Interview – Wu-Lu

今ロンドンで一番の爆発を起こすヴォーカリスト/マルチ・インストゥルメンタリスト/プロデューサーのWu-Lu。パンク、ヒップホップ、ダブ、ラップなどあらゆる方法で怒りを表現する彼のスタイルは、どのようにして誕生したのか。今回Wu-Luは、生い立ちから彼に影響を与えた音楽やコミュニティー、そしてそこから生まれた明確なアイデアとともにその答えを教えてくれた。

ー 何でもできる。どんなことがあっても、抜け出してより良い場所に行くことができるんだよ ー

– はじめに、あなたはどのように音楽キャリアをスタートしたのでしょうか?

父は音楽をやっていて、母はダンサーなんだ。母は以前、プロのダンサーを終えた後にYouth Musicというチャリティー団体で働いていたんだ。その頃、僕はスクラッチやターンテーブルの魅力に取りつかれた。ターンテーブルが欲しいとずっとお願いして、結局1台、もう1台と買ってもらい、母がレコードを持ってきてくれるようになったんだ。
その間にトランペットやベースを始め、双子の兄弟Ben Romans Hopcraftと一緒に小さなバンドを結成して、Nirvanaのカバーなどを演奏していた。5〜8歳の頃かな。僕にとって、音楽はいつも身近なもので、家族は昔から僕たちのクリエイティブなアイデアやそれに関わるものをとても応援してくれているんだ。

– 子供の頃から色々な才能に恵まれていたんですね。

そうなんだ。昔はよく父と一緒にツアーに行ったんだ。父はDodgyというインディー系のブリットポップバンドをやっていて、そのバンドの車で、俺とBenは一晩中ツアーに連れて行かれたんだ。学校を休んで、車に乗り込み、ヨーロッパをドライブする。自分にとってはこれが当たり前だったんだ。

Wu-Luの名で活動する前は何をされていたんですか?

DJ Mileageという名前でダンス・ミュージックをたくさん作ったり、We’re Davisというダブステップのようなグライムクルーもやっていたんだ。僕たちは大学時代の友人で、当時はジャングルに夢中だった。ターンテーブルでスクラッチをしたり、ロンドンで人の誕生日やパブをモニターしたりするDJから、ドラムンベースやジャングルのミキシングにのめり込んでいった。昔、ドラムンベースとジャングルのレイブに行こうとしたんだけど、僕は若すぎて入れなかったんだ。 それで、ダブステップのパーティに連れて行ってもらった。ドラムンベースの気分で行ったんだけど、超スローでハーフタイムみたいな感じで、これはイケてるぞって。自分が何を聴いているのかよくわからないけど、これはクールだと感じて、そこからさらにダブステップにのめり込んでいったんだ。

それから、5人のDJと5人のMCで10人のクルーみたいなものを作ったんだけど、ちょっと空回りしてしまった。他のシンガーと仕事をするようになって、自分がプロデュースして音楽も演奏しているから、みんなにイライラするようになったんだ。シンガーが3時間遅刻してきたりすると、「もういいや」と思って、自分でやるようになった。それから、友達とMonsters Playgroundというクルーを始めたんだけど、基本的にはSP404とMPCとサンプリングしたビートをチョップアップしただけのビートを作っていたと思う。そして僕と友達はWe’re Davisのような小さな2人組を作って、活動を続けていくと、友達に「どうしてベースを弾かないんだ?」と言われたんだ。僕は「確かに。なんでやらないんだろう?」と感じて、その時からWu-Luという名前で自分自身の音楽を作ってみようと思ったんだ。歌とベースを弾き始め、友達にドラムを叩いてもらい、それを切り取ったり、ビートの要素や昔のバンドの音源を使って好きなものをコラージュするようなことを始めた。そして、そこから発展させていき、さらにのめり込んでいったんだ。

ー どんな形にもフィットする水のような存在でありたいというのが、この名前の背景にある ー

– かなり多様な活動をされていますね。Wu-Luという名前にはどういった意味があるのですか?

