Interview – deathcrash

“静寂の爆発” − 引き算し続けた先に見えた本当の生々しさ。『Less』を通して表現したミニマルの美学と、制作への向き合い方に迫る独占インタビュー。

− スロウコアは僕たちが最も強く惹かれる音楽 −

– はじめに、アルバムリリースおめでとうございます。ようやく世に出せた今の感想を教えてください。

ありがとう。他のどの作品でもそうなんだけど、どこか不思議な気持ちだね。それでも人々が聴けるようにリリースできて、そして聴いてくれた中の一部の人が、作品から何かを見出してくれていることがとても嬉しいよ。リリースされた以上は、僕たちの方からこれ以上に何かをするということはもうできないね。

– 今までロンドンの音楽シーンと密接に関わってきたようですね。一方で、あなた方のスロウコアやポストロックに影響されたようなアティチュードからは常にアウトサイダーな雰囲気が感じられていました。このような音楽を作り始めるに至った経緯を教えてくれますか?

色んな理由があるよ。ずっと意識的に取り組んできたことではあるものの、必ずしも何か具体的なプランをもって“意図的に”やってきた訳ではないんだ。今のサウンドってのはとても自然な流れで始まって、僕たち自身の本当の姿を表しているように思う。今のギタリストであるMattが加入した頃から今まで、ずっと僕たちが音楽を作る時に最も強く惹かれる種類の音楽なんだ。この種の音楽に含まれる感情は僕たちをワクワクさせるし、僕たちにとっても一番しっくりくる。だからこそ自分たちでもやりたいと思うんだ。僕たちはギターバンドだけども、スロウコアの音楽はギターの持つ生々しさに一層の厚みをもたらしてくれる。

– 2月に〈untitled (recs)〉が主催したショーケースライブを観ました。演奏からは音源とは少し違う静けさと熱の緩急に驚きました。曲を見ていると、即興性があるように思えるのですが、ライブで演奏することを想定して書かれた曲はありますか?

ショーを観に来てくれてありがとう。実はどの曲も即興は取り入れてなくて、むしろ正反対。

– 即興ではないんですね。

最新アルバムの『Less』の全ての楽曲、そして前作『Return』のほとんどの曲はライブでの演奏を想定して作っていたよ。生で演奏することは僕たちの活動の大部分を占めている(それはリハーサルでも、レコーディングでも、ステージ上でもだ)し、僕たちもそのことは常に頭の中で意識している。レコーディングではステージでライブをする時とスタジオでひとりで演奏する時の両方を想定して、その2つがクロスオーバーしたところを捉えようとしているんだ。ライヴではその2つをさらに推し進めようとしているし、ベストな状態の時には実際にさらなる深みへと曲を持って行けているんだ。

– 最近、TikTokなどのネット上ではテンポの速い曲や、短い時間にサビやメロディを詰め込んだ曲がヒットすることが増えています。その点において、deathcrash は逆の方向に進んでいるように見えますが、今のメインストリーム市場とポップミュージックをどう見ていますか?

Futureが作ったアルバムは2022年のベストだったね。僕たちはポップミュージックをやらないのは単純にそのやり方が分からないから。

– メンバーのTiernanとMattはSatan Clubというフォークのプロジェクトもやっていますね。こちらのコンセプトはどのようなものですか?

Satan ClubはMattのプロジェクトで、彼はこっちでは実に美しい音楽をやっていると思うよ。deathcrash同様、編成はミニマル。でもdeathcrashと違うのは、焦点はアコースティック楽器にあてているということ;ギター、バイオリン、ハープ、ピアノ。目的は密な視聴体験を作ること;抽象的な方法で感情的に表現する。アルバムではTiernanとマネージャーのJoeが演奏したんだ。

– マネージャーも⁈それは驚きです。

− ミニマルで、生々しく、むき出し −

– 1st アルバムはデビュー作品ながら『Return(=回帰)』という過去を連想させる言葉がタイトルに付けられました。そして新作は『Less』。あなたの音楽、そして2つのアルバムタイトルからは常に静けさと初期衝動の美学が引き算の感性で貫かれていると感じます。

僕たちの音楽をそういうふうに感じてくれてとても嬉しいよ。

– このイメージがどこか日本の”侘び寂び”の文化に通ずる部分があると思いまして。侘び寂びは簡素さ、静けさ、余白を大切にする日本の伝統文化で、deathcrashの音楽にもそのような側面があるように思いました。そのようなことも踏まえつつ、改めて作品制作について教えてください。

とても素敵な考え方だね。そして僕たちの音楽がそんな文化にフィットする側面があると知れてとても嬉しいな。僕たちの音楽が何か内なる静寂から生まれているとは思わないけど、だからこそ、その静寂を目指し、そこに穴をあけることが多いのかもしれない。

