| Interview
Blue Bendy
Photo by Louise Mason
常に普遍、常に異端、そして常に実験的。
音楽の最前線/ロンドンに身を置き、独自の感性と解釈で注目を集める6人組、Blue Bendy。変わらずやってきたこと、あえて変えてきたこと。二面性を持ったデビュー作、そしてついに幕を開けた彼らの新章に迫る独占インタビュー。
− ポップバンドに近づこうとする、
そのことこそが面白いんだ −
– 前回インタビューしたのは3年前のコロナ禍でした。最近はどう過ごしていますか?
Joe Nash(以下, N):アルバムリリースまで2週間くらいのところで、最近は楽しいことがたくさんだね。この前はUKのThe Indepedentでインタビューをして、その前日には鎧とか剣をたくさん用いたMVを撮っていた。すごく楽しかったな。あとはレコードの限定盤特典のブックレットにサインしたり。こんな感じでリリースに向けて高まっているよ。
Arthur Nolan(以下, A):そうだね、間違いなくリリースが近くなって“高まっている”ね。今は“アルバム・モード一色”。あとはツアーに向けての準備かな。
J:アルバムリリース後に控えているツアーに向けて練習したりリハーサルをやっているんだ。
– サウンド面であなたたちは現在の音楽シーンの中でも特に実験的であると感じますが、普段はどのような音楽、アート、人、イベントなどから影響を受けていると思いますか?
A:色々なカルチャーや音楽の全てから少しずつ影響を受けているよ。メンバーもたくさんいるし、それぞれが異なるテイストを持っていることもあって、たとえどんなにシンプルなポップスを練習に持ってきたとしても、どうしても実験的な音になってしまうんだよね。色々なイメージ、ミームとかもインスピレーションになるよ。ユーモアのセンスも大きな要素。Harrisonのギターとか、Oliviaのシンセパートがよく僕たちを笑わせてくれることがあって。僕らを笑わせてくれるものは、いつもより奇妙で実験的なものなんだ。
あとはミュージカルも大きなインスピレーション。『オペラ座の怪人』は練習の時のレファレンスになっているよ。近年のポップスも実験的で面白いよね。〈*PC Music〉はいよいよメインストリームクラスの人気になってきたし、A.G. CookとかCharli XCXなんてすごい。エクスペリメンタルであることは僕らにとっては実は容易いことであって、むしろできるだけ変じゃないようにするために努力しているくらいなんだ(笑)。
*PC Music – 2013年にプロデューサーのA.G. Cookによりロンドンで設立された音楽レーベル。設立からわずか2年後の2015年にはソニー傘下のコロムビア・レコードとパートナーシップを組むなど、スピーディーに活動を展開。2023年に新譜のリリースを終了し、現在はアーカイブ・プロジェクト及びリイシュー専門のレーベルとして存続している。
J:そうだね、メンバーは6人いてコアでは似たようなものが好きだけど、もっと突き詰めると全然違うところに興味や関心があったりするね。
– とても意外です。常に意図を持って“奇妙である”ことを追求していたと思っていました。
A:うん、もちろん他のシンプルな選択もしたいことは確か。でも何が僕らをワクワクさせるか考えた時に、最初に出てきたものが簡単なものなら、それをもっと変な方向にしたいって思っちゃうんだよね。
− 僕らの周辺のバンドは全て分析した −
– 以前、別のインタビューで「サウス・ロンドンのポストパンクバンドにはなりたくない。ポップバンドになりたいんだ」と話されていたのが印象的でした。『So Medieval』が完成した今、その意味が分かった気がします。実験的だけど同時にサウンド面/リリック面でともにユーモラスで、紛れもなくポップ。今作は“ポップバンド”になるための飛躍になったと思いますか?