どんな形にもフィットする水のような存在でありたいというのが、この名前の背景にあるんだ。
自分の名前をいろいろとチェックしていた頃、ラスタファリやラスタファリアンのコミュニティーに興味があって、エチオピアの言語である「アムハラ語」を勉強していた。そして、アムハラ語で水を表す単語を調べたら、「Wuha」と出てきたんだ。これは良いと思った。でも、よくよく考えてみると、もしWuhaと名乗ったら、みんなBusta Rhymesの「Woo-Hah!! Got You All In Check 」とひも付けて、イジり始めるんじゃないかと思ったんだ(笑)。それで頭の中のコンセプトは、水のようにどんな形にもフィットすることだったから、”Lu”の方が流動的に聞こえるんじゃないかと感じたんだ。ある時、「Wulu」ってあるのかなと思ってGoogleで調べたら、中国の花瓶のようなもので、精霊が宿るとか、龍や精霊のようなものが入っているとか、そういうことが書いてあった。 これはかなりドープだと思ったよ。こんな感じで水のようにどんな形にも収まるようにという意味で決まったんだ。

ー 他人がどう思うかではなく、自分が楽しめるかどうかが重要なんだー

なるほど。まさにあなたの名前、そして先ほど言った“コラージュのような音楽”という言葉のとおり、楽曲からは様々なジャンルからの影響を感じます。具体的に影響を受けたアーティストや人物はいますか?

MC Hammer、Offspring、Nirvana、Madlib、J Diila、Ras Gはかなり影響されていると思う。中でもRas Gは活動初期の頃にとても助けてくれた。よく彼に「これについてどう思う」って相談していたんだけど、ある時彼は「僕がどう思うかではなく、君がどう思うかだ」と言ったんだ。これは自分にとって大きな気づきだった。彼はいつも他人がどう思うかではなく、自分が楽しめるかどうかが重要だと背中を押してくれたんだ。昔は他人の意見を参考にすることが多かったんだけどね。

影響を受けたという意味では、Thundercatもそうだし、Lianne La Havasもクリエイティブな面で、また文化の中で広く考えるという意味で、大きな影響を与えたし、André 3000 もそのうちの一人だね。

作品で言うと、GorillazのファーストアルバムとSpeakerboxxx/The Love Belowの2枚組アルバムかな。僕が好きなアニメスタイルの美学とヒップホップ、ダブ、ギア、パンクが1つのプロジェクトになったような感じで、大きな影響を受けているんだ。そしてArchetypeというアーティストのレコードは、今まで聴いたことのないようなジャズで、宇宙的なんだ。とても怒りに満ちていて、感情的でもある。

– 最近のお気に入りのアーティストはいますか?

Léa Senという女の子がいるんだけど、彼女は努力が必要ないくらい天才的なヴォーカリストだ。そして、僕のバンドにはPhantom Jというブラザーがいる。バンドのギタリストであり、僕らの武器の4分の1を担ってくれている。彼は今、僕が見てきている中でもかなりドープなアーティストだよ。
それから、Greentea Peng。彼女は親友で、エレクトロパンクのバイブを持つアーティストなんだ。また良いクイックベースを持っているし、軽くて斬新なドラムを叩いているんだ。
Tirzahも良い友達だし、Brother May、Coby Sey、Bad People、Alpha Maidも最近聴いているな。僕の弟Benもいいね。彼はWarmduscherというバンドをやっていて、パンクバンドの一種、ディスコパンク、あるいは初期のBeastie Boysみたいな感じの音楽をやっているんだ。

– 兄弟のBenは以前、Childhoodというバンドでもやっていましたよね。このバンドは今は活動していないのでしょうか。

彼らは2枚目のレコードを出したけど、Benは違う道に進みたかったような感じがする。Benはある意味色々なプロジェクトで実験しているようなところだったんだ。おそらくそれが影響して徐々に終わってしまったんだと思う。でもまた戻ってくるかもしれない。Benは常に曲を書き続けているし。実は隣の部屋にBenがいるんだ。

– 本当ですか!仲が良いんですね。

そうなんだ。BenとRachel Chinouririの3人で一緒に仕事をしたこともあるし、僕らはちょっとしたジュエリー・プロダクションのようなものなんだ。彼は僕の何曲かにクレジットされているし、自分にとってもうひとつの武器だね。常に自分の部屋にいるときは明るいし、真のミュージック・マンなんだ。彼は他の人たちといくつかサイドプロジェクトを立ち上げたりInsecure Menというバンドでも活動しているよ。他の人たちのために作曲もしてるし本当に色々やってる。

ー 常にアートが最優先にある気がするんだ ー

– 話を変えまして、少しWARPとの契約経緯について聞かせてください。数あるレーベルの中でもWARPを選んだ理由は何ですか?