アートワーク(全てKaye Songのデザインのよるもの)における狙いとしては音楽とマッチすること、そして違う側面を持ち込むことの2つがある。『Less』のアートワークにあるのは自由に変形できるアルミ製の彫刻。一見、自然の中にポツンと置かれて似つかないようなんだけど、そんな違和感こそがこのレコードにはふさわしいと思うんだ。

– それでは、最新作『Less』について。はじめに今作のコンセプトを教えてください。

コンセプトはとにかくミニマルで、生々しく、むき出しであるということだった。1st アルバムのような大作は作りたくなかったんだよね。一旦日々のことから距離を取って、もう一度自分たちを取り戻す、そんな時間が欲しかったんだ。そしてもっと作曲や4人で演奏するということに集中したかった。それは僕たち自身がより良くなるためのエクササイズみたいなものだった。

− 全てを作品に収める −

– レコーディングはスコットランドのブラック・ベイという場所で2週間かけて行われたそうですね。いつも拠点としているロンドンと比較して、かなり異なる環境だったと思うのですが、そこでの経験や異なる環境下でレコーディングしたことは制作にどのように影響しましたか?

環境は制作において大きな部分を占めていた。僕たちの目標は、2週間という限られた期間内で全てをブラック・ベイで終わらせることだった。だから、演奏中に起きたことは全て収めたいと思っていた。それ故、その場を離れられなかった。時に外出も試みたんだ。でもいざやってみると、自分たちも離れたくないんだってことが分かった。それがこのアルバムのサウンドになっているんだ。

– プレスリリースによると、当初はフルアルバムを作る予定はなく、ミニマムなEPを作るつもりだったそうですが、制作が進むにつれ、曲が想像以上に大きなものであることに気づいたそうですね。曲作りの過程で感情の起伏はありましたか?

感情の起伏はレコーディング中にたくさんあったよ。家から遠く離れた地で閉じ込められながらレコーディングするっていうのは中々強烈な経験で、生産性を保つのが難しかった。『Return』の制作中も、『Less』の構想を練り始めたときも感情の起伏は激しかった。それが今作の始まりになったんだけど、曲作りのプロセス自体はこれまで以上に落ち着いていて、より確かなものになった。メンバーは皆、個人的に多くの変化を経験し、そのことが作品の静寂と一貫性につながったのかもしれない。

– ミュージックビデオでは焚き火が印象的でした。焚き火の静かに燃え盛る様は静寂と熱気の狭間を彷徨う今回のアルバムのイメージに重なると思いました。アルバムのイメージとして意図的に炎を使ったのですか?

メンバーのNoahが『Less』の焚き火担当だった。元々スコットランド滞在のどこかのタイミングで彫刻に火を付けようと計画していたんだ。そこである日、長いレコーディングの後に燃やしたんだ。見た目のクールさはもちろんだけど、見ていてとても癒された。

– 『Less』はここ日本でも国内盤CDがリリースされました。あなたたちの古くからの友人、Black Country, New Roadもここ数年で日本でも人気が出てきており、UK音楽シーンへの関心が高まっていることは確かなことだと言えるでしょう。最後に、一言お願いします。

日本の人たちが僕たちの音楽に興味を持ってくれるなんてクレイジーだし、とても非現実的な感じがするけど、みんなからの愛やサポートには本当に感謝しているよ。日本でライブができる日のことを楽しみにしているよ。


■Live Information

「deathcrash Japan Tour 2023」

〈東京公演〉
ACT:deathcrash, downt, NOUGAT
DATE:2023. 12. 4
PLACE:新代田 FEVER
OPEN : 18:30/START : 19:00

〈名古屋公演〉
ACT:deathcrash, 水中スピカ
DATE:2023. 12. 4
PLACE:k.d. japon
OPEN : 18:30/START : 19:00

〈大阪公演〉
ACT:deathcrash, TAMIW
DATE:2023. 12. 6
PLACE:CONPASS
OPEN : 18:30/START : 19:00

各公演の詳細はこちらをご確認ください。


■Release Information

ARTIST:deathcrash

TITLE:『Less』

RELEASE DATE:2023. 3. 17

LABEL:untitled (recs) / Firetalk Records / Rimeout Recordings

アーティストオフィシャルページはこちら


■Biography

deathcrash

2018年にロンドンで結成・活動開始。CodeineやLow、Dusterら90sスロウコアの影響を公言し、その空気を色濃く反映したサウンドが特徴的な4人組ポストロックバンド。近年のUKインディーシーンとの関わりも強く、Black Country, New Road なども彼らからの影響を公言している。
2022年にインディペンデントレーベル〈untitled (recs)〉からデビューアルバム『Return』をリリース。メディア各所で絶賛され、LOUD AND QUIET では 9/10点の高評価を獲得。
2023年、2nd アルバム『Less』をリリース。9月にはパリで Codeineとの公演も決定し、ますます勢いを強める中、12月には待望の初来日ツアーの開催がアナウンスされた。