Interview – Superorganism

Dominoから突如現れた衝撃から早3年。“ポップ”というものをこれまでにない形で解釈し、常にその可能性、価値を最大限に拡張してきたUKの多国籍グループ、Superorganism。より派手に、よりオーガニックなアプローチとなった最新作『World Wide Pop』で捉えた“ポップネス”の正体、先日のフジロックでのパフォーマンスを通して感じた“今の日本”に迫る。

ー 僕にとってのポップは、偉大な“人々を繋げるための力” ー

– では、まず初めに自己紹介をお願いします。

ハリー(以下、H):こんにちは。ハリーです。僕はバンドのギタリスト、プロデューサー、ソングライティング、それに一部キーボードなんかもやっているよ

オロノ(以下、O):ハイ、オロノです。自分も一緒にたわごとを作ってます。まあ、そんな感じで。

– また、バンドをキーワード3つで表してみてください。

H:「Very Cool Band!(最高に/かっこいい/バンド)、または「Best Music Ever(過去/最高の/音楽)」かな(笑)

O:「Food、Sunlight、Water(食べ物、太陽光、水)」

H:大事なものばかりだね。

– 今作のタイトルにちなんで、あなたたちが考える「ポップ」がどのようなものか教えてください。

H:僕にとってのポップは、偉大な“人々を繋げるための力”だね。ひとつのジャンルやサウンドに限ったことではなく、むしろ物事に対するアプローチの方法というか。取っつきやすさ、親しみやすさを通して、なるべく多くの人たちを繋げることを達成するための手段だね。

O:POPは「Perfectly Ominous Poop(完全に・たくさんの・うんち)」の頭文字を取ったもの。

H:(笑)

O:この類いの質問が多すぎて、ちょっと食傷気味なんだよね。

– 分かりました。では、あなたたち自身の音楽のことをご自分では“ポップ”だと思いますか?

H:そう思うよ。僕たちの音楽はポップだね。

O:もちろん。

H:何度も繰り返し言っていることだけど、僕たちが何者なのかは自分たちで決めることではなくて、受け取る側に委ねているからね。自分ではポップだと思っているけどさ。

O:好きなように決めてもらっていいよ。

– アートワークやマーチのデザインが毎度特徴的ですが、今作『World Wide Pop』に関してはどのようなことを意識されたのでしょうか?

O:なにかクレイジーなものを描きたくて。ジャングルのような感じにしたかったんだよね。それで、まずはバンドのみんなに自分のスピリットアニマル(自分を象徴する動物)を訊いたの。ハリーはキツネ、ソウルはキャット、ビーは蜂(bee)、トゥーカンはオオハシ(toucan)。自分はナマケモノにしたけど、クマもいいなと思って、次の機会があったらクマを描きたいな。そこから始めて、アリゾナのフェニックスでのショーが素晴らしかったからその時のオーディエンスを描きたくて。自分たちにとってとても思い出深いショーだったから

H:それまででいちばん良いショーだったよね。

O:それを描くのにかなりの時間を費やすことになったんだけど、最初から計画していたわけではなくて。結果的にこういう絵が出来上がったという感じかな。だから、この作品はネイチャーと、自然の発露と繋がりとフレンドシップを表現したものになっていると思う。

– このアートワークはこのアルバムの音楽性を体現しているんですね。

O:そう。自分たちの作るものはすべて繋がっているよ。

ー 凱旋というか故郷に錦を飾る感覚を味わわせてくれる街で演奏することには大きな意味がある ー

– さまざまな国でライブを行なってきたと思いますが、今までに印象に残っている場所はありますか?

H:僕にとっては、大きな都市でのライブはどれも印象深いね。ニューヨークとかロンドンとか、ここ東京とか。大きなヴェニューやオーディエンスのキャパが多いこともあるし、カルチャーの中心地でのライブはどこもとても記憶に残っているよ。それに、個人的には世界の大都市でプレイすることは、道標のようなものというか……子どもの頃、そういう場所にライブを観に行って、いつかは自分もこんなところで音楽を演奏してみたいと思っていたから、その夢を達成出来たような気分になるんだよね。もちろん小さな町で演奏するのも好きだよ。さっきも話に出たフェニックスなんかも音楽が盛んな場所ではあるけど、ニューヨークに比べれば小さな街だからね。もちろん、自分をビッグスターみたいには思っていないけど、大きな都市で演奏するのは気持ちいいね。