A:そうだと良いな。そんな発言をしておきながら、自分たちでも“ポップ”に近づくことなんて不可能だし、ましてやポップバンドになることなんて不可能だって分かっているんだ。でも、そこに近づこうとすることこそに面白さを感じていて、今回はそれが実現できたという意味で本当に作りたい作品が完成したと思う。
J:今回の作品はメロディーとハーモニーを注視したものになっている。でもポストパンクはどちらかというとその真逆。ストレートで怒りに満ちていて、美しくあろうとしていない。
– 確かに、Blue Bendyの音楽はもはや“ポストパンク”という括りには収まり切らないですよね。
– 1stシングルのリリース以降、サウス・ロンドンのシーンでアクティブだったあなたたちですが、今注目しているアーティストやバンドはいますか?
A:Uglyはこれからがとても楽しみだね。間違いなくもっと注目されるべきバンドの一つ。かつてはポストパンクっぽいものをやっていた人でも、今はもっと拡張的でポップスに寄ったものをやっている人とかが増えてきていて、Skydaddyなんかは本当に素晴らしいね。それと元The Goon SaxのLouis Forsterが始めたExpiryっていうバンドは良質なインディーポップをやっているよ。
A:インスピレーションという観点で言えば、そのシーンの全てのバンドだね。特に近年成功しているBlack Country, New Roadやblack midiは僕らがまだ曲の作り方を模索している間にもすでに大きなことをしていたな。SquidもGoat Girlもみんな僕らと同じクラブやコミュニティーにいて、そんな彼らが良い方向に動き出していくのを間近で見てきた。これほどまでに僕らが野望を持って続けてこられたのは、間違いなく彼らのようなアーティストたちと同じシーンに身を置いていたからだと思う。
それと、そんな光景を見ていると良い意味での焦りを感じて、“もっと良くならなきゃ”と思って一層努力したくなるんだよね。おかげで自己表現やライブの仕方をたくさん学べた。僕らの周辺のバンドは全て分析したよ。羨ましかったし、野心を掻き立てられたからね。
– ミュージックビデオについてお聞きします。いつもどこか奇妙ですよね。「Clean Is Core」は全く意味が理解できませんでした(笑)。
A:あの時は確か友達をかき集めて撮影に臨んだんだ。中古のトランポリンをネットで見つけて、それをどうにか活用できないか考えていた。
J:実はその時そこまで映像のアイデアが無くて、とりあえずグリーンスクリーンと小さい地下のスタジオを借りてみて、そこにOliviaが作ってくれた映像をバックに流してみたんだ(笑)。
A:極端に単純なものにしようとことだけは決まっていた。撮影当時よりも今の方が好きかも。楽しそうだしね(笑)。
J:裏話だけど、撮影の休憩時間に近くのお店にご飯を食べに出かけたんだ。そしたらたまたまFontaines D.C.のGrianが通り掛かって。遠目で彼を見ながら“どうする、MVに出てもらえないか聞いてみる?”なんて話をメンバーとしていたんだけど、結局勇気が出なくて断念した(笑)。
A:僕はその場面にいなかったけど、本当にもったいないよね。僕だったら間違いなく声掛けてた(笑)。
– 彼が出演するシーン見たかったですね〜。
A:だよね!
– ここからはアルバムについてです。ようやくリリースされた今どんな気分ですか?
