| Interview
Slow Pulp

Photo: Jack Isacke
言葉の隙間を埋める、信頼の“メロディ”
Slow Pulpが最新作『Melodie』で見出した、他者と共鳴する自己受容の過程
常に自らの傷と向き合い、他者と共鳴しながら前へ進んできたシカゴの4人組、Slow Pulp。
最新作『Melodie』で試みた、“不完全な自分を晒け出すこと”。言葉にせずとも理解しあえる、無敵の信頼関係の果てに見出した自己受容の過程とは。
– 言葉にして語り合わなくても、自然と点と点が繋がっていく –
− まずはニューアルバム『Melodie』のリリース、おめでとうございます。前作『Yard』の成功と大規模なツアーを経て、バンドへの注目と称賛が高まる中で制作に入った今作ですが、実際に完成して世に出た今、どう感じていますか。
Emily Massey(以下、Emily):すごくワクワクしている。完成してから実際に世に出るまで数ヶ月待つ時間があったから、最近改めて聴き直すまで、アルバム全体を通しで聴くのは少し久しぶりだったくらい。本当にエキサイティングね。まもなく北米ツアーも始まるから、これらの曲をライブで演奏できるのもとても楽しみ。
− デビュー作『Moveys』は事故や病気の療養期、『Yard』はコロナ禍の隔離の中で形作られました。振り返れば、過去2作はどちらも過酷な時期に生まれた作品でした。対照的に、今回の『Melodie』は生活の中でも地に足がつき、安定した時期に作られたと伺っています。そうした穏やかな場所から曲を作るプロセスは、バンドにとってどのようなものだったでしょうか。
Emily:過去のアルバムの曲全てが感情の激しい混乱だけに根ざしていたわけではない。人生には常に何かしら起きるし、最近の出来事を振り返ったり消化したりすることもあれば、過去の出来事を思い返すこともある。ただ、今回最初に書き始めた時は、過去と比べれば確かに水面は穏やかだった。それでも「ソングライティング以外の日常では消化しきれないような感情に向き合って処理する」という意味では、今回もSlow Pulpらしい作品になったと感じる。自然と私たちが持っているメランコリーと、どこか楽観的で希望に満ちたエネルギーの双方が宿っていると思うね。
− 今回は全11曲中5曲で作詞・作曲をHenryが手掛け、EmilyとHenryの2人で膝を突き合わせて曲を作る初期のスタイルに立ち返ったそうですね。今このタイミングで、原点回帰的な制作アプローチを取ろうと考えた理由を教えていただけますか。
Henry Stoehr(以下、Henry):新しいアルバムを作り始める時は、それまでに学んだことを振り返り、前作でうまくいかなかった部分を修正し、常にもっと良くしようと試みている。制作プロセスを再検討することもその一環だ。ある時点で「昔のやり方に戻ろう」と明確に決めたわけではなく、結果的にこの手法に行き着いたというのが今作なんだけど、強いて意識した部分があるとすると、“互いの音楽をオープンに共有し合える仕組み” を作ろうとしていたことかな。
2日に1曲書いて相手に聴かせる、というスタイルを実践してみたんだ。当時から10歳年を重ね、一緒にたくさんの曲を作ってきた分、昔よりも生産的で良いものになった気がする。同時にたくさんの新しい発見があったのも新鮮だったね。
− 自分が書いたものを共有するのは、時に怖いことだと思います。例えば「Better Man」や「Not for Nothing」は、生々しくパーソナルな心情の吐露も伺えます。一方で特筆したいのは、Henryが書いた曲であっても、Emilyの歌唱を通して聴くと、まるでEmily自身の中から発せられた言葉のように感じられたことです。ソングライターとシンガーとして、歌詞の背景にある感情や想いは二人の間でどのように共有され、解釈されたのでしょうか。10年にわたる音楽活動が生んだ信頼関係の深まりも感じますか。
Emily:お互いの書いてきたものに対して、何について歌っているのかを根掘り葉掘り詮索することは決してしなかったし、過去にそのようなことをしたことは一度もない。それは、自分自身の解釈や曲との個人的な繋がりを持ち、そこに自分の人生を投影して理解することも重要だと思っているから。私たちは知り合ってから長いし、それぞれの生活で何が起きているかも把握している。だから、たとえ言葉にして語り合わなくても、自然と点と点が繋がり、曲が意味すること、曲の中にある感情の領域を正確に察することができたのだと思う。
曲作りの過程で、感情が詰まった曲を送ること以上に勇気が必要だったのは、純粋に「出来の悪い曲」を送ること。ひどい曲を送る方がよほど恥ずかしかったね。でもそのおかげで、ここ最近では一番と言えるほど、お互いに対して完全にオープンになれる環境が生まれた。二人の間のコミュニケーションの風通しを常に良く保つことができたと思う。
– 完全に無防備になり、何でも試せる場所 –