O:小さな場所だと、友だちばっかり20人とかあるからね。そういう場所で何を言ったらいいのか分からないよね(笑)。でも、コロンバスとかフェニックスかオーディエンスがすごくクレイジーで演ってて楽しいし。

H:マンチェスターもすごく盛り上がるよね。特に僕はマンチェスターの近くのイングランド北部で生まれ育ったから、僕にとってはほとんど故郷でのショーという感じなんだ。友だちもたくさん来てくれて、イングランド北部のクレイジーなオーディエンスが大暴れしてくれるんだ。みんな酔っ払ってて騒がしくて、最高だよ。

O:あのマンチェスターでのショーは、自分にとってもすごく印象に残っているよ。というのも、ツアーのストレスからひどい風邪を引いてしまっていて。声がまったく出なくなっちゃったんだよね。あのショーの前にラジオに出演して演奏する予定だったんだけど、声が全然出なくて泣いてしまって。そんな状況で舞台に立って、なんとか声を絞り出したのを覚えてる。不思議と声が戻って来たんだよね。

H:アスリートと同じようなものなんだろうね。体調が万全でなかったり、トレーニングが万全でなくて自分のパフォーマンスに自信が持てない時でも、いざ競技場に立ったら力が湧き出てくるみたいな。

O:その通り。マンチェスターのオーディエンスは本当にクレイジーだから。みんな大酒飲みで大酔っ払いで、ものすごくうるさくて。でも、ショーの最後に『自分の故郷でプレイしているみたい』って思わず言ってしまうくらい温かかった。次の日には完全に声が出なくなっていたけどね(笑)

– 逆にこれから演奏してみたい国や場所はありますか?

H:僕はまたメキシコで演奏してみたいな。メキシコシティでプレイしたことがあるんだけど、今度は中南米だけじゃなくて南米にも行ってみたいね。色んなバンドが言ってるからちょっと言い古された感はあるけど、SNSに何か投稿するたびに『ブラジルに来て!』って必ずレスが付くからさ。ブラジルには熱心な音楽ファンがたくさんいるみたいだし、なかなかツアーに組み込まれない場所だから、個人的にはとても行ってみたいかな。

O:賛成だね。自分は、メイン州のバンゴーで演奏してみたいな。ハイスクール時代を過ごした街だから。すごく良いウォーターフロントのヴェニューがあって、パラモアもそこで演奏したんだよ。ビッグなバンドがたくさんプレイしていて、夏にはオルタナティブ系とか、メタル系とかカントリーバンドとか色々来るの。かなり大きなヴェニューで、正確には分からないけど少なくとも1万人は入るんじゃないかな。ボストンからも4時間くらいかかるから大きな都市というわけじゃないけど、いつかはそこでプレイ出来たらクールだなって思う。

– 高校生の時にそのヴェニューによく足を運んだんですか?

O:そうでもないよ。あそこで演奏するのはだいたいオルタナティブかメタルかカントリーのバンドだから、自分の好きなバンドはポートランドに観に行かなくちゃいけなかった。もっと小さな、2000人キャパくらいのヴェニューにね。ポートランドでも演奏したことがあるけど、クールだった。今度はもっと大きなヴェニューで演奏してみたいね。

H:僕にとってのマンチェスターとか、オロノにとってのバンゴーとか、凱旋というか故郷に錦を飾る感覚を味わわせてくれる街で演奏することには大きな意味があるよね。自分の知り合いが来てくれるというだけではなくて、自分自身の成長が実感出来るというか。

ー みんなが自分と同じ考えを持っているわけではない ー

– 日本の文化とアメリカの文化を経験しているOronoさんからみて、日本の同世代の若者はどう映りますか?(好きなところ、嫌いなところなどがあればぜひ)

O:自分はセラピーを通して、物事を善悪で判断しない、白黒で物事を見ないように心掛けているから……でも、出来たら日本の若者には、もっと意欲的になって欲しいかな。日本人、特に若者は現状に満足していると思うんだよね。もちろん、それはすごく良いことでもあると思う。日本にいれば自分の人生は楽だし居心地が良いから、その安全圏から抜け出すことをしないけど、もっと殻を破って欲しいかなとは思う。

– それはあなたの経験から来ているものですか?