WARPは、僕がずっと尊敬しているレーベルなんだ。1年ちょっと前、シングル「South」をリリースした直後に、一緒に何かできないかと話していた。ロンドンにあるレーベルの中で、そして僕が好きなレーベルの中でもいつもWARPに惹かれていたからね。ある時、レーベルのYouTubeを見ていたら「WARPはアーティストを育てて、ありのままの自分でいられるような場所だ」みたいなことを書いている人がいたんだけど、僕もまさにそう思っていた。

僕は自分のアイデアをサポートしてくれるような場所にいたいと思っているんだ。それまでは自分の表現活動以上に良いと思えるようなレーベル関係者とは会ったことがなかった。みんなが自然体でいるチーム、そして彼らのロスターにはAphex TwinやFlying Lotus、Yves Tumor、Squarepusherなど、僕が心から愛している人たちが、最初から今に至るまでずっと所属している。業界でよく言われるような“契約で縛られた”とか“やりたいことをやらせてくれない”とか、そういうことで関係が阻害されることがない。むしろ関係が強くなっているように感じる。とても居心地がよかったし、有名になるための作品というよりも常に“アート”が最優先にある気がするんだ。

– 僕たちも同じような印象をWARPには持っていて、アーティスト本人からもそう言った意見が聞けてとても嬉しいです。レーベル内で親しい人はいますか?

Squidはこのサウスロンドン周辺のバンドだよね。正確にはこの辺りの出身ではないけど、彼らはよくDan Careyとこの地域でレコーディングやパフォーマンスに時間を費やしているよ。他にも、KELELAという素晴らしい作品の発表を控えている友達もいるよ。僕はまだ新参者だけどFlying Lotusと親友になる準備はできているよ(笑)。

– Dan Careyの話が出ましたが彼とも繋がりはあるのですか?

もちろん!彼は本当に良い友達。Benともかなり仲が良いよ。この家から15分のところに彼はいるしね。定期的に会っているし、彼もクレイジーなアイデアと素晴らしいハートを持っているな。

*Dan Carey:Wet Leg、Squid、Fontaines D.C.、Black Country, New Roadなど人気バンドのプロデュースを手掛ける。現在も自身のレーベル〈Speedy Wunderground〉から期待の新人を輩出し続けている、現行UKシーンで最も重要なプロデューサー。

ー 境界線も見出しもなく創作している人たちは美しい ー

– あなたもDanのようにミュージシャンとしてだけではなく、プロデューサーとしても活動していますね。この二つの立場から見て今のUKシーンはどのように映りますか?

そうだね、特にUKの音楽シーンではプロデューサーとアーティストの考え方は、“すべてが1つのものになり始めている”という感じだと思う。僕がプロデュースを始めた頃は父はそのことについて口うるさかったけど、僕はプロデュースやDJをしながら自分のビートを作って、それをプレイすることは本当に良いことだと思う。もし君がバンドをやっていたら、曲を作って、リハーサルして、ギグをしなきゃいけないのが普通かも知れない。けど、今はその逆だと思うんだ。プロデューサーやアーティスト、シンガー、DJになるためには、特定のバンド名やブランド、方向性といった枠にはまる必要はないということを僕はいつもメッセージとして発信して、伝えようとしているんだ。でも僕よりも若い世代では、そんなことはすでに普通のことになっていると思う。今はプロデューサーになるのも、自分のアイデアを出すのも簡単だからね。だからこうした流れはとても健全なことだと思うし、むしろそういうボーダーレスな人たちを育てていくべきだと思う。

昔は、レコードをダブプレートにカットして、レコード盤で再生して、自分の作っているものを人に見せないとか、そういうのが流行ったけど、今は“10分で作って、その日の夜再生して、YouTubeにアップしよう”みたいな文化になっている気がする。以前は、100のビートを作って、そのうちの10を発表する、みたいな感じだった。で、半年後にまた10個、みたいな。この変化の中には、良いこともあれば、悪いこともある。しかし、プロデューサー兼アーティストのような役割は今まさに始まっていることでもあるし、育てるべきものなんだ。