A:本当にワクワクするね。このリリースがどれだけのことを変えるかはわからないけど、多くの人に届くことを願っているよ。収録されている曲はどれも本当に誇りに思っている。
J:僕も嬉しいね。先日初めてフィジカルのレコードを手にしたばかりなんだけど、とても良い仕上がりだよ。
– 今回のアルバムですが、タイトルがとても面白いですね。直訳すると“超中世”ですか。
A:当初いくつか候補があったんだ。『Why God, Why?』『Confession Rock』… でも僕らもレーベルの人もしっくり来るものが無くて。アルバムタイトルが決まる前に収録曲は既に決まっていて、友達にも色々と相談した。そしたら一曲目の「So Medieval」はアルバム全体のテーマにもあっているんじゃないという意見があって、採用してみたら本当にハマったんだ。この曲は中世的(退廃的)な態度や回帰がテーマなんだけど、アルバムの全体をサマリーしたように思えた。
Photo by Michael Julings
– 「So Medieval」を初めて聴いた時、かつてBlue Bendyが展開していたジャーマンロックのフェーズは終わり、よりダイナミックで雄大なサウンドへと昇華した展開に驚きました。それは時折Black Country, New Roadの2ndアルバムとも重なりました。
A:この曲は実はアルバムの中で一番古い曲で、コロナ禍に『Motorbike』を書いていた頃に制作がスタートした。最初は基本的な構成だけがあったんだけど、レコーディングを重ねていく中で、もっとダイナミックで大きなものにしたいと思うようになり、ピアノを後で足したんだ。
– 以前のクラウトロックなどの影響は今作ではあまり感じないのですが、サウンド面でのシフトチェンジはどのような理由で起こったのでしょうか?
A:いつでも自己の混乱というものはつきもので、自分たちが作りたいと思うものにありつく為に、必ずしも必要ではない選択を取ることがある。今回の作品は“ジャンル・アルバム”ではなく“ポップ・アルバム”を作ることを目指したんだ。
J:そうだね。そして、今も貫かれているのは、実験的な感覚を失わずに色々なものにトライしていることだと思う。今回はただその部分をメロディーとハーモニーと構造を持って装飾したに過ぎないんだ。
– 究極、やろうとしていることは昔も今も変わらないということですね。
A:そう、まさにそういうこと。
− 伝えたいことの全ては曲に詰め込んだ −
– 制作やレコーディングが一番難しかった曲と一番楽しかった曲を教えてください。
J:まず、一番楽しかったのは「Cloudy」かな。
A:全く同じ曲を言おうと思った。
J:だよね。それは多分僕らの友達も含め、みんなが参加していたから。それとライブで演奏するのも楽しいしね。
– 「Cloudy」は終盤の大合唱が素晴らしいです。
A:実は昨年「Cloudy」のリリース後にウィンドミルでライブをしたんだけど、その時に過去最大のシンガロングが「Cloudy」で起きたんだ。最高に気持ち良かったね。
J:難しかった曲だと、最初の方に取り掛かった「The Day I Said You’d Died (He Lives)」と「Come On Baby, Dig!」は完成までにかなり時間がかかった。レコーディングしては切り刻んで、またレコーディングして、今度はパートを入れ替えて、テンポを変えて…
A:あの2曲は一番大変だったね。
– 相当なプロセスですね… それを知った今、楽曲に一層深みを感じます。
– 少しトピックを変えて、アルバムアートワークについてお聞きします。まずはコンセプトから聞かせてください。
A:とにかくアルバムコンセプトの“中世”、“信心深さ”みたいなイメージを体現することが目的だった。LegssというバンドにいるLouisを呼んでアートワークのモデリングをお願いした。彼にはブランコに座ってもらって、空中に浮遊しているイメージを演出したんだ。後ろにあるカーテンは宗教性を帯びたものの、どこか人為的な側面を皮肉っぽく表現している気がしてとても気に入っているよ。
– 撮影自体は大変でしたか?
A:長い1日ではあったけどとても楽しかったな。現場ではたくさん音楽をかけていた。当日はレーベルスタッフのLouiseにクリエイティブディレクターを、プランナーにEllaをお願いし、監督には映像経験の豊富なMichaelを迎えた3人体制で回していた。とにかくたくさん撮影したから何かしら良いものがあるだろうと思いながら、撮りためた素材をチェックしていたんだ。
J:“これ良いね、これも良い感じ、これも…” みたいな感じで何となく良いテイクを見ていたら足だけの写真が出てきて“うわ、これは目を引くね!”ってなったんだ。その場にいた全員がその写真が面白いと思って、それで今回のジャケットに起用したんだ。
– 確かに何枚も写真をめくっている中で、急にこの写真が出てきたら“これだ”ってなりますね。
– ここまで色々とアルバムについて聞いてきましたが、リスナーにはこの作品をどのように聴いてほしいですか?