− アルバムのプロデュースですが、これまではHenryが単独で行っていましたが、今作では初めてElliott Kozelを外部プロデューサーに迎えました。自分たちの中だけで音を完結させる心地よさから一歩踏み出し、別の人に委ねようと決断した背景にはどのような心境の変化があったのでしょうか。
Henry:これは単純に新しいことに挑戦し、自分たちのやり方に疑問を投げかけてみたいという好奇心からだね。さっきの「制作プロセスを再検討する」という話と同じで、「これまでずっとそうしてきたから」という理由だけで同じやり方に固執したくはなかった。たとえその結果として以前のやり方に戻りたいと思うことになったとしても、学ぶべきことは常にあるし、やってみる価値はある。自分たちの輪の外にいる人と一緒に作業する経験をもっと理解してみたかったんだ。
− Elliottは皆さんと同じウィスコンシン出身で、10代の頃からの憧れの存在だったそうですね。実際にスタジオで一緒に作業してみて、彼がもたらした刺激や意外な変化はどのようなものでしたか。
Henry:きっとエネルギー的な部分が一番かな。
Emily:私は彼のユーモアのセンスだと思う。冗談を言い合って笑い合える関係性があったからこそ、クリエイティブ面で完全に無防備になり何でも試せる場所が生まれた。あとは、探求心旺盛なところもすごく新鮮だったし、どんなアイデアに対してもオープンだった。もちろん、すべてのアイデアがうまくいったわけではなかったけれど、そんな時に彼は「これは違うルートだね、別の方向に進もう」と判断するのが非常に上手かった。そうした部分が一緒に作業する中で最初に最も大きな影響を受けた点だったと思う。
− 改めて『Melodie』を聴いて感じるのはそのアプローチの幅広さです。「Entertainer」の弾むようなリズムから、「Slip Away」でのEmilyのボーカルの生々しい親密さまで、インディー・フォークからパンク、洗練されたポップフックに至るまで音のパレットが広がっているように感じます。アレンジ面で、これまでのSlow Pulpのサウンドの枠組みを意図的に壊そうとした部分はありましたか。
Henry:そこまで強い意図があったわけではない。どの曲でも、ピースがしっくりハマるまであれこれ試す中で、結果としてこれまでやったことのないアプローチになることが多かった。「前にもこれをやったからうまくいくはずだ」と思って実際にやってみても、あまりしっくりこないことが多いんだ。だから、それぞれの曲に合わせて異なるアプローチを取って探し続けた結果、過去のアルバムでやってこなかったサウンドに行き着いたのだと思う。
– 音楽以上に大事なのは、一人の人間として互いを支え合うこと –
− マディソンでの活動から数えると、バンドは10年以上の年月を共に過ごし、環境やバンドの規模も大きくなりました。そんな中でも、4人のコアにある変わらないものは何でしょうか。また、振り返ってみて逆に最も成熟したと感じる部分はどこでしょうか。
Emily:良い質問だね。バンドのコアには常に仲間意識や友情、そして“くだらなさ(silliness)”が存在していると思う。楽しいプロジェクトがビジネスや生活そのものになっていく過程で、そうしたものは時として見失われがちだし、少し離れてしまうこともある。それでも「必ず戻ってこられる」安心感があって、それってすごく重要なことだと思うの。それには今のレベルの友情がなければいけないし、友情なくしてはSlow Pulpと呼ぶこともできないわ。
Henry:僕も同じように感じている。特に10年バンドを続けるというのは複雑だし、ある意味関係性を試す実験のようなものだとも思う。それでも、モチベーションを保ち、僕たちを結びつけてくれるものがあるのは本当に幸運なことだ。
究極的には、お互いを理解し、支え合うための実践なのだと思う。これは僕たちの仕事であると同時に、自分たち自身のためにコミットすることを選んだ、ある意味でクレイジーな試みでもある。でもそれこそが、みんなで一緒に何かに向かって取り組み続ける原動力になっている。
Emily:10年間もこの活動を続けてきたから、親しい友人同士でバンドを組んで、一緒にビジネスを運営していくことの痛みや苦しみもたくさん味わった。この年月の中で私たちが改善できたことがあるとすれば、お互いにオープンでいること。そしてより良いコミュニケーションを取ろうと努めてきたこと。結局のところ音楽以上に大事なのは、一人の人間としてお互いを支え合うこと。10年もすれば様々な出来事が起こるし、4人それぞれが多くの変化を経験する。自分たちにできる最善の形でお互いを支え合うことが、私にとっては常に究極の目標だね。
– 心の傷は、自分を理解するための最も澄んだ鏡 –
− アルバムも無事リリースされ、今度はそれを引っ提げた大規模なツアーが控えています。ツアーに向けて、今の率直な気持ちを聞かせてください。また、ファンは今回のライブでどのような体験を期待できますか。
