集めたりコラージュするアプローチは僕たちにとって重要な役割を果たしていて、『NC NJ NLFT』を作る過程でだけ探求できたものだった。ここまで具体的に“コラージュ”されたものを探求したことはなかった。もちろん、僕たちの音楽には常にコラージュ的な考え方があるし、この試みは今のバンドの音楽にも影響を与えたと思う。

− 最後にこの記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

アルバムを楽しんでくれていると嬉しいです。(買ってなければ)買った方がいいよ。僕たちも日本に行けるかもしれないし、行けたら最高だからね。

リスナーにはアルバムをどのように聴いてほしいですか?

初めから終わりまで通しで聴いてほしい。できれば部屋で座って聴いてほしいところだけど、現代人の音楽の聴き方はどうもそうではないよね。みんな歩きながら聴いたり曲をスキップしたり。でももし一つの作品として体験できるならそれはとても嬉しいな。それもレコードで。実はアルバムはレコード視聴を想定して構成を考えてあるんだ。A面からB面にひっくり返すこととかね。でもみんなが好きなように聴いてほしいね。

– 今日はありがとうございました!

こちらこそ、ありがとう!


■Release Information

ARTIST:caroline

TITLE:『caroline』

RELEASE DATE:2022. 2. 25, Now on sale

LABEL:Beat Records / Rough Trade



■Biography

caroline

2017年に結成されたcarolineは毎週行われた即興セッションで進化を遂げ、2019年に現在の8人編成となった。UKフォークとミニマル・ミュージックの新たな未来を照らし出すその音楽は<Rough Trade>創設者のGeoff Travisの目に止まり、2020年3月にデビュー。無人プールで撮影されたシングル「Dark blue」のライブビデオは日本でも話題を集め、2022年2月25日に待望のデビューアルバム『caroline』がリリースされた。