A:楽曲によって異なると思うけど、例えば夜の11時とかに部屋で一人なら「So Medieval」か「I’m Sorry I Left Him to Bleed」かな。しっとりと聴いてもらいたいね。とにかく全ての曲に全身全霊を尽くしたし、伝えたいことの全ては曲に詰め込んだからとても誇りに思っているよ。だから、これまでの僕らの音楽性から変わったことに驚いてほしいし、進化したことを感じてくれたら嬉しいな。
J:フィジカルのレコードのインナースリーブには全楽曲の歌詞がプリントされているんだ。だから是非とも手に入れてもらって、それを読みながら聴いてくれたら最高だね。全ての曲には意図があって、全ての歌詞には意味がある。投げやりで埋めた歌詞なんて一つも無いよ。
– この春から夏にかけて、ツアーやたくさんのフェスティバルが控えていますね。これらのステージをどのようにしたいですか?また、ファンはあなたのパフォーマンスに何を期待できますか?
A:とにかくライブに関しては良いものにするために頑張っているところ。何か“拡張的”なパフォーマンスができると良いなと思っているよ。みんながアルバムを気に入ってくれて、それがきっかけでライブを見に来てくれるようになったら嬉しいな。
J:ライブはまさにアルバムを“拡張した”したものになると思ってくれていいかも。曲のうるさい部分はよりうるさく、静かな部分はより静かになっているはず。
– ライブを通して、またアルバムを違った形で味わうことができそうですね。
– 最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
J:日本でライブすることは僕らの「TO DOリスト」の上位にあるよ。初めてのシングルをリリースした時、もちろんメインのリスナーはUKにいて、その次はそもそもの母数が多いUSだったことは驚きじゃなかったんだけど、3番目くらいに日本が来ていたんだよね。それ以来、その傾向は今も続いているんだ。
A:InstagramのDMでもらう温かいメッセージの多くは日本のリスナーからだし本当にありがたい。未だ、なぜここまで日本のみんなに聴いてもらえているのかわからないけど、とにかく嬉しいね。だから、早く行ってライブがしたいね。ありがとう。
Photo by Trinity Ace
■Release Information
ARTIST:Blue Bendy
TITLE:『So Medieval』
RELEASE DATE:2024. 4. 12
LABEL:The state51 Conspiracy
■Playlist
『CROSS – Blue Bendy』
気鋭なアーティストをキュレーターに迎えたプレイリスト『CROSS』。 今回はUKの6人組、Blue Bendyをフィーチャー。待望のデビューアルバム『So Medieval』のレファレンスになった20曲をセレクト。
配信リンク:
・Spotify
・Apple Music
また、選曲した楽曲について解説した「Tracklist Line Notes」を公開中。プレイリストを一聴してからアルバムを聴くと、また違った角度で聴くことができるかもしれない。
◼︎Biography
Blue Bendy
ボーカルArthur Nolanを中心に活動するサウス・ロンドン発のセクステット。2019年、1stシングル「Closing Sound」でデビュー。同年、初のフィジカル・シングル『Suspension』をリリース。独特のパフォーマンス、そしてギターポップやクラウトロックの影響を見事に昇華した楽曲が注目を集め、移り変わりの早いロンドンの音楽シーンで台頭する。これまでに〈So Young Magazine〉や〈Loud And Quiet〉を始めとした音楽メディアでもフィーチャーされたほか、SquidやカナダはColaのツアーサポートを務める。
2022年には〈NME〉がその年の最も注目すべきアーティストを特集した『The NME 100: essential emerging artists for 2022』に選出。ますます勢いを強める中、同年1st EP『Motorbike』をリリース。
その後もコンスタントにデジタル・シングルを重ね、2024年4月、待望となる1stアルバム『So Medieval』をリリース。類まれなセンスと勢いのある同世代のバンドと肩を並べるパフォーマンスで更なる飛躍を遂げる。