O:自分は3歳か4歳からずっと日本を出たいと思っていたから。ある意味ずっとそういう環境で育って来たんだよね。子どもの頃からアメリカ映画を観たり、アメリカの音楽を聴いたりして育って来たし、クラスメートほど日本のメディアに囲まれて育ったわけじゃなかったから。

H:オロノとはちょっと違うかもしれないけど、僕もニュージーランドに移住した時、同じように感じていたよ。子どもの時にクライストチャーチっていう、都市ではあるけど小さな街に移り住んだんだ。そこはすごく素敵なところで、子どもを育てるには最高の環境だし居心地の良いところだったけど、いつも孤独を感じていた。そこで主流だったメインストリームのカルチャーにはまったく興味を持てなかったんだよね。すごく無味乾燥なものに思えてしまって。今大人になって振り返れば、ああいう環境で育ったことはありがたいと思えるようになったけど、その時はとにかくここを抜け出して広い世界を見たい、冒険したいと強く思っていたんだ。今思えば、自分の住んでいる街について悪い面しか見ていなかったかなと思うけど。1度、母と話をしたことがあるんだけど、僕は絶対に普通の仕事だけをして歳を取りたくない、って言った時に、母にたしなめられたんだ。『歳を取ることは悪いことじゃないし、普通の生活を望むことも悪いことじゃないのよ。あなたが冒険したい、夢を叶えたいと思うこと、たくさんのストーリーを生む人生を歩むことは素晴らしいことだけど、すべての人があなたと同じことをしたいとは思っていない。普通の仕事をして、家庭を持って穏やかに暮らしている人を馬鹿にするべきじゃないわ。みんながあなたと同じ考えを持っているわけではないのよ』ってね。その母の言葉が、僕の目を覚まさせてくれたんだ。それまでは、僕はとても野心的な人間だったから、野心を持たない人たちをどこか下に見ていたと思うんだよね。でも、今は人によって人生に求めていることが違うことも理解出来ているよ。

– すごくよく分かるし、素敵なお母様ですね。でも一方で、あなたが感じていたこともよく分かります。今はYouTubeやインスタグラムで世界中の映像や画像が見られるから、わざわざ現地に行くリスクを冒す必要がないと考えている若者も多いようですし。

H:そうなんだよね。特にニュージーランドは特殊な立地にあるからね。いちばん近い外国はオーストラリアだけど、それでも3時間半飛行機に乗らなきゃいけないし。日本に来るには12時間以上かかる孤島なんだ。どこの国に行くにも時間もお金もかかるから、ニュージーランドには生涯を通じて海外旅行を1度もしたことがない人がたくさんいるんだよ。そのせいか、とても保守的なところがあってね。外国は恐ろしいところで、悪い人や悪い行いや悪い文化に溢れていると考えているんだ。僕はニュージーランドで生まれたわけじゃなくて移住者だったから、最初からそういう文化に違和感を感じていたし、とても距離を感じていたよ。ニュージーランド人も日本人も、たくさん旅行して世界を見るべきだと思うな。自分で経験しなければ分からないことが世の中にはたくさんあるんだから。

– 自分で実際に経験してトライ&エラーを繰り返さないとですね。

H:そうなんだ。それに、色々な国の人たちと触れあうことによって、人種の違いや文化の違いに対する許容力が身につくと思うんだ。僕が失礼だと感じることでも、他の国の人にとっては普通のことだったりするし。そういうことを経験を通して知っていけば、他人に対してオープンマインドな人間へと成長出来ると思う。

– 以前、他のインタビューでOronoさんが日本の食事が恋しくなることがあると聞きましたが、好きな料理はあるのでしょうか?

O:好みはコロコロ変わるんだけど、いちばん好きなのはトンカツかな。それと鰻。

H:この時期だったら、冷たいお蕎麦が美味しいね。今日も実は朝食兼昼食に天ぷら蕎麦を食べて来たところなんだ(笑)。今住んでいるロンドンもそうだし、ニュージーランドもそうだけど、日本食といえばラーメンか寿司って感じだから、蕎麦を食べたことがなくて。日本に来て初めて食べたんだけど、美味しいね。日本では、これまでに食べたことのないものに色々挑戦したいと思ってるんだ。トンカツも最近オロノに連れて行って貰うまで食べたことがなかったんだけど、気に入ったよ。それに、この間連れて行って貰ったうどんも美味しかったな。それまでに食べたことのあるうどんとはまったく違って。

ー クラレッツへの愛とフジロック ー

– ハリーはフットボールのユニフォームをよく着られていますが、サポートしているチームはありますか?