Emily:以前よりも演奏できる曲数が増えたから、セットリストはとても楽しくエネルギーに満ちている。そして、それらの曲を可能な限り最高のサウンドで届けられるよう準備もしてきた。ツアーに出るたびに自分たちのパフォーマンスを一段階引き上げ、観客に良い時間を過ごしてもらいたいと思っている。今回の北米ツアーでは照明デザイナーと一緒に作業していて、演出もパワーアップさせているのでとても楽しみ。
− ツアーのサポートアクトも多彩で素晴らしいラインナップですよね。デンマークのSnuggleや、フィラデルフィアのHer New Knifeなど。
Emily:本当に楽しみだわ。過去にヨーロッパでスコットランドのバンドとツアーをしたことはあるんだけど、アメリカで国外のバンドとツアーを回るのは今回が初めてだから、Snuggleとの共演はきっとエキサイティングな経験になるはず。デンマークの音楽シーンで起きていることはもちろん大好きだし、フィラデルフィアのシーンも同様。フィリーには常に強力なカルチャーがあり、Her New Knifeの参加も素晴らしいものになるわ。
− 最近再結成したIvyも名を連ねていますね。
Emily:Ivyは、ここ5年くらいの間たくさん聴いてきたバンドで、彼らが私たちのオープニングを務めてくれるなんて信じられないほど光栄。ライブを観るのも曲を一緒に歌うのも待ちきれない。
自分たちが熱中している音楽をやっている人たちをツアーに招くことには常に胸が躍る。特に女性やノンバイナリーの人たちがいるバンドをフックアップすることは、私にとって非常に重要なことで、今回も楽しいツアーになると思う。他のバンドとツアーを回る時は、ショーの合間に一緒に過ごす時間が醍醐味だったりもして、みんなのことをもっと知れるのが楽しみだね。
Henry:まさにそれが一番の楽しみだ。もちろんライブ自体もね。
− この5年間で日本でもあなたたちの名前は広がりを見せていて、リスナーもライブを観られることを待ち望んでいるはずです。
Emily:ぜひ行きたいわ。今回のアルバムタームでは、これまでよりも多くの場所に行く予定でとてもワクワクしているし、できるだけ早く日本にも行きたいね。

Photo: Luca Venter
− インタビューの締めくくりとして一つ質問させてください。『Melodie』は、過去の心の痛みや葛藤を受け入れ、前へ進むためのアルバムのように感じられます。この作品は、Slow Pulpというバンドのストーリーにおいて、どのような意味を持つ作品になったと感じていますか。
Emily:Slow Pulpの音楽の根底にあるものの多くは失恋や心の傷だと思う。それは辛いことであると同時に、どこか素晴らしく、美しいものでもあると思うの。心の傷を通して自分自身について学ぶことができる。人生の他のどんな時期よりも、自分について深く知る瞬間。それは自分が何者であるかを映し出し、自分を理解するための最も澄んだ鏡のようなもの。私は、リスナーがそこに慰めを見出し、その複雑な感情に寄り添い合えることを願っている。
『Melodie』はその旅路の新たな一幕にすぎない。私たちにとっては“大人としての”、あるいは30代を迎えての “清算” のようなものかもしれない。私たちがそうした感情とどう付き合っていくかは、年齢を重ねるにつれて常に変化し、進化していくだろうし、それが将来どうなるのかは全く分からない。でもそれこそがエキサイティングな部分。
− 最後に、日本の方へメッセージがあればお願いします。
Emily:日本に私たちの音楽を聴いてくれている人たちがいること自体、本当に信じられないほど嬉しいし、心から深く感謝しているわ。2027年、きっとライブできるので楽しみに待っていてほしい。そして、その時は日程も空けておいてね。
Henry:近いうちに会えることを願っている。本当にありがとう。
■RELEASE INFORMATION
■BIOGRAPHY
Slow Pulp
2015年、米ウィスコンシン州マディソンで結成された4人組バンド。幼馴染みであるHenry Stoehr (Gt.)、Alex Leeds (Ba.)、Teddy Mathews (Dr.)に、Emily Massey (Vo./Gt.)が加わり活動をスタート。2018年に拠点をシカゴへと移す。
2020年、過酷な逆境や個人的な療養期の中で制作された1stアルバム『Moveys』をリリースし、世界的な注目を集める。その後、PixiesやDeath Cab for Cutie、Alvvaysといった名だたるバンドのツアーサポートに抜擢。
2023年、名門〈ANTI-〉から2ndアルバム『Yard』をリリースすると、USインディーロックの最高峰として高い評価を獲得し、バンドとしての確固たる地位を確立する。
2026年9月、初期の共作スタイルへと立ち返り、初の外部プロデューサーElliott Kozel (SZA, Yves Tumor, Rosalía) を迎えて完成させた待望の3rdアルバム『Melodie』をリリース。