友人にJakariという若者がいるんだ。僕は彼が11歳の頃から知っていて今はもう21歳だけど、彼はギタリストであり、ビートメイカーであり、シンガーでありプロデューサーでもあって。すべてをこなす。ガレージ・ビートを作って、自分の名前で発表して、シンガーソングライターBel Cobainの曲作りにも参加している。Bel Cobainと彼は今年も仕事をする予定で、Jakariはそのやり方で成功を収めようとしているんだ。僕はそれが美しいと思う。境界線も見出しもなく創作している人たちを見るのはいつだって素晴らしい。というのも、昔から僕の頭の中ではDJであるならば、仕事かプロデュースをしていなければならないと思っていたんだ。すでにスタイルが両立していたような気がする。でも、もっと言えばそれはまだ発展途上で、常に方向性を変えることもできると思うんだ。

ー自分の信念が流されてはいけない ー

シングル「Broken Homes」では社会の問題や家庭環境の問題などが歌われていると聞きました。今回このようなことを歌にしようと思ったきっかけやこの問題に対するあなたの考えをお教えてください。

僕は昔から青少年のためのチャリティー活動をたくさんしてきた。音楽を本格的に取り組む前に、副業としてやっていたんだけど、この時に他の人から聞いたような視点を曲の雰囲気に合わせて書きたいと思ったんだ。僕の家庭は美しいけど、貧しいワーキングクラスが住む地域では人々の生活や生い立ちの違いが見えてくるんだ。僕は人々が社会から無視されているという、僕の周りの物語に光を当てたいと思ったし、それに光を当てるべき曲を書きたいと思った。それと同時に、そのような状況に置かれている人たちに対して「そんなんでいいのか?」というようなエンパワーメントを与えたかった。そして人々に光を与えたいと思ったんだ。

誰かに家庭はどんな感じかと聞かれたら「ああ、俺はクールで若くて元気だよ」と答えるかもしれないけど、その思考プロセスの裏には必ず何かがあるんだ。人と人が助け合う力を与え、かつて一緒に働いていた若い人たちに「お前は何でもできる。家がひっくり返っていても、どんなことがあっても、そこから抜け出してより良い場所に行くことができるんだよ」と伝えることができれば良いなと思う。若い人たちに「自分の信念が流されてはいけない」と話しているような曲なんだ。

– レコーディングについてですが、パンデミック前のようにできているのでしょうか?

そうだね、いつもレコーディングしているよ。家からそう遠くないところにあるスタジオにいつも行っているんだ。 バンドメンバーのPhantom J、Jaega、Tagaraとblack midiのギタリストのMattと一緒にいつもレコーディングしているよ。black midiとは話をしたことあるの?

– まだないですけど、いつか話してみたいです。彼らのライブのチケットは取ったんだけど、延期になっちゃって、いつ来るか分からないんです。

今年来るかもしれないね。でも、そのうちわかるよ。間違いない。

*現在、black midiの振替公演は決定している。詳細はこちら

– 今後の予定や目標を教えてください。

とにかくすぐに行動に移して、良いアートを作り続けたいし、インタラクティブなショーもやってみたいね。絵を描くのが好きだから、他の人と一緒に何かアートもしたい。そして、世界中を旅して音楽を奏でたい。あらゆる国に行って、そのすべての国のステージでダイブができたら、僕にとって大きな功績になるだろうね。

– 最後に日本の読者にコメントをお願いします!

近いうちにお会いしましょう。バンドやラッパー、シンガー、プロデューサーに会って、音楽を作りたいんだ。僕はオープンな人間だし、誰に対しても遠慮がない。だから、もし君が僕に挨拶してきたら、中に入ってビールを飲もう。とにかくチルしよう。


■Release Information

ARTIST:Wu-Lu

TITLE:『Loggerhead』

RELEASE DATE:2022. 7. 08

LABEL:WARP / Beatink


■Biography

Wu-Lu

サウス・ロンドンを拠点に活動するヴォーカリスト/マルチ・インストゥルメンタリスト/プロデューサー。これまでリリースしたシングルはいずれも高い評価を受け、すでに世界中のフェスティバルに出演、さらに2021年にはイギリスの名門〈WARP〉に移籍した。勢いに乗るUKバンド・シーンとも密に交流しながら、独自のスタイルでUKの新たなオルタナティブ・ロックの潮流を巻き起こしつつある彼は、待望のデビューアルバム『LOGGERHEAD』を7月8日にリリースした。