H:Burnleyだよ。今はイングランドの2番目のリーグ、チャンピオンシップにいて……前はプレミアリーグだったんだけどね。世界一強いチームっていうわけじゃないけどね(笑)

– 僕らもフットボールが好きなので注目の選手がいれば教えてください。

H:えー、今までインタビューで訊かれたことがなかったからなぁ(笑)。面白い質問だね!今はちょうどシーズンの合間の移籍期間だから、Burnleyも選手の入れ替えをしているところなんだけど、今季は主力選手の半分を一気に放出して、替わりに19歳、20歳くらいの若い選手をたくさん取ったんだ。すごくエキサイティングだよ。新しいゴールキーパーのMuricはすごく良い選手で、とても期待されているんだ。それと、ミッドフィルダーのScott Twineも期待の選手だよ。若い選手がたくさん活躍してくれるのがすごく楽しみなんだ。Burnleyの最近の問題は、主力選手が高齢になってしまったことだったんだよね。33、34、35歳くらいの選手が多くて、フットボールの世界ではかなり高齢でしょ?(笑) そういう選手を全部手放して若返りを図ったから、今季はかなり期待出来るんじゃないかな。

– プレミアリーグに復帰出来るかもしれないですね。それに、若い選手がイングランド代表に選出されるかもしれないですし。

H:それも期待大だね。実際、ブラジル代表のライトバックと契約したんだよ。Vitinhoっていうんだけど。彼は23歳なんだけど、代表でも長いこと活躍しているんだ。Burnleyからはナショナルチームで活躍するような選手が長いこと出ていないから、その辺りも注目したいね。

– あなたのプレゼンによってSuperorganismの日本のファンがBurnleyサポーターになる日も近いですね(笑)

H:僕にチームの親善大使を任せるべきだね(笑)

– ところで、海外のフェスやライブを多く経験されていますが、今回のフジロックのオーディエンスはどう感じましたか?

O:とても温かくてナイスでフレンドリーだったよ。

H:何度か言ってきたけど、日本のファンは時としてちょっと保守的で、大暴れしない大人しい印象があるよね。でも、フジロックのオーディエンスは大盛り上がりしてくれてすごく楽しかった。

– 今回のフジロックで、印象に残ったアーティストなどはいましたか?

H:フジロック中はステージ以外はずっと取材を受けていて忙しかったし、終わってからも取材漬けだったからあまり多くのバンドはチェック出来なかったんだけど、幾つか観た中で特に良かったのはDinosaur Jr.だね。伝説のバンド。ステージの脇から観ることが出来たんだけど、本当にクールだった。それと、Jack White。僕はWhite Stripesの大ファンだったんだけど、おかしなことに彼のソロ活動はあんまりフォローしてなくて。だからソロの曲はほとんど知らないんだけど、White Stripesの曲を演奏してくれる度にめちゃくちゃ興奮したよ。それから、Black Country, New Roadが僕たちの一つ前に同じステージでプレイしたんだけど、すごく良かったな。

– オロノは誰か観ましたか?

O:全然観てないんだよね。自分たちの出番の直前に行ったから時間がなくて。

H:そこなんだよね。よく『クールなフェスティバルに行けていいね!』って言われるんだけど、実際は直接バックステージに連れて行かれて、楽屋待機して、ステージで演奏して、また楽屋に戻って、ホテルに連れて行かれるだけだから(笑)

O:その合間に仕事、仕事だもんね。

– 最後に、会場、そして配信でライブを楽しんでいた方々に向けてメッセージをお願いします。

H:僕たちはすごく楽しんだから、君たちも楽しんでくれていたらいいな。クレイジーに騒いでくれてありがとう。これからもずっとクレイジーでいてね。クレイジーでいることは素晴らしいことだから!

O:水をたくさん飲んでね。


■Release Information

ARTIST:Superorganism

TITLE:『World Wide Pop』

RELEASE DATE :2022. 7. 15

LABEL:Beat Records / Domino Recordings


■Biography

Superorganism

UKを拠点に活動する8人組多国籍ポップ・バンド。2018年にセルフタイトルのデビュー・アルバム『Superorganism』をリリースすると、その類まれなポップセンスと、時代を超越した破格のソングライティングが注目を集め、瞬く間にグローバルシーンの注目株に。メルティングポットさながら、多様なカルチャーが複雑に混ざり合いながら生まれる、新たな“ポップ・ミュージック”には、型にとらわれないバンドの自由な空気感が表れる。2022年、待望の2ndアルバム『World Wide Pop』をリリースし、同年夏開催のFUJIROCK FESTIVAL 2022ではホワイトステージでの出演を果たした。2023年にはジャパン・ツアーを行う予定。