Interview – Fire Talk Records
新進気鋭なアーティストを次々と発掘し、立て続けに良質な作品をリリースするUSインディー切っての注目レーベルFire Talk。立ち上げの経緯、今のアメリカの音楽シーン、フィジカル/デジタル音楽の未来について、主宰Trevor Petersonの考えはいかに。
ー00年代半ばのブログブームからー
レーベルがどのようにして始まったのかについて教えてください。
簡単に説明すると、レーベルを立ち上げるという考えは若い頃から常に頭の片隅にあったんだ。高校時代にレコーディングをしたことがきっかけになって、大学では音楽知識を増やしていった。また、00年代半ばのインターネット上の音楽ブログブームに伴って多くのインディーレーベルが立ち上がっていたことも後になって知ったんだ。
2009年に僕が友達と一緒に始めたWoodsmanというバンドが初めてレコーディングをし、DIYツアーを行ったんだ。その時に、録音した曲をCD-Rにしてマーチャンダイズテーブルで販売するためにレーベル名を決めることにしたんだよね。そのすぐ後に僕たちはそのレーベル名を使って、周りの音楽シーンの友達とサインして7インチとかをリリースし始めた。レーベルはそこから大きくなっていったね。
現在、レーベルはどのようにして運営されているのですか?一人で全部の仕事を?それとも同僚や仲間がいるのでしょうか?
今は3人のスタッフが毎日働いているんだけど、(仕事の)ネットワーク自体はもっと広い感じだね。リリース毎に様々なプロモーション・流通パートナーと仕事をしているよ。僕らが目指す規模感でのリリースを賄うには3人よりも全然多い人たちが仕事に携わっているね。
新しいアーティストの発掘やコンタクトの取り方はどのように行われているのでしょうか?
A&R*1のプロセスは多方面に渡るね。僕たちは常に世界中の新しいアーティストを探している。ローカルライブのラインナップを見て、どのアーティストが誰と共演しているのかをチェックしたりするね。他にはブログ等のオンラインソースも使うよ。あとはやっぱり口コミだね。レーベルに所属するアーティストから他のバンドの話を聞いたり同じ業界にいる仲間から情報を仕入れることもあるね。常に新しい音楽を聴き続けて、次に何が来るのかを探しているよ。
*1 A&R – Artists & Repertorieの略。音楽業界における職種に一つ。主にはアーティストの発掘・契約・育成とそのアーティストに合った楽曲の発掘・契約・制作を担当。
ーアーティストを最優先にー
レーベルとしてのポリシーは何かありますか?またレーベル運営において重要だと考えることはなんですか?
僕たちのポリシーとしては何よりまず、アーティストへのサービスを第一に考えることだと思っているよ。ビジネスとして何か決定するときは、それが僕たちが一緒に仕事をしているアーティストにどのような影響を与えるかを常に考えているね。
昨年はDehd、Pure X、Deeperを始めとして大きなリリースがいくつもありましたね。それらはレーベルに何か変化をもたらしましか?
(レーベルが)成長していることは確かだけどそれはここ数年のことで、昨年はそれまで行ってきた仕事の集大成だった。一緒に仕事をするアーティストにより良いサービスを提供し、彼らの認知度を高め、観客を増やすことを目標とし最初に計画を立てるよ。年々、僕たちの活動に注目してくれる人が増えているけれど、今後もアーティストとレーベルの両方のオーディエンスをコンスタントに増やし続けたいね。
ー僕たちはある種の「再生」の最前線にいるような気がするー
現在のUS音楽シーンについて少し聞かせてください。パンデミックの影響はあったのでしょうか?
パンデミックは間違いなく影響を与えたね。でも少しずつそこから脱却し始めていて、ライブも徐々に発表されてきて僕たちはある種の「再生」の最前線にいるような気がするよ。今後きっとたくさんのことがローカルレベルで再開していくと思うよ。新たなシーンの誕生であったり、それが他のシーンをサポートする。あるいは国中の様々なアーティストやグループに多様な機会やインスピレーションを与えることに期待しているね。
USで始まったレーベルですが、国内の音楽シーンでの今の「トレンド」みたいなものはありますか?
これがトレンドではなく、より良い変化であることを願っているけど、国内のインディペンデント音楽がより多様で包括的な未来に向かっていることは実感しているね。
ー「技術革新の本質は破壊」ー
「フィジカルとしての音楽」と「デジタル音楽」の未来についてはどのように考えていますか?
この質問はとても面白いね。なぜならデジタル音楽がどこかに行くとは思わないからね。むしろ、長期的に音楽消費全体の中で大きな割合を占め続けるだろう。とは言え、フィジカルの方がはるかにアーティストにとって経済的に有利で、特にレコード産業は年々ものすごい勢いで成長している。もちろんレコードブームに伴った環境問題については考えないといけないと思うよ。でも(いわゆる)コレクターたちは常に(レコードを)集めていたいだろうし、本当のファンは常に最も有効な方法でアーティストを支援したいだろう。
もしかしたらデジタルダウンロードが復活する余地はあるかもしれないけど、そのためには、デジタルファイルやサブスクリプションベースのモデルよりも個人の「所有権」を優先するプラットフォームが必要であって、それは近い将来に実現するとは思えない。しかし「技術革新の本質は破壊」で、アーティストにとってより公平な未来を求める声が高まる中で、新しいアイデアがこの分野に入ってくることは間違いないと思う。
アーティストやバンドで今後楽しみな方は誰かいますか?(国・地域は問いません)
もちろん!今年はたくさん「グッド・スタッフ」がリリースされるよ。Wombo、PACKS、Mia Joy、Bnny、Mandy, Indiana、Mamalarkyなどなど。今年もレーベルにとって大きな一年になると思うし今取り掛かっていることはどれもがとてもエキサイティングだね!
レーベルとしてのゴールがあれば教えてください。また、日本の読者へ向けてメッセージをいただけると嬉しいです。
日本で僕たちが成長できるのを楽しみに思っているよ。Big Love Recordsはレーベルにとって大きなサポーターで僕たちのリリースをよく取り扱ってくれているよ。日本のファンが新しい音楽に対して情熱を持っていることが僕たちは大好きだし、僕らの原動力にもなっているね!僕らの(レーベルの)バンドが近い将来日本でツアーできることを願っているよ!ありがとう!
■ Release Information
ARTIST:PACKS
TITLE:Take the Cake
Release Date:2021. 5. 21
■ Biography
Fire Talk Records
NYブルックリンの音楽レーベル。WoodsmanのメンバーであったTrevor Petersonが自身のバンドの作品をリリースすることを目的としてスタート。近年ではDehd、Deeper、Patio。そして復帰が話題となったPure Xが所属し、ますます存在感を強める。新人の発掘や育成にも力を入れる、今アメリカでもっとも勢いのあるインディーレーベルの一つ